*注意*
このお話はパラレルです。学園モノ。
ロイとエドが同い年設定(ただし、ロイが早生まれなため学年はロイが一つ上)
エド高一・ロイ高二で幼馴染。お嫌いな方は注意してくださいませ〜!







「差出人は・・・・・ああ、セレス嬢か」


校舎の裏側。あまり人通りがない、静かな空間。
そんな場所を歩きながら淡い桃色の封筒を裏返したロイは、そこにあるサインを見てそう呟いた。
花をかたどったシールを剥がし、封を開けると、封筒と揃いの桃色の便箋。
それを無造作に取り出すと、ふと気がついたように大木の横で彼は足を止めた。
今日はいい天気で日差しが強い。
通りかかった大木の下の木陰がとても気持ちよさそうに見えて、足を向ける。
幹にドンと背を預け、ロイはやっと桃色の便箋を開いた。

「今日の放課後、校舎裏の銀杏の木の下で・・・・・か」

漂うのは、花の香り。
しかも、それはいつもセレスがつけているコロンと同じ物。
それを、くん・・・と嗅いでから、ロイはふっと笑いを漏らした。

「靴箱に忍ばせておくなんて古風なことをする割には、案外大胆だな」

クックッと笑いながら、もう一度便箋に顔を近づけその香りを嗅いでいると
不意に上から不機嫌そうな声が落ちてきた。




拍手ログF 『片思い』 ・・・1




「おい・・・そこの変態。うるせぇから、何処か別のとこに行ってくれ」


聞きなれた声に、口元に笑いを浮かべ、ロイは上を見上げる。

「おや・・・こんなとこに猿の巣があるなんて知らなかったな」
「てめっ!!誰が猿だ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

生茂った葉の間から、額に怒りマークを浮かべて顔を出したのは金髪金目の少年。

「なんだ。木の上などにいるから猿かと思えば、我が幼馴染殿か」
「・・・・・・てめぇような変態と知りあいだと思われたくねぇから、それ、言うな!!」
「もう学校中で知っていると思うがな?」
「〜〜〜〜〜〜っ、てめぇが新入生歓迎会で言いふらしたせいじゃねぇか!!」

エドはそう言ってロイを睨みつけた。



入学式を終え、少し落ち着いたあたりの日に行われた、生徒会主催の『新入生歓迎会』。
在校生と新入生との親睦を深めるために執り行われるその会は、この学校の伝統。
生徒達がすべて計画・運営し、毎年結構な盛り上がりを見せている。
その会が進む中、恒例の新入生の挨拶が始まり、彼らは壇上に上げられていた。
司会は、生徒会役員のロイ。
彼はジョークを交えながら、壇上に上げられた新入生に次々にマイクを向けていった。

名前と簡単な挨拶。
繰り返される同級生のそれをエドが眺めていると、とうとう自分に順番が回ってきた。

『エドワード・エルリックです。宜しくお願いします』

そう、ありきたりに答え、挨拶を終えたエドだったのだが――――――
自分に向けられたマイクは次の人には向かわず、再びロイの口元に戻った。

そして―――



「・・・ちなみに、彼は俺が小さい頃から可愛がっている、大事な幼馴染だ。
いじめは厳禁。個人的な呼び出しも禁止。
あと――――――交際を申し込む場合は、保護者の俺を通してからにしてくれ?」



肩を抱き寄せられたと思ったら、そう言いながらロイは壇上から皆にウインクして見せたのだ。
エドが呆然とロイを見上げる中、
女子は黄色い声をあげた後、きゃっきゃと笑い。男子もどっと笑いを漏らす。
ふざけて『俺!俺なんかどうですかー?』と立ちあがった2年の男子には、


「不合格。―――どうしてもって言うなら、俺を倒してからにしろ」


ニヤリとそう返して、あまつさえエドの金髪に頬ずりしてみせたのだった。



・・・・・そのせいでエドは入学早々、校内の者は誰も知らぬ者はないほど有名人になってしまった。
まぁ、お陰で同じクラス以外にも友達が沢山できたが、
入学から二月経った今でもその事をからかわれ続けている。
その上、女子などはあからさまに『ロイ狙い』で近づいてくる者もいるし、
あのふざけたロイの態度のせいで、男まで交際申し込みにくるのだ。

今日も昼休みになった途端、そんな男女に追いかけられ。
とうとうこんなところに隠れて昼寝をする嵌めになったエドは、恨みがましい目でロイを睨みつけた。


「てめぇのせいで、妙な意味で有名人になっちまったじゃねーか!」


女どころか、男にまで交際申し込まれるしっ!!
みんな、てめぇのせいだっ!!
そう怒鳴りつけるエドに、ロイは少し微妙な顔をした。

「・・・・・・・それ、俺だけのせいか?」
「他に何があるってんだ!!」
「常々思うんだが、お前は自覚が足りないな・・・・・ところで、交際を申し込みにきた者の名は?」
「は?」
「いいから、教えろ」
「・・・・・・・・・ヤダ。なんでてめぇなんかに」
「ふむ・・・・・まぁ、いい。ハボック辺りに聞けばわかる」
「聞いて、どうするんだよ?」
「言ったろう?――――――俺の眼鏡に適わなかったら蹴散らすまで、だ」

そう言うと、ロイはもっていた手紙を胸ポケットに突っ込んで、両腕を広げた。



「ほら。――――――降りてこいよ」



言われて、エドはうっ・・・と息を止める。
科白だけならともかく、あの腕は。
つまりは――――――あの腕の中に飛び降りてこいと言う意味だろう。

少し瞳を泳がせた後、エドは枝から飛び降りた。
・・・・・・・・・・ただし、着地したのはロイの腕の中ではなく、その隣の地面で。

「・・・・・・折角受け止めてやろうと思ったのに。この腕の立場は?」
「知るか!餓鬼じゃあるまいし、受け止めてもらわなくても降りられるっつーの!」

べーっっと、舌を出して見せるエドに、ロイは不満そうにしぶしぶ腕を下ろした。

「久々にどのくらい重くなったか抱っこしたかったのに」
「あ、あほかっ!!同い年の癖に、人を餓鬼扱いするなっ!!」
「・・・・・確かに年齢を見れば同じかもしれないが、俺のほうが学年は一つ上だ」
「たった一つ上なだけだろっ!しかも誕生日なんか数ヶ月しか違わねーじゃねぇか!」


兄貴面すんじゃねぇっ!


そう怒鳴りつけて、エドは校舎に向かって歩いていく。
それを追いかけて、ロイは隣を歩きながら言った。

「今日の夕飯、エド特製のシチューだって?」
「!?・・・なんで知ってんだよ」
「アルに今朝会った時聞いた。俺も食べに行っていいか?」
「自分ちで食え!」
「7時に行くから。楽しみだな、俺、お前のシチュー大好物なんだ」
「人の話を聞けよ!」

この自分勝手野郎!と憤りながらも、大好物と言われてちょっと嬉しい自分が――――悲しい。
それを誤魔化すように、エドはロイに声を掛けた。


「・・・・・・・・・7時までなんて、来れんのか?放課後、待ち合わせてんじゃねーの?」


胸ポケットの便箋をチラリと見ながら、ぶすっとして答えると
ロイも思い出したように自分の胸元を見て、クスリと笑った。

「妬いてるのか?」
「ばっ・・・・・・なんで俺がっ!!」
「心配しなくても、俺が一番愛してるのはお前だよ」
「・・・・・・っ」

戯れだとわかっていても、その言葉に息が止まる。
体温が、ぐんと上がる。
だが―――――


「なにしろ、俺にはお前を幸せにする義務があるからな」


ロイは、そう言って天を仰いで。
そして、ほとんど聞き取れないほどの小声で呟いた。



それが、トリシャおばさんとの約束だから・・・・・・



・・・ごく小さな呟きではあったが、エドの耳にはかろうじてそれが聞き取れた。
その付け加えられた言葉に、体内の熱が急激に冷めていくのを感じる。

トリシャ。
エドの母親。
―――――そして、母親のいないロイのマドンナだった。

母が病気でこの世を去る前、ロイは母に頼まれたのだと言う。
―――――――――――――――『エドを宜しく頼むわね』と。

ずいぶん前に交わされたその約束を、彼はいまだ忘れずに大切に胸においている。
母と慕い、憧れた女性への思いを胸に―――――――彼はオレを守ろうとしてくれていた。

それは、オレにとって・・・・・嬉しくもあり、苦しくもあること。



だって、オレは――――――――。



エドは顔を僅かに歪めた後、先ほどのロイとのやりとりを思い出して、自嘲的に笑った。


『そういや・・・こいつがオレのシチューを好きなのも、母さんと同じ味だからだった』


コイツの言葉に一喜一憂してるオレって・・・滑稽かもな。
僅かに苦い思いを噛み締めながら、エドはわざと不遜な表情を作りロイを見上げた。

「義務なんてねぇよ!てめぇなんかに幸せにしてもらわなくても、オレは幸せになってみせらぁ!
つーか、てめぇの側にいるほうが不幸になる!!」
「酷いじゃないか・・・・・こんなにも、愛してるのに?」

むぅ・・・と眉を寄せるロイに、エドは再び舌を出して見せた。

「そう言うのは女に言っとけ、このタラシ!
でもまぁ・・・・・隣のよしみで、シチューはお前の分も残しておいてやるよ」

ただし!7時を1分でも過ぎたら、オレの胃袋に入れるからな!
そう言って手を振って見せてから、エドはロイを置いて走り出した。


校舎に入り、一年の教室に向かいながら呟く。



「・・・・・・・嘘吐き男」



『俺が一番愛してるのはお前だよ・・・・・・・・』

普通、甘い科白であろうその言葉は、
オレにとっては酷く苦く感じる。
でもそれは、自分のせい。
―――――――あんな男に惚れてしまったのが、運の尽きなのだ。


「・・・・・アイツの分だけ、激辛にしてやる!」


恋する甘さにの中に、片思いの苦さが交じり合う中。
エドはやけくそのようにそう呟いた。



******



エドが去ってから――――ロイはしばしその場所に佇んでいた。
彼の去った先を見つめ、ため息を一つついてから、思い出したように胸ポケットの手紙を取り出す。

「銀杏の木・・・・・ああ、あれか」

視線を走らせ、その先に木を見つけた。
早く帰りたいのは山々だが、放課後あの場所に行かねばならないだろう。
断るにしても――――――無視したままで放って置くわけには行かない。


だって―――――片思いの苦しさは、俺が一番良く知っているから。


ロイは甘い思いと苦い切なさを感じながら、天を仰いだ。





片思い――――。
それは甘く、苦く・・・・・・・・・・・・・・・そして、切ない。




いつかやってみたいと思っていた、基本設定から違う完全パラレルもの♪
・・・ってなわけで、同い年設定(学年は違うけど)の学園モノ書いてみました。

短編のつもりで書いたものでしたが、続きをとのお声をかけていただきました。
余裕が出来たら、続きを書きたいと思います〜。
期待せずにお待ち下さい・・・・・・(汗)


       MEMO帳へ