「これは、面妖な・・・・・・」
もう日が落ちかけた、夕刻の学園長の庵。
腕を組み上座に座る老人、忍術学園学園長・大川は、そう唸るとしばし黙り込んだ。
「「・・・・・」」
彼の前に座した2人は、学園長の次の台詞を無言で待つ。
1人は、感情を表に表さずに。
もう一人に、不安げに瞳を揺らして。
そして、彼等に付き添ってきて、学園長の横に控える二人もどこか心配げな表情だ。
学園長の前に座る2人は秀作の姿の利吉と、利吉の姿の秀作。
横に控えるのは、伝蔵と半助である。
二人の体と意識が入れ替わってしまったのを聞いた伝蔵と半助は、学園長に報告する事を勧めた。
入れ替わってしまったのは分かったが、元に戻る方法が分からない。
それでも、元に戻る為にはなるべく二人一緒にいたほうがいいだろう、という事になった。
そうなれば秀作は学園の職員であるし、学園長に報告し、協力を願い出るべきだろう。
そして、全員で学園長に面会をし、先ほど事の経緯を説明した所だ。
報告を受けた学園長が最初に発した言葉、それが冒頭の呟きである。
伊達に年をとっている訳でなく、経験豊富なこの老人。
大概の事では驚いたりしないのだが、今回は彼もさすがに面食らった様である。
だが、2人の表情と、付き添ってきた教師達の態度を見て、疑う事は出来なかった様で、
黙り込んだまま、しげしげと2人を見比べていた。
「とにかく事情はわかった。・・・元に戻るまで、利吉もここで過ごすがいい」
「ありがとうございます」
「しかし、不思議な事もあるものだ・・・・・こんな事を見聞きするのは、わしも初めてじゃ」
奇遇ですね、私も初めてです・・・・・(涙)
利吉は、心の中でそう相槌を打つ。
「事情はわかったが・・・・・おぬしら、これからどうする?」
もちろんこれから原因を突き止め、元に戻る方法をさがすのだろうが、個々に今までの生活もある。
入れ替わったままでは色々と不都合がでて来よう?
学園長はそう続けた。
「・・・・・・」
確かに不都合だらけである。
原因も良く分からないのだから、元に戻る方法も分からない。
寝て起きたら戻っているかもしれないし、
考えたくはないが・・・・・一生このままの可能性だってある。
短い期間なら、お互いが相手の振りをしてやり過ごせばいいが、
何日も、となると・・・・
仕事、付き合い、家族・・・・・・・本当に不都合だらけだ。
利吉が答えあぐねて黙り込むと、学園長は察したように頷いた。
「お主らも、まだどうしたらよいか、わからんじゃろうな・・・」
「はい・・・・・」
「利吉、お主の次の仕事まで、猶予があるか?」
「三日ほどなら・・・・・」
「ふむ、ならば今日はもう休みなさい。混乱しているだろうし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・夕食を食べ、ゆっくり寝て、それから考えた方が良い。」
確かに今は混乱していて、何から考えたらいいかよくわからなかった。
「・・・・・は」
「・・・・はぁい」
2人は外見にそぐわない返事をすると、その場を辞すべく立ち上がった。
廊下に出た2人に、後から学園長が声をかける。
「そう心配するな、わしには博識な友人も沢山おる。必ず道が開けよう?」
学園長の言葉に2人は一礼すると、職員長屋の方に歩いていった。
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それを見送った学園長は、教師2人に向き直る。
「まずは、原因を突き止めねばなるまい」
その言葉に、伝蔵と半助も頷いた。
「やはり、額同士がぶつかったのが、一番の原因だとは思うのですが・・・」
「しかし、それだけでこんな事になるとは思えん。他にも何らかの要素がありそうじゃが?」
「でしょうね、とにかく一つづつ整理して、原因になりうるだろう事を特定しなくては」
「そうじゃな・・・・・伝蔵、半助。」
「「は」」
「明日の一時間目の授業は、自習。他の先生方にもそう通達を」
「は?教職員、全員ですか・・・?」
「そうじゃ、全員会議室に集まるように言ってくれ」
だんだん大事になっていきそうな事態に、伝蔵は困惑したような顔になる。
半助も、どこかウキウキとした学園長を見て、
『珍しく良識的な・・・と感心したのに、やっぱり楽しんでるんですね?!』と、肩を落とした。
「まずは、職員会議じゃ!」
学園長はそう言うと、一見好々爺のような顔で微笑んだ。