「秀作、眠れないのか・・・・・・?」
学園長の庵を出て、とりあえず秀作の自室に腰を落ち着けた2人。
2人ともさすがに疲れて、言葉少なに『とりあえず、夕食をとろう』という話になった。
しかし、忍たま達がごった返す食堂に、このままの姿で入り込む気にはなれず、時間をずらす事に。
そのまま特に会話もなく、部屋は静寂に包まれていた。
何をするでもなく半時ほど時間が流れた時、膳を持った土井が訪れた。
「食堂に行く気になれないんだろう?今夜はとりあえず、ここで食べなさい」
土井は労わるような柔らかな視線を寄越しながら、2人を交互に見た。
「下げるのも私がやってあげるから、食べ終わったら廊下に出しておくといい。
今日はとにかく食事をして眠りなさい。休んで、明日ゆっくり考えても遅くはないよ・・・・ね?」
兄のように、いつも自分達を気遣ってくれる彼の優しさが、身にしみる―――――
2人が感謝の意を伝えて頭を下げると、また柔らかな微笑を残して、土井は去っていった。
彼が持ってきてくれた食事を2人で食べ、布団を敷いた。
いつもどおり、置いてあった自分の寝巻きを着たら、裾が引きずるように長くて・・・
隣を見たら、つんつるてんに短い寝巻きを着た自分の姿に、再び脱力しそうになった。
だが、何とか気を持ち直して、寝巻きを交換し、やっと2人は横になった。
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確かに身も心も疲れ果てた気がするのに、寝付く事ができない。
明日考えればよい。
そう、学園長にも土井先生にも言われて、そう思ってるはずなのに・・・やはり。
次から次へと色々と浮かんできて、どうにもならない。
ため息を吐きつつ、秀作の方に目をやって見ると、彼も寝ていないようだった。
布団に入ると速攻で寝てしまう彼にしては珍しい・・・
体が私の体だから、いつもの寝つきのよさは発揮されないのかも?
それにしては、彼の体になってしまった私も寝付けないでいるのだが。
・・・やはり、いつも能天気な彼と言えど、今回の事は堪えているのだろう・・・・・・
そう思い、声をかけたのだが。
返事がない。
不審に思い、よくよく目を凝らしてみると・・・・
震える、肩。
『!?』
利吉は慌てて上半身を起し、彼の肩に手をかけてこちらを向かせる。
そこには、声を出さずにぽろぽろと涙を流す、秀作がいた。
(だたしその『泣き顔』は自分の顔で。・・・一瞬気が遠くなりかけたが、何とか踏みとどまった)
「秀作、どうしたんだ?・・・まさか、頭がいたむのか?!」
意識が入れ替わるくらいぶつかってしまった2人の額には、こぶが出来ている。
そこが痛むのか・・・と思い聞いてみると、ふるふると秀作は首を横に振った。
「・・・・・・・・さい・・・・」
「え?」
「ごめんなさい・・・僕のせいで・・・・・」
そこまでいうと、秀作は両手で顔を覆い、シャクリを上げながら泣き始めた。
「秀作・・・・・」
「いつも・・・ひっく・・利吉さんには迷惑ばかりかけてるけど・・・こんな・・・・ひいっく・・」
入れ替わってから妙に口数が少ないのは、彼なりにショックをうけているのだとは思っていたが、
それは、入れ替わってしまい、他人の体になってしまったことへのショックだと思っていた。
だが、彼は『自分の不注意のせいだ』と、ずっと自分を責めつづけていたのだ―――
『私とした事が・・・・』
自分もいっぱいいっぱいで、秀作を思いやる事が出来なかった。
それどころか『自分の顔』が不安げな表情になっているのを見たくなくて、彼をまともに見ていなかった。
そんな私の態度を『きっと、怒っているのだろう』と、秀作は思い込み、落ち込んでいたのだろう。
きっかけは秀作が鐘つき場から落ちた事とはいえ、入れ替わったのは・・・天災みたいなものだ。
彼を責めるつもりなど微塵もなかったのだが、責任を感じている彼にはそうは思えなかっただろう。
自分を責めて、責めて・・・
そしてこちらに許しを請うような視線を、寄越していた筈なのに。
ただ『情けない顔の自分を見たくない』というだけで、無意識に目を逸らし視線に気付かずにいたのだ。
その事も、秀作を傷つけていたに違いない。
『泣かせて、どうする!』
入れ替わって、見た目は『自分の姿』とはいえ、中身は愛しい恋人なのに。
利吉は自分の迂闊さに、歯噛みした。
「もう・・・ひっく・・・僕の事・・・嫌いに・・ひっく・・・なっちゃいましたよね?」
顔を覆ったままそう聞く、秀作の頭をそっと撫でる。
秀作は、ビクリと体を揺らした。
「秀作、こちらをみてくれないか?」
なるべく優しい声で話し掛ける。
口から出たそれは秀作の声のため、思いのほか優しい響きになったようだ。
秀作はそれを聞いて、恐る恐る顔を覆っていた手を目の辺りだけずらして、こちらを見た。
目の前の顔が優しげに微笑んでいるのをみて、彼の体から力が抜ける。
利吉はそれを見て取り、もう一度頭を撫でた。
「嫌いになるわけが、ないだろう・・・・・?」
利吉は、秀作を見つめて囁いた。