ちぇーんじ♪・・・その四



「え?」

利吉の言葉に、秀作は泣くのも止めて、ぱちくりと目を瞬きさせた。

「君はわかってないね・・・私の君への気持ちは、そんなに軽いものではないよ?」
「あの・・・・・?」
「確かに、きっかけは君の不注意かも知れないが、こんな事、誰が想像できる?
・・・・・原因も分からないし、君だけを責める気などないよ」
「利吉さん・・・・・」
「自分だけを責めて、泣いたりしないでくれ・・・私が君に泣かれるのに弱いの、知ってるだろう?」

悪戯っぽく笑うと、秀作はやっと笑顔を見せた。

『良かった・・・・・』

本当に秀作の涙に弱い利吉は、ホッと胸を撫で下ろした。
確かに自分の姿になってしまってはいるけれど・・・・彼にはやはり笑顔が似合う。

だが・・・・・入れ替わったことで忘れていたが、かなり危険な状況だったのを思い出す。
地面に激突していたら、命すら危うかったかもしれない・・・・・
ここは、やっぱり注意しておかないと!
体を起し、あぐらをかいて、息を大きく吸い込む。

「ただし!!」
「はい?」
「入れ替わったのは別として、本当に君は不注意すぎる!!」
「はいっ」

急にいつものように叱咤され、秀作はガバリと起き上がると、正座した。

「あの時私が通りかからなかったらどうなっていたと思ってるんだ?!もう少し気をつけなさい」
「す、すみません、気をつけますっ!」
「・・・・・よろしい。今後は注意するように」

チラリと彼の顔を窺うと、叱られてシュンとしながらも上目づかいでこちらを見てくる。
顔は違うのに、それは、叱られた時のいつもの彼の表情で・・・・・

思わず笑いがこみ上げた。

「ククッ・・・・」
「利吉さん?」

急に笑い出した利吉に、秀作は一瞬きょとんとして、
そして、頬をぷくっと膨らませた。

「笑う事ないじゃないですか!!」

僕、真面目に反省してるのに!!そう、口を尖らす。
その顔も、また彼らしくて・・・・・

確かに、そこに居るのは『彼だ』と改めて実感した―――――

そうだ、たとえ姿が違ってしまっていても、
彼は彼。私は私・・・・・だ。

自分の顔だからといって、目を逸らしていては先に進めない。
それでは、原因を突き止めることも、これからの対策を練ることも出来ない。

・・・・・何より、ギスギスとした距離をあけたまま、秀作と過ごすのはごめんだ。

「秀作、すまない・・・・・」
「え?」
「私が君から目を逸らしていたのは、怒ってるからじゃないよ?」
「違うんです・・・・・か?」
「君が、私の顔になってるからだよ。流石にね、自分の顔じゃあ・・・・・」

抱きしめるのも、躊躇してしまうだろ?

顔を彼の耳元に寄せて、そう囁くと、秀作はカーッと真っ赤になった。
赤くなって俯く姿は、なんだか可愛らしく見える。

『こんな顔すると、私もなかなか可愛いじゃないか?
中身が彼だと・・・例え、父上の外見でも可愛く見えるかもしれないなー?(笑)』

想像して、また可笑しさがこみ上げる。

「確かに自分の顔だと・・・・・その・・・僕も、甘え辛い・・・ですね///」
「だろう?・・・でも、今思ったんだが・・・秀作、目を瞑って?」

素直に目を瞑る彼を確認し、自分も瞳を閉じて、

そして彼を抱きしめた――――

ピクリと彼は体を揺らしたものの、素直に体を預けて寄越す。
身長差があって、少々無理な体勢だったので、
膝で立つようにしてから、また抱きしめ直した。

「ホラ、こうして瞳を閉じて抱きしめあえば、良いだろう?」

私は君を抱きしめて、君は私を抱きしめている
こうすれば、いつもと同じ事じゃないか・・・・?

「はい・・・そうですね」

彼の声色に、嬉しそうな響きが混ざる。

「利吉さん、本当に、ごめんなさい」
「もう、いいって言ったろう?」
「はい・・・でも、やっぱりちゃんと謝りたかったんです」
「わかったよ・・・・・」

腕の中で、謝罪を繰り返す彼に、利吉は抱きしめる腕に力を込めた。



あとがき

入れ替わってさえいなければ、もっと『あまあまラブラブ砂吐き展開』になるとこなのにな・・・
書き始めてから、『この小説ってラブラブしずらいストーリーだわ!!』と、
改めて、気が付きました・・・・・・(アホです)
いや、それではやる気が起きない!!!(結局それだけが書きたいらしい・笑)
という訳で・・・力技を使って、少しラブラブな展開に持ち込みました(笑)

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