ちぇーんじ♪・・・その五



「父上・・・・・これは、どういうことでしょうか?」
「・・・・・・・・見ての通りだ。学園長の配慮・・・・・でな」
「配慮ですか・・・・・・・・(ため息)」

『できれば、内々に何とかして欲しかったなぁ(涙)』
そう肩を落とす息子に、父は同情を込めた視線を向けたのだった・・・・



******



昨夜は、秀作と抱き合ったまま眠った。
朝、目を覚ますと、一番最初に目に入ったのが自分のドアップで・・・・・腰が抜けそうなほど驚いた。
深呼吸してやっと落ち着き、昨日の事を思い出した。

『そうだ・・・秀作と入れ替わってしまったんだった・・・・・』

『朝になったら元に戻っているといいなぁ』などと、はかない望みを胸に眠ったのだが、
やっぱり、そう都合の良いことにはならなかったらしい・・・・。
利吉はため息をつきつつ、そっと自分の体に絡み付いている秀作(外見は自分だが)の手を外し、起き上がった。

「ん・・・・・・」
「ああ、起してしまったかい?秀作」
「あ、利吉さん?おはようござ・・・・・・・うわわぁーーーー?!」

目を擦りながらこちらを見上げた秀作は、言葉に詰まってから・・・・・絶叫した。

・・・やはり、お互いに慣れるまでには、かなりかかりそうだった――――



******



そんなこんなで起きた二人は、朝食も部屋で取ることにして。
食べながら今後の事などを話していると、半助に会議室へ呼ばれた。
訝しく思いながら秀作と連れ立って、来て見れば・・・・・全教師のお出迎え。
どういうことか・・・と思いつつ視線を動かせば、父が気の毒そうにこちらを見ていた。
『あのお祭好きな学園長が、ひっそり済ますわけがなかったか・・・・・』
ガックリと肩を落としたところに、当の学園長がやってきた。

「おお、皆あつまっているようじゃな?」
「「「「「学園長先生、おはようございます」」」」」

皆の挨拶を受けて、「おはよう」と受け答えてから、学園長は利吉と秀作を手招いた。
二人が学園長の傍らに立つと、学園長はまた教師達に向き直る。

「皆に集まってもらったのは他でもない。緊急事態が起こったからである」
「緊急事態?・・・・・・・・前の二人に関係あることですか?」

皆の気持ちを代弁するように鉄丸が声を上げる。
それに、頷くと学園長は視線を二人に寄越した。


「実はの、昨日この二人体と心が入れ替わってしもうた」


どよどよっ。
どよめく教師達を手で静止、学園長は新野を呼ぶ。
呼ばれた新野は、昨日の事故のあらましと、医療の分野では説明がつかず治療法が分からないことを告げた。
説明が終ってシンと静まり返った室内に、学園長の声が響く。

「と、まぁ・・・・そんな訳じゃ。先生方に集まっていただいたのは他でもない。
似たような症例を聞いた事はないじゃろうか?噂話でも何でもかまわん。とにかく情報が欲しい」

そう言う学園長に皆は顔を見合わせた。
説明を受けた後ではあるが、皆の顔にはまだ戸惑いと、疑いの色が色濃く残っている。
そんな中、野村が手を上げた。

「残念ですが、私は今までそのような話は聞いた事がありません。それにしても―――――
学園長や新野先生のお言葉を疑うわけでは有りませんが・・・・・どうにも信じがたいのですが?」
「うむ、それも無理からん事ではある。だが、これは利吉の父の伝蔵も確認済みの事実じゃ」
「山田先生が・・・・・?」
「うむ。父親も確認しているので間違いはない。・・・この二人は本当に困っておるのじゃ。
誰も聞いた事がなければ、先生方には手分けして情報を集めてもらいたいと思っておる」
「は、それはもちろん。しかし・・・・・本当にそんなことが・・・・・」

そこまで言われても未だ半信半疑の教師達がざわつく中、すっと影が動く。
それは一歩前に出た、秀作の姿だった。


「皆様に申し上げます」


凛とした口調に、ざわめきがぴたりと止まる。

「皆様方に多大なるご迷惑をお掛けする事になり、本当に心苦しく思っております。
ですが、今回の件につきましては、入れ替わった当の私達ですら何も分からず困惑しております。
正直、治療法どころか入れ替わった原因さえ分からない状態で、藁にもすがりたい思いなのです。
このような非常識な事、信じられない皆様のお気持ちは重々分かってはおりますが、
実際に私、山田利吉と小松田秀作君は入れ替わっているのです。
困窮している私どもに、是非、博識・経験豊富な諸先生方のお力を拝借したく、お願い申し上げます」

秀作(の姿の利吉)は、よどみなくそう一息に言うと、ピンと伸ばした背を傾け、スッと礼をした。
それを見て、後にいた利吉がわたわたと慌てたように、ぺこりと頭を下げる。

二人を交互に見つめつつ、教師達はあんぐりと口を開けて。



そして、全教師が『事実』を確認したのだった―――――――――――



あとがき

もう誰も続きなんて期待していないと思いつつも・・・更新してみました(乾いた笑い)
終れるかどうか、まだまだ不安ですが・・・・・思いついた時にまた書いていきたいです・・・
それこそ、ひっそりと。(笑)

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