「鋼の、飲むな!!」
「ん?」
だが、すでにエドの喉はコクリと音を立てて上下に動いていた。
そして、エドは自分を呼んだロイを振り返る。
―――絡み合う視線。続く沈黙。
最初に口を開いたのは、ロイだった。
「…飲んだのか?」
「え………ダメだった?」
その言葉に、ロイは顔色を変えて立ちあがった。エドの前に進み、彼の両肩を掴む。
「体は?何ともないか!?」
ロイの険しい表情に、エドは怯んだように体をピクリと震わせて、不安げな声を出した。
「え?何ともない……と思う、けど?」
「本当か!?」
「う、うん…」
その答えにロイとハボックは顔を見合わせ、そして二人揃ってホッと息を吐いた。
「なぁ、何か不味かったのか?」
「ああ…別に何ともないならそれでいいんだがね」
もしや、薬の量が少なかったのかもしれない。ハボックが入れたのはほんの一、二滴だったし…それが入った紅茶も、飲んだのはたったの一口だ。
『少量の為、効果がなかったのかもしれん…』
そんな事を考えながらエドを見つめていると…不意に、彼の瞳が不安そうに揺れて。やがてシュンとしたように、彼は俯いてしまった。
彼らしくない態度に、ロイは首を傾げる。
「鋼の?」
「ごめん…なさい」
「ん?」
「アレ、飲んじゃいけなかったんだろ?俺、勝手に飲んじゃったから、大佐、怒ってんだろ?」
「いや、怒っているというか…」
「俺の事、嫌いになった…?」
「………は?」
彼は何を言っているのだ?
ロイはあっけに取られながら、改めてエドの顔を見つめる。
見つめて、息を飲んだ。目の前で、ぽろりぽろりと水滴が零れていく。
―――零れているのは、エドの涙だった。
「きらわ…ないで」
零れ落ちる涙と同時に、彼の唇から零れたのは、震える声。ロイは瞳を見開いた。
「はが………」
「大佐に嫌われたら、オレ……生きていけないよ」
エドは震える手を伸ばし、ロイの軍服をきゅっと、握った。
「大佐、好き………お願い、嫌わないで?」
そのまま自分の胸に顔を埋めるエドを見下ろして…ロイは、ゴクリと唾を飲みこむ。
顔を上げると、真っ青になったハボックと目が合った。
胸に、しゃくりを上げながら擦り寄るエドをひっつけたまま、男二人は青い顔でしばしの間微動だにせず、立ち尽くしていた―――