・ 物語のように愛を囁いて ・ 
〜シンデレラの夜番外編・書き下ろし〜

 

「兄さん!大ニュースだよ!」

ここは東方司令部の食堂。
エドワードが朝食とも昼食ともつかない食事を食べていると、突然アルフォンスが駆け込んできた。

「どうした、アル?珍しいな…」

慌てたように珍しく大声を出すアルフォンスに、エドワードは首を傾げた。
穏やかで、弟ながら自分より落ち着いた性格のアルが、こんな風に騒ぐのは珍しい。

「いや、まて…!前にも似たような事があった気がする!?」

 しかも、その後色々大変な目にあった気がするっ!
 エドは記憶を手繰り寄せながら、そう慌てるが…。
だが、アルは兄の戸惑いには気づかぬ様子で、『カシャン』と金属音をたてながら、椅子に座るエドの前に駆け寄った。

「前から探してたハウゼンの『生命の書』を持っている人の居場所がわかったよ!」
「え!マジ?」

 それは、以前から探していた本。稀代の錬金術師と賞賛された人物が書いたとされる本で…多大なる蔵書を抱えるプライス伯爵邸にも無かったものだ。

「すげぇじゃん!どこにあるんだ?」
「ここ(イーストシティ)の近くの町。そこにある孤児院の院長さんが持ってるんだって!」

 どういう経緯かは分からないが、ハウゼン本人から託されたものらしい。
だが、預けた直後にハウゼンは亡くなってしまい…受け取った者は錬金術に明るくなく、その本の価値を知らなかったため、今まで表に出る事がなかったようだ。

「さっき連絡とってみたら、会ってくれるって。ここからなら遠くないし、すぐに行こうよ!」
 そう言って手を引くと、兄はなんだか微妙な顔をした。
「…兄さん、どうかした?」
「いや、なんでもねぇ」

 腑に落ちない顔で見つめる弟の視線を受け流して、エドは立ち上がった――



〜〜〜〜〜(中略)



「では、パーティ会場の準備と……職員劇をするのですが、それに出ていただけないかしら?特に、そちらのお兄さんに出ていただけると助かるのだけれど…」
「ええっ」

 予想外の申し出に慌てる。ハッキリいって、芝居など苦手だ。

「オレ、そういうのはちょっと…台詞だって急には覚えられねぇよ」
「兄さんなら覚えるのは大丈夫だと思うけど、台詞まわしに問題があるかなぁ…。あ!じゃあ、台詞は裏で吹きかえるのはどうですか?」
「それはいいですね。マイクで台詞を言って、それに合わせて演技だけしてくれれば…」
「じゃあ、声は僕がやります!結構そう言うの得意です!」
「ちょ…アル!」

 何でそんなにノリノリなんだよ?
兄の嘆きもどこ吹く風。楽しそうにそういうアルフォンスに、副院長も嬉しそうに頷いた。

「それはいいわ!では、弟さんには声の方で、お兄さんにはソフィア先生のやるはずだった役をやってもらいましょう」
「ソフィア先生…?」

 ギクリとエドは体を強張らせた。ソフィア先生ってことは、まさか…

「まさか、女の役じゃねーよな…?」

 いや、劇団とかじゃなく、施設の劇だし。女でもお爺さんの役とかやってたかもしれないけど。…そう思いつつも、嫌な予感がして聞いてみた。
 すると、副院長は実にすがすがしい笑顔で答えてくれた。

「ソフィア先生は、町でも評判の美人なんですよ。だから、子供達だけでなく町の若者が沢山見に来てくれたりするんです。今回は子供達だけでなく、見学者の皆さんもガッカリさせてしまうと思っていたんですが…あなた、エドワードさんとおっしゃったかしら?その見事な金髪、蜂蜜のような金の瞳!あなたなら、立派にソフィア先生の代役が務まりますわ!」

 そう言って、副院長はにっこりと笑った。



「きっと素敵な『シンデレラ』になりますよ」



「シ、シン……ッ?」

 エドは、すべてを言い終える前に、絶句した。女役ってだけでも嫌だというのに。

『よりにもよって、それ?』

…思わず、眩暈がした―――





書き下ろし『物語のように愛を囁いて』の一部抜粋です。
女装エド、再びv(笑)


back