「はぁ〜」
鋼の錬金術師・エドワード・エルリックは、盛大にため息をつくと、空いていた椅子にドサリと座り、
肩を落とした。
「どうした、大将?」
サボリ・・・いや、仕事の息抜きをしていたハボックは、2本目のタバコに火を点けながら、
そんなエドワードに近づくと、彼の顔を覗き込んだ。
ここは東方司令部、執務室。
エドワードと弟のアルフォンスは定期報告のため、ここを訪れていた。
用事が済み、新しい情報を見つけるべく軍の資料室を漁っていたエドだったが、
手がかりになりそうなものは、何一つ見つからなかったのだ。
「今回の旅も収穫なしでさぁ・・・・かなり期待してたんだけどな」
ふぅ・・・と息を吐き、顔を上げ部屋の天上を見つめる。
そんなエドワードの肩を、ハボックはポンと軽く叩いた。
「ま、そう気を落とすなって。次もあるだろ?」
ハボックの問いに、エドワードは肩をすくめた。
「それがさ、今も資料室を調べてきたんだけど、新しい情報も見つからない。
・・・次の行き先さえ決まらねぇんだよ」
お手上げ。そんなポーズをして見せるエドに、ハボックは苦笑した。
「お前達、今まで忙しすぎたんだから、ここらで少しゆっくりしたら?」
「暇なのは、性にあわね〜!!」
エドは間髪入れずにそう叫ぶと、腕をバタバタと振り回した。
『だろうなぁ・・・』
そこに居たいつもの面々(ハボック・ブレダ・ファルマン・フュリー)は、心の中でそう思った。
このちっこい国家錬金術師は、疲れを知らないように、本当にいつもくるくると動き回っているのだ。
「そういや、アルはどうした?」
ふと、気がついたようにブレダが尋ねた。
そう言えば、いつも一緒にいる弟の姿が見えない。
「アルは町の図書館の方をあたってる」
「なら、そっちの方で見つかるかもしれないだろう?」
ファルマンがそれを受けて宥めるが、エドは首を横に振った。
「さっき電話してみたら、あっちも収穫なしだってさ」
ますます落ち込んでいくエドに、フュリーも慌てて声をかける。
「大佐には聞いてみたのかい?何か知っているかもしれないよ?」
その途端、エドは思いっきり嫌な顔した。
「え〜っ?!また大佐に頼るの〜?」
苦虫を噛み潰したような顔とは、こういう顔かもしれない。
「何かってえと『等価交換』って、無理難題吹っかけるんだもんな。
貸しがあればチャラなんだけど、今はなんもないから、モロ借りになっちまうんだよなー」
本当に嫌そうに話すエドを、フュリーは優しく宥めた。
「大佐は、そんなに酷い人じゃないよ?」
途端、エドだけではなく、そこにいた全員が振り向いた。
「え??何?」
突如、自分に集まった視線にオロオロしながら、フュリーは周りを見回した。
「・・・フュリー曹長って、人が良すぎるよね」
エドの言葉に、全員が「うんうん」と頷く。
「ははは・・・」
乾いた笑いとともに、自分の席に戻ってしまったフュリーと変わって、今度はハボックが提案した。
「借りを作るのが嫌なら、大佐自ら気分よく情報をくれるように仕向けるってのはどうだ?大将?」
ハボックの言葉に、エドはやっと顔を上げる。
「そう出来ればいいけど・・・でも、どうやってだよ?」
なんか賄賂でも贈るのかー?結局等価交換じゃん。
・・・そう言いながらハボックを見ると、いつもの飄々とした笑みを向けてきた。
「色仕掛けとか、どうだ?」
「はあっ?!」
思いっきり間の抜けた顔をしてしまったエドワードだったが、
次の瞬間、思いっきり不機嫌な顔に変わる。
「大佐がエロなのは知ってるけど、オレは女じゃない。
いくらなんでも色仕掛けなんて効くかよ!真面目に考えろよな〜!!!」
プンプンと憤慨しながら、そう怒鳴ったエドだったが・・・
「まてよ・・・」
口元のあたりに手を当てながら、考え込むような仕草をする。
「色仕掛けは無理でも、少しもちあげてみたら、口すべらせないかな?」
権力欲のある奴って、おだてに弱かったりするし・・・。
「大将?」
ハボックが顔を覗くみると、悪戯を思いついたときの、イヤラシイ笑みが口元に浮かんでいる。
『ありゃ、なんか良くない事考えてる・・・』
ここに彼の弟がいれば、絶対そう言うだろう台詞を、ハボックが心の中で呟く。
エドワードは、ハボックのほうを振り向いて、ニヤリと笑うと、立ち上がった。
「ちょっと行ってくる!」
じゃあな・・・と、手をあげて、大佐の居る、司令官用の執務室に向かうエド。
その、後姿を見送りながら、ハボックはボソリと呟いた。
「効果絶大だと思うんだけどなー、色仕掛け・・・」
「たーぃさっ!ちょっといい?」
「・・・なんだね?鋼の」
ドアを開けて覗き込むと、ロイは珍しく真面目に書類らしきものに目を通していた。
「あ、仕事中?邪魔かな?」
大佐が真面目に仕事をしている・・・
こんな滅多にないシチュエーションをぶち壊したら、中尉に撃たれるかも・・・
そんな思いが頭をよぎり、少々遠慮がちに尋ねてみる。
「丁度一段落した所だよ。心配しないで、座りたまえ」
ロイはそう言いながら、近くのソファ―を指し示すと、にっこりと笑った。
『おっ、機嫌がよさそう♪』
キラン☆と目を輝かせたエドワードは、早速作戦を決行するべく、ロイの元へ歩み寄った。
「いや、特に用は無いんだけどさ、暇だから大佐の顔見に来た」
そう言いながら、ソファーには座らず、さり気なくロイの傍らへと近寄る。
「・・・私の顔は暇つぶしか?まぁいい。いつもつれない君にしては珍しいじゃないか?」
失礼な物言いだが、慣れているロイは、特に気にする風もなくエドの顔を見上げた。
「はは、たまにはいいじゃん。・・・しかしさ、凄い量の書類だなー。
・・・こんなのいちいち目を通してるのか?」
机の上の書類を見て、本当にそう思った。これ、何センチあるんだ?厚さ?
「全く、無駄なものが多くて困るよ。もう少し合理的にならないものかな」
心底ウンザリ、といった様子のロイに、エドは心の中で『だったら貯めるなよ・・・』とつっこむ。
いつもなら口に出すところだが、「よいしょ作戦(←仮名・笑)」決行中なので、その言葉は飲み込んだ。
「やっぱりさ、大佐も国家錬金術師の査定って受けてるのか?個人の研究とか、してる?」
「もちろんだよ。国家資格者の義務だしね」
時間が無くて、大変だがね・・・と付け加える。
「毎日こんなに忙しいのに、自分の研究もしてるのかぁ。大佐ってもしかして・・・実はすごい人?」
結構マジで感心してしまうと、ロイはエドを見つめながら・・・面食らったように、瞬きをした。
「今ごろ気付いたのかい?」
ニヤリ、といつもの自信満々な笑顔が返ってくる。
「その自信過剰なとこが気にくわね〜!!」
いつもならそう怒鳴る所だが・・・それでは作戦が台無しである。
そこをぐっとこらえて、エドはにっこりと笑顔を作った。
「いや、本当は前からそう思ってたんだけどさ」
エドの思いがけない台詞に、『おや』といった風に、ロイはもう一度エドをまじまじと見つめた。
「ホラ、その年で大佐で、国家錬金術師だろ?本当はすごい人なんだろうなー・・・とか、ね」
本当はそう思ってたんだよ。もう一度そう言って、にっこり笑ってみせる。
「・・・今日は、随分と持ち上げるんだね?」
いつもはバカとか無能とか、酷い言われようなのに?
そう言うと、ロイはおどけたように肩をすくめてみせた。
「えっ?!・・・い、いや、そんなことないだろっ?!
だいたい、いつも大佐がからかってくるから、つい売り言葉に買い言葉で・・・!
と、とにかくさ、大佐って教養はあるし、知識は深いし、本当は尊敬してるんだぜ、オレ!」
つい、ボロが出そうになるのを、無理矢理作った笑顔で必死に繕ったエドだったが・・・
「・・・なるほど」
ロイは机の上に肘を付くと、指を組み、その上に顎を乗せるようにして、じっとエドワードを見つめた。
「えっ、何っ?!」
つい、エドはびくっと肩を揺らしてしまった。
「今、石の情報が無くて、躓いている所なのだね?」
『げっ、ばれた!!』
途端に焦りだし、顔を引きつらせるエドを、ロイは楽しそうに眺めた。
「ないこともないが・・・一つ貸しになるがね?」
―――錬金術師の基本は『等価交換』。だろう?―――
そう、いつもの台詞を言い、人の悪い笑みを浮かべるロイに、エドはため息をついた。
『やっぱり、そうきたか・・・』
折角慣れないよいしょまでしたのに、結局それかよ!と、げんなりしてしまう。
「・・・わぁーったよっ!!それでもいいから、教えろ!」
・・・と、いつも通り怒鳴ろうとしたが。
その時ふと、ハボックの言葉を思い出す。
『効くわきゃないけど、嫌がらせにはなるかも・・・この女好きな大佐には!』
エドの口元に、また悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
よいしょが効かなかった腹いせに、「どうせ借りを作るなら嫌がらせしてから借りてやろう」
という、悪戯心が芽生えたのである。
「どうするね、鋼の?」
相変わらず、楽しそうな笑みを浮かべてこちらを見ている大佐に、更に近づいた。
「しょうがねぇなぁ、頼むよ」
そう言ってから、胸の前で組まれているロイの手に、自分の手をそっと重ねる。
「でもさ、オレと大佐の仲で、借りだの貸しだのって・・・水臭くない?」
「鋼の・・・?」
突然のエドの行動に、驚いたように目を見開き、固まってしまったロイに、内心ほくそえむ。
『よーし、もう一丁♪』
重ねた手を外し、組まれていた大佐の手を解かせると、その膝の上に座る。
そして、ロイの首に腕を絡ませた。
「ね、大佐。オレのお願い、聞いてよ?」
小首を傾げて、いままで向けたことのない、最上の笑顔でエドは微笑んだ。
「気色悪いマネはやめたまえ。鳥肌が立ってしまったじゃないか!」
心底嫌そうな顔をして、そう怒鳴る大佐―――を想像しつつ、その顔を見ると・・・
予想に反して、そこには呆けたように、ぼーっとしている大佐がいた。
『あれ?』
なんだろう?ショックが強すぎたとか??
「大佐・・・?」
恐る恐る名前を呼んでみると、呆けた顔が一変、満面の笑みでこちらを見つめてきた。
「・・・やっと、私の思いが通じたのだね?」
「・・・・・・・・・はい?」
「まさか、君の方から誘ってくれるとは思わなかったよ・・・」
―――なんだかおかしい!何かわからないけど、ヤバイ気がする!!
いつの間に背中に回された手が、抱き寄せるようにエドの小さい背中を押してくる。
思わず、大佐の胸に手をついて、押し返すように体を遠ざけようとするが、なかなかうまく行かない。
「た、大佐っ!」
な、何か話をしないとっ!!そんな思いで、名前を呼ぶ。
「なんだね?鋼の・・・」
どこか酔ったような、艶っぽい瞳を向けられて、心臓が跳ね上がる。
「え、えと・・・大佐?なんか台詞を間違ってないか?」
「間違ってる?」
「ほらっ、ここはさっ・・・鳥肌たてながら『気色悪いマネはやめろ!』って怒鳴るとこだろっ?!」
しどろもどろになりながら、必死の面持ちでそうまくし立てるエドに、ロイはクスリと笑った。
隙を見て、膝から降りようともがくエドの腕を掴み、引き寄せる。
抱き寄せて、ロイはエドの耳元で囁いた。
「違うね。ここは、抱き寄せて・・・熱い口付けを交わすところだよ」
そのまま、ロイの顔がエドの顔に近づき、唇が重なる直前・・・
「―――何しやがんだっ!!!エロ大佐〜〜〜〜〜〜!!!!」
そう叫ぶと、思いっきりロイの頬を殴りつけ、エドは部屋を飛び出していった。
「おっ!お帰り、大将。首尾は・・・・良くないらしいなぁ?」
勢いよく開け放たれたドアから入ってきたエドは、ゼーゼーと肩で息をしている。
おまけに、なんだか顔色が悪い。
よろよろとハボックのそばに来たエドは、ヘロヘロと近くの椅子に座り、ハボックの机に突っ伏した。
「大将?作戦は失敗したのか?」
「ああ・・・すぐにバレちゃった・・・」
突っ伏したまま、力なくエドは答えた。
「そうだろうなぁ。あの人、カンがいいから」
「〜〜!!そんなん、わかってたなら、最初に止めろよ!」
バッと顔をあげ、食って掛かるも、ハボック相手ではあんまり効果はない。
「いや、何事もチャレンジしてみないと、な?」
子供を諭すような口調だが、顔はニヤニヤと笑っている。
「少尉が言うと、面白がってるとしか思えねぇよ」
「あ・・わかっちゃった?」
「・・・・・(いつかコロス!)」
相変わらず、飄々とした物言いのハボックをギロリと睨んだエドだったが、それ以上怒る事も無く、
また「ぺたん」と机に突っ伏した。
「でも、なんでそんなにヘロヘロなんだ?・・・なんだか、顔色も悪いし?」
訝しげにハボックが尋ねると、エドは突っ伏したまま顔を横に動かし、ハボックを見た。
「あんたのせいだよっ」
「オレ?」
ハボックは、キョトンとした顔で、自分を指差した。
「よいしょ作戦が失敗した後、つい、あんたの提案思い出しちゃってさ・・・」
エドはまた顔を動かし、机の上に投げ出した自分の腕の中に顔を埋めた。
「オレの?・・・って!!えっ、マジにやったのか、『色仕掛け』!?」
驚きながらつい大声で聞くハボックに、そばにいた一同も顔を上げ、注目する。
「いつもどうり、貸しって話になってさ・・・」
ノロノロとやっと顔を上げたエドは、椅子の背もたれにグイと寄りかかる。
「どうせなら嫌がらせしてから借りてやろうと思ったんだよ。
あの女好きの大佐なら、男にしなだれかかられたら、すっげー嫌がりそうだろ?」
「・・・・・」
『確かに他の男がしなだれかかったら、速攻で灰にされそうだが、エドは別だろ・・・・』
ハボックはもちろん、そこにいた聞き耳を立てていた全員がそう思った。
大佐がエドワードに惚れているのは、側近である彼らは皆知っている。
もっと言えば、弟のアルフォンスでさえ気づいているのだが、なぜか本人にだけは伝わらないのだ。
「あわよくば、『渡すから、離れてくれ!』とか、棚ぼたにならないかなー、とか思ったんだけど・・・」
エドはそこまで言って、一呼吸置いた。そして顔を少し赤らめ、また話を続けた。
「・・・・・返り討ちにあっちゃって・・・捕まえられて、キス・・・」
「「「されたのかっ?!」」」
ハボック、ブレダ、フェルマンの3人が立ち上がってそう叫んだ。
フュリーは青い顔をして口をパクパクさせている。
「・・・されそうになったけど、すんででぶん殴って、逃げてきた」
そこまで言うと、エドは疲れたように、また机に突っ伏した。
『結局出来なかったのか、大佐。・・・やっぱり、無能?』
先の3人は心の中でそんな下官にあるまじき、失礼な事を考えていたが、
フュリーだけはシクシクと涙を流していた。
「ちっくしょ〜!!あのヤロウ、嫌がらせを嫌がらせで返すとは・・・・!」
「へっ?」
顔を机に伏せたまま、足を踏み鳴らして呟いたエドの言葉に、ハボックはマヌケな声を出してしまう。
「あのヤローのこった、すぐに嫌がらせって気付いたんだよ!
で、それに乗ったフリをすれば、オレが逃げ出すって、分かってやがったんだ!!」
そうだと信じているらしいエドは、大佐の思い通りの行動をしてしまったのが悔しいとばかりに、歯噛みした。
『いや、それはナイ!!』
皆の、そんなの心の声が聞こえるはずも無く、エドは悔しそうに、しかしどこかおびえたように続けた。
「・・・所詮、あのエロのエキスパートの大佐に、子供のオレがエロで敵うわけなかったんだよな・・・」
いつもは子ども扱いすると鬼のように怒るくせに、今日は自らを「子供」と認めて、ブツブツと独り言を言っている。
・・・・よほど怖い思いをしたらしい・・・・・
ひとしきり、独り言を言い終わると「オレ、帰る」と、エドはヘロヘロと部屋から出て行ってしまった。
しばらくすると、入れ替わりで、右頬を押えながら大佐が入ってきた。
「鋼のは?」
そう問うロイに、ちょっと不審な目を向けながら、ハボックが答える。
「帰っちまいましたよ?」
「そうか・・・帰ってしまったか」
ふう、そう一つ息を吐くと、ロイは自分のデスクに向かい、腰を降ろした。
「大佐ァ・・・」
「差し出がましいようですが・・・」
「プライベートな事に口出しするのは、どうかと思います。でも・・・」
「まぁ、いつかはやらかすと思ってましたが・・・」
ブレダ、ファルマン、フュリー、ハボックの4人は、それぞれに一言口にしながら、最後には声をそろえた。
「「「「犯罪です!!!」」」」
そんな部下の進言を鼻で笑い、ロイは力をこめて言い切った。
「愛があれば、年の差など!」
バックに花まで背負って、自らの言葉に浸っているロイを見ながら、一同はため息をついた。
『それ以前の問題だろ・・・』
一同の心の突込みを気付くことなく、ロイは「もう少しだったのに」となどと、ぶつぶつ言っている。
「ところで、殴られた頬は大丈夫っスか?」
少々、赤くなっている頬を見ながら、ハボックが聞く。
「これでも私は軍人だ。まともに殴られたわけではないよ」
どうやら、自ら身を引いて、威力を半減させたらしい。
・・・その割には、入ってきた時かなり痛そうだったが・・・(笑)
「それにね・・・こんな痛みなど、吹き飛んでしまったよ」
フフフ・・・と笑いながら、ロイは拳を握り締めた。
「やはり、鋼のは私を愛しているらしいことがわかったしね!」
「は?」
ハボックは思わずくわえていたタバコを落としそうになる。
『なんで、殴られるのが愛されてる証拠なんだ?!・・・殴られて、頭、とうとうイッちゃったかな?』
そんな失礼な事を部下が考えているとも知らず、ロイは胸を張って言う。
「なぜならっ!殴りつけてきた手が、左手だった!!」
「・・・・・・」
エドの右手は機械鎧である。
したがって、攻撃の時は生身の左手ではなく、当然、攻撃力の高い右手を使う。
どうやら、その事をいっているらしい・・・
「つまり、アレは彼の照れ隠しという訳だよ♪」
自分の主張に悦にいっているらしく、うんうんと自ら頷いている。
『・・・っていうか、あまりの怖さに、本能的に利き腕(左手)が出てしまっただけじゃあ?』
またもや、部下達は心の中で同じ答えを出しているのだが、
あまりのロイの機嫌の良さに、誰も口に出す事なく押し黙った。
部下達の気持ちなど知る由もないロイは、椅子を回転させて窓の外を見る。
「鋼の、今度は逃がさないよ。・・・覚悟しておきたまえ」
そう呟くと、これ以上ないくらい、さわやかに笑ったのだった。
それを聞いた部下達は『たちの悪い狼に狙われた気の毒な赤ずきん』ならぬ、
赤いコートの少年を思い、涙したとかしなかったとか。(笑)
FIN