『シンデレラの夜』・番外B・・・・『迷惑な人達』

 
「じゃ、オレ達行くから」
「もう、かい?・・・・・寂しくなるな」
旅立つ前の挨拶に、ロイは寂しげに瞳を揺らす。

「・・・・んな、捨てられた子犬のような顔すんなよ・・・・・」
エドはため息を付いて、そんなロイの顔を見つめた。



ここは東方司令部司令室。
ロイと両思いになったエドワードは、数日東方に滞在していたのだが、
リゼンブールに単身帰っていたアルが今日合流してきて、兄弟はまた旅立とうとしていた。


「・・・そんな情けない顔になっているかい?」
「ああ、すっげー情けない顔になってる」
「まいったな・・・・・・君の前では、いつでも格好良い私でいたいと思っているのだけれどね」

ロイはため息をついて、首を横に振る。
エドは、ますます呆れ顔で、悪態を吐いた。

「・・・・・元々、アンタの事『カッコイイ』だなんて、思ったことねぇよ!」
「酷いな。・・・・・仕事をする私に君が見とれていたのは、つい昨日だった気がするんだがね?」

エドはその言葉にギョッとする。
『見てたのバレてた?!しかも、見透かされてる・・・・!』
ニヤリと不敵に笑われ、しかも、痛いとこをつかれてエドは、赤くなる。

「!!・・・みっ、見とれてなんかねぇ!!アレはたまたまヒマだったから、見てただけでっ!!」
「その割には、声をかけたら盛大に真っ赤になったようだけどね?」
「ばっ!!・・・暑かっただけだって!!」
「相変わらず、素直じゃないねぇ」
「も、いい!!オレ、いくからっ」

恥ずかしさに顔を赤くして、エドは俯いてしまう。
踵を返して、立ち去ろうとするエドの手を、ロイは慌てて捕まえた。

「待ちたまえ」
「なんだよっ」
「すまない・・・喧嘩したまま、別れしたいわけではないんだよ」
それは、悲しいだろう?そうロイは握った手に力を込める。
「誰が、怒らせてるんだよ・・・・。」
むうっとした顔つきでエドは唸るが、握られた手は振り解かなかった。

「今度は、どのくらいで帰ってくるんだい?」
「・・・わかんねーよ。一ヵ月か二ヶ月か?それ以上もありえるけどさ・・・」
状況次第だろ?
わかってるだろうとエドは言う。

「なるべく早く帰ってきてくれると、嬉しいんだが・・・・・」
あんまり放って置かれると、寂しくて死んでしまうよ・・・・・・
そう、ロイはため息をつく。

「ウサギか、アンタは?」

寂しがりやな小動物みたいだろ、それじゃあ?
呆れたようにそう言うエドに、ロイはとぼけたように首を捻る。

「おや、私はそんなに可愛いかな?」
「かわいいわけ、ねぇ!」
「そうだね、ウサギ耳が似合うとすれば、君の方だろ?」
今度着けてみてくれないかい?きっとかわいいよ?
内容をすりかえて、ニヤニヤと笑うロイに、またエドの額に怒りマークが浮かぶ。

「ドサクサに紛れて、変な事いうな!この変態!!」
「変態とは酷いな。・・・・・恋人に向かって?」
「こっ、こっこいっ・・・びとっ・・・って?!」
「違うのかい?」
「違うっ!!」


―――――間――――――


「・・・・・だからっ、そんな捨てられちゃった子犬のような瞳はやめろって・・・・・」
はぁ、とエドは再びため息をつく。

「つれない・・・・・(涙)」
「大人なんだから、もうちょっとしっかりしろよ」
「できない」
「オイ。(呆れ)」
「もう少し・・・優しくしてくれても良いじゃないか?」
「・・・・・子供に、大人が甘えんなよ」
「子供じゃなくて、『恋人』の君に甘えてるんだがね?」

椅子に座っていたロイは、立ち上がって近づき、エドの頬を撫でた。

「甘えられるのは、嫌いかい?」
するりと去って行く手の感触に一瞬目を瞑って、また目の前の男をエドは見つめた。

「・・・オレってさ、長男気質なのかな・・・・・・甘えるより甘えられる方が、いいや」
「私は、甘えるのも甘えられるのも、好きなんだけどね・・・?」
君は、なかなか甘えてくれないね・・・・そう、ため息をつく。
「けっこーアンタには甘えてんだろ?昨日も文献もらっちゃったし・・・・」
「・・・・・・私としては、他の甘え方を期待したい所なんだけどね」

まぁ、それは・・・追々と、ね?

意味深にウインクして寄越すロイに、エドは真っ赤になった後、
「妙な事言ってんじゃねー!!」
そう叫び、拳をお見舞いすべく、腕を振りあげる。
ロイは殴りかかってくる拳を受け止めて引き寄せ、小さな体を腕の中に囲った。

「ちょっ!!」
慌てるエドの耳元に顔を近づけて、『お嬢様方が腰砕けになる』と評判の、魅力的な声で囁く。

「気をつけて行ってきなさい」

そして、私が寂しくて死んでしまう前に帰ってきておくれ?

囲うように抱きしめていた腕をほどき、その両手を、エドのすべらかな頬にあてる。
両頬を手で包み込んで、額をあわせて、蜂蜜色の瞳を見つめた。
エドは、その漆黒の瞳を、じっと見つめかえし、

「・・・・・気には、しといてやるよ」

そう、相変わらず素直でない返事を返した。
だがその瞳の中に、『自分だって寂しい』という思いを見つけて、ロイは満足そうに微笑んだ。

「待ってる・・・・・」
「・・・・・うん・・・・・・」






「だぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

ハボックは、奇声を上げると、短く刈上げた金髪を掻き毟った。
その側には、げんなりとしたロイの側近達の姿がある。

「中尉!!なんとかしてくださいっ!あのバカップル!!!」

近くで、アルフォンスと談笑していたリザは、その言葉に振り向いた。
チラリと、いまだ二人だけの世界に浸っているロイとエドの方を視線をやり一言。

「なんともならないわ」
「ちゅういぃ〜〜〜〜〜〜〜(涙)」

頼みの綱のリザに、あっさりと返されて、側近達は涙した。


自分達の上司が、金色の子供に恋をした。
それは、かなり前から知っていた側近達だったが・・・・・・・
ここ数日、珍しく弟と別行動で留まっていると思ったら、2人の纏う空気が違う。

『どうやら、上司の思いは成就したらしい』

そう結論付けて、からかい混じりに大佐に祝詞など述べた面々だったが・・・・・
照れるどころか、満面の笑顔で惚気を聞かされて、閉口した。
エドと一緒に居る時は、エドが恥ずかしがって怒る為、『言葉だけ』は惚気を聞かされているときより
少しはマシなのだが・・・・・・

甘い、とにかく甘い!!

声も、仕草も、2人の周りの空気までもが、とにかく甘ったるいのだ・・・
たった数日間の事なのに、このピンク色のオーラにやられて、側近達は撃沈寸前だった。

「仕事をサボっているならまだしも、すべて終わっているのよ。文句がつけようがないわ?」

エドと一緒にいたいがため、ロイは驚異的なスピードで仕事を終わらせているのだ。
「エド君が嫌がっているようなら、セクハラで一発お見舞いしてもいいのだけど、違うみたいだし。」
エドもつれない態度はとっているが、傍から見てロイと離れたくないのがありありである。

「恋人達が別れを惜しんでるだけでしょう?かわいいものじゃない?」
仕事が速く片付いて上機嫌なリザは、気にも留めないようにそう言う。

『かわいい・・・・・・・・・?』

あんな目の毒なバカップルを、『かわいいもの』扱いだなんて・・・・
女って、強い。
他の面々は、そう肩を落とす。

「おい、アル!お前はいいのか?!兄があんなで!!」
「え?ボク」
う〜ん、と少し考えてから、アルフォンスは答えた。

「ちょっと妬けちゃうけど・・・・・兄さんが幸せそうで、嬉しいです」
「・・・・・お前って、本当に兄思いだよな・・・・・・」

ホロリ、と涙を拭ったハボックだったが

「・・・なんかボクも、またウインリィに会いたくなっちゃったな・・・・・」
よし、汽車の中で手紙書こうっと!!
ウキウキとしだすアルフォンスに、固まる。

『そ、そういや・・・・こいつも彼女持ちだった・・・・・・・』

先ほど聞かされたばかりの情報を思い出して、ガックリと肩を落とし、ため息を付く。


「ハボック少尉は、何をそんなにイラついているのかしら?」

リザは、そっとフュリーに問い掛ける。
「・・・・・なんか、また彼女にフラれたらしいですよ?」
フラれたばかりでなくても、一人身にはキツいですけどね、アレ。
フュリーは、ハハハと乾いた笑いで言う。
その近くでは、相変わらずガックリと肩を落としたハボックが、哀愁を漂わせていた。



「お子様達にさえ相手がいるってのに、何でオレだけ・・・・・(涙)」

それにしても、今回ばかりは絶対無理だと思っていたのに・・・・・
チラリと、離れた場所で笑う上司の顔を盗み見る。
女性に対しては、まさに百戦錬磨。向かうとこに敵なし!!のこの上司。
そんな彼が、何をどうしたわけか、同性の、しかもまだ15のガキに恋をした。
確かに、頭は大人より良いし顔は可愛いが、彼は間違いなく子供で。
しかも、性格はやんちゃで、ちゃんと『男らしい』男の子。
言い寄っては、あえなくかわされる上司を何度も見ていた。

『今度こそは絶対無理っスよ・・・まぁ、アンタだって振られることはありますよ、大佐?』

同情半分、いつも見せ付けられていた時の溜飲が下がって、嬉しさ半分。(笑)
なのに、結果はこの通り。
妬み嫉みを通り越して、いっそ拝みたくなるくらいである。

はぁ、とまた一つため息。


でも・・・・・ちょっと勇気が出たかも。
絶対無理だと思ってたあの人たちも、恋人になれたのだ。
諦めていたが、自分だって頑張れば、思いが通じるかもしれない。
高嶺の花と思い、アプローチさえ出来ずにいたひと・・・・・

チラリと、側に立っている彼女を盗み見る。

『オレも、頑張ってみようかなぁ・・・・?』



「あ、復活した」
ユラリと上体を起し、タバコを吸い始めたハボックに、フュリーが呟く。

「・・・・・今度は、オレがそろそろだめだ」
「私もです・・・・・」
入れ替わりで、ブレダとファルマンが机に突っ伏した。

「皆さん、しっかりしてくださいよ〜〜〜!・・・でも、ボクももう駄目かも」
パタリ、とフュリーまでもが、突っ伏す。

「屍、累々ね・・・・・」

リザがため息つきながら呟く。
「そろそろ、止めた方がいいですか?」
それを聞き、アルは首を傾げるようにして、お伺いを立てた。
「そうね・・・大佐の仕事は終了しているけれど、このままじゃ他の人が使い物にならなくなるわ」
「わかりました。兄さ〜ん!!そろそろ出発しないと!」

ガシャガシャとアルが兄に駆け寄り、そして2人は挨拶をすると旅立っていった。






ロイが執務室に帰っていった後、誰ともなく呟く。

「・・・・どうやっても、迷惑な人達なんだな・・・・・・」

付き合う前も、ロイがエドにちょっかいかけては、その辺のものをぶち壊され・・・
その後始末は、いつも自分達がやらされていたのだ。
付き合い出したら出したで、砂糖を吐きそうなくらいピンクのラブラブオーラを振りまかれ、
精神的ダメージを与えられる始末である。

ケンカしても、仲良くても、大迷惑。

「ホント、傍迷惑な・・・・・・(涙)」

静かになった司令室に、哀愁漂う男達のむなしい台詞が響いた――――



『迷惑な人たち』・・・終わり



『シンデレラの夜』後話第3弾。またもや甘いの目指しました!!(笑)
どんな状況になっても、お騒がせな人たちってことで(笑)
ちょっとだけ、「ハボアイ」「アルウィン」風味で♪
リザさんもハボさんも大好きなので、くっついてくれると嬉しいんだけどなぁ・・・・・・



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