『シンデレラの夜』・番外@・・・・『幸福』

 
「ただいま・・・・・・・」
「兄さんっ?!」

突然宿に帰ってきた兄に、アルフォンスは驚きの声を上げた。

「?何で、そんなに驚いてるんだよ・・・?」
「え、あ・・・だって・・・・・・・・・」

イーストシティに兄を送り出したのは昨日の事である。
口では『さっさと断ってきたら?』みたいなことを言って送り出したのだが・・・
会えば、好きあっている2人が離れる事など出来なくなると、確信していたのだ。
めでたく両思いになって、しばし2人きりの幸せな時間を過ごしてくるのだろうと思っていた。
なのに、予想に反して兄は早々帰ってきた。
セントラルとイーストの移動時間を考えると、どう考えてもゆっくり過ごしてきたとは思えない。
多分、大佐の仕事中にお邪魔して、業務を終えるのを待つ事もなく帰ってきたのではないだろうか?
と言う事は・・・・・・・・

『もしかして、うまくいかなかったのかなぁ?本当に断ってきちゃったのかな?』

兄の顔を覗き込むと、どうやら落ち込んでいるような表情が読み取れた。
それは、自分の考えが当たっているようで・・・アルは慌てた。

『イーストに足を向けさせるために『断って来い』なんて言ったの、失敗だったのかな?!』

兄の恋を応援してやろうと思っていたのに、裏目に出たのだろうか?
どうしたら・・・・・そう考えを巡らせながら、とりあえず、兄を椅子に座らせた。
「兄さん・・・・・大佐とちゃんと話してきた?」
椅子に腰掛けた兄の前に膝まづくようにして視線を合わせ、聞いてみる。

「ああ・・・・・・・それで、お前にいわなきゃと思って、すぐ引き返してきた」
「うん」
「オレさ・・・・・・・・」

そこまで言って、エドは黙り込んで俯いてしまう。
言いずらそうにしている兄を、アルは急かす事なく根気良く待った。
しばらくすると、エドは意を決したように顔を上げた。


「オレ、やっぱり大佐の事が・・・・・好き・・・なんだ・・・・・・」
「は?」
「断れなかった。それで・・・アイツと付き合う事になった・・・・・・」

エドはまた顔を俯けて、黙り込んだ。
どうやら兄は自分の審判を待っているようだった。


『まったく・・・・・』

アルは少々呆れた。
落ち込んだ様子で早々帰ってくるから、ハートブレイクかと思いきや・・・・・・
断るつもりで行ったのに、結局思いが通じ合ってしまい、それが後ろめたいらしい。
普通思いが通じ合ったら、しばらくはその幸せ浸って、周りのことは見えなくなってしまうものではないだろうか?
なのに、兄は幸せに十分浸ることなく、出来たばかりの恋人を放っぽって、ここに報告に来たらしい。

『そんなに罪悪感にかられなくてもいいのに・・・・』

恋人に速攻で置いていかれた大佐の心中を思って、アルは少々同情した。
でも、同時にそれほどまでに自分を大切にしてくれる兄に、嬉しさがこみ上げる。
兄に恋人ができるのは、いいことだと思う。
だけど、実際恋人に夢中になってしまい、自分をないがしろにされたらやはり寂しいに違いない。
でも、兄は恋人が出来た今も、自分を1番に考えてくれている様だ。
少し大佐に悪い気もしたが、やはり嬉しかった。
だからこそ、自分も応援してやろうと思う。

「そっかぁ、よかったね!!」
「え・・・・?」

エドはアルの言葉に驚いたように顔を上げる。

「何で驚くの?・・・・・言った筈だよ、僕は元々反対するつもりなんかないんだから」
「あ・・・・そう、だったな」
「うん、僕は賛成。なのに、兄さんが勝手に『終わりにする』って言ったんだろ?」

そう言って、兄の手を取った。

「良かったね、兄さん」
「ありがと、アル・・・・・」

エドは、やっと笑顔をみせた。
恥ずかしそうな、嬉しそうな・・・いつもの兄から想像できないほどの、『可愛い』笑顔。
魅力的な、初々しい笑顔だった。


『あ、やっぱりチョット勿体無いかも・・・・・』

これが、あの人のものになっちゃうんだぁ・・・・・
ちょっと、いや激しくブラコン気味な弟は、やはり少々複雑な心境になる。
『やっぱり、少し・・・・・・寂しい、かな?』
そう思って心中ため息を吐いたとき、兄は目を見開いてこちらを見た。
表情もない鎧の体なのだが、兄は自分の感情が分かってしまうらしい。
慌てて取り繕おうとしたが、兄の表情はみるみる曇っていく。

「アル、お前無理してるんじゃ・・・・?」
「ち、違うよ!!本当に反対してるわけじゃなくって!!」
嫌なわけじゃなくて、言うなれば『娘を嫁に出す父の心境』というか・・・・なんというか。
とにかく応援してやりたいって気持ちは本当なのだ。
だけど『寂しい』と思っているのも事実なので、うまくいい訳ができず、オタオタしてしまう。
それで、ますます『無理をしてる』との確信を深めた様で、兄は俯いてしまった。

「に、兄さん・・・・あの、僕本当に・・・・」
更に言い訳しようとして兄の顔を覗き込むと、意を決したように顔を上げてきた。
そしておもむろに立ち上がり、部屋を出て行こうとする兄に慌てる。
「兄さん、どこ行くのっ?!」
「下に行って、電話借りてくる」
「え、どこにかけるの?」
「・・・・・東方司令部」
「まさか・・・・・大佐に、『なかった事にしてくれ』とか、言うつもりじゃぁ・・・・?」
恐る恐る聞いてみると、兄は無言。 つまり、それは肯定ってことで・・・・・・!

『ダメだ!それは駄目だよ〜〜〜〜〜?!』
応援しようとしてるのに、自らぶち壊してどうする?!
『僕って、やっぱり邪魔者?!』
自分の迂闊さに歯噛みしながら、考えを巡らせる。
言い出したら聞かない、この頑固な兄を納得させるのはどうすれば?
電話に向かおうをしている兄を捕まえて引きとめながら、打開策を考える。

『つまり、兄さんは自分だけ幸せになるのが、不本意なわけだよね?』
鎧の体になってしまった自分へ負い目を持っている兄は、自分だけ幸せになるのを良しとしない。
いつも、自分の幸せをかなぐり捨てても、弟を優先させようをするのである。
『と、いうことは・・・・僕も幸せってことをアピールするしか?!』
アルは、そう結論付けた。

「待って、兄さん!!勘違いしないでよ?」
「アル?」
「本当に、僕は兄さんに恋人ができるのが反対なわけじゃないんだ。ただ、兄さんをとられるようで、少し寂しいなって思っただけなんだよ」
「・・・そっか。でも、お前を寂しがらせるなら、やっぱり・・・」
「心配しないで!!兄さんはすぐに自分だけ幸せになるのを嫌がるけど、ちゃんと僕も幸せなんだ」
「え?」
「黙ってたけど・・・・・僕も、ちゃんと付き合ってる人いるからっ!」

沈黙・・・・・・

「ええええええええええ〜〜〜〜〜〜?!」

そして、宿にエドの絶叫が響き渡った。



******



2人で、呆然と見つめあう。

エドは、弟に自分も知らない恋人がいたと言う事実に呆然。
アルは、咄嗟についてしまった自らの嘘に対して呆然。

そう・・・・自分に恋人がいるなどと言うのは、真っ赤な嘘なのだ。
兄の行動を止める為に、咄嗟についてしまった嘘。
だが、落ち着いて考えれば、すぐにばれてしまう嘘である。
『ど、どうしよう・・・・・・』
焦るアルに、エドはまだ呆然としたように、呟いた。

「だ、誰なんだ、それ・・・・・?」

当然のごとく聞かれた問いに、アルは鎧の体なのに冷や汗が出る思いだ。
だが、いまさら『嘘です』などど言えば、兄は速攻また電話をかけに行こうとするに違いない。
進退窮まって、また嘘を重ねる。

「えっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウィンリィ」

旅から旅へのわが身。咄嗟に思いつく女の子など、限られている。
そして、共犯になってくれる女の子など、幼馴染の彼女しか思いつかなかった・・・

「・・・・・『嘘』だろ?」

名前を言った途端、呆然とした表情が消え、エドはジトリと弟を睨む。
その顔には『見え透いた嘘つきやがって、このバカ!』と書いてある。
表情はないものの、内心顔を引き攣らせながら、アルは更に言い訳をした。

「本当だっては、言いづらくて黙ってて・・・・・・」
「なら、電話かけてウィンリィに聞く」
「え〜〜〜〜〜〜〜?!ま、待ってよ兄さん!!」

捕まえていた腕を振り払って、部屋を出て行く兄を、アルは慌てて追っていった。



******



「・・・・・もしもし、ウィンリィ?」
『あら、エドじゃない?珍しいわね、アンタが電話よこすなんて?』

まさか、またあたしの機械鎧壊したんじゃないでしょうね?!
そうブツブツ文句を呟く彼女の質問は無視して、エドは単刀直入に聞いた。

「聞きたい事がある。・・・・ウィンリィ、お前アルフォンスと付き合ってるのか?!」
『・・・・・・・・は?』
「だから、お前達本当に付き合ってんのかって!!・・・・あ、オイ!アル!!」
エドから奪うように受話器をとりあげると、アルはウィンリィに一気にまくしたてた。

「あ、ウィンリィ?!僕、アルフォンス!!突然ごめんね?あのね、兄さんにこの程めでたく恋人が出来たんだけど、僕に遠慮して別れるなんて馬鹿なこと言ってるんだ!だがら、僕にはウィンリィっていう恋人がいるから心配するなって言ってやったんだよ!2人で、『内緒にしてよう』って言ってたのにどうかなって?思ったけど、つい言っちゃったんだよね、約束破っちゃってごめんね?!」

生身の体だったら、酸欠になってしまいそうなくらいの勢いで一息で言った。
しばしの間の後

『なるほどねぇ・・・・・・・・』

そう、受話器から彼女の声が聞こえた。
『エドに代わって?』
そういわれ、ドキドキしながら兄に受話器を返す。

「ウィンリィ?」
『今、聞いたわよ?やっと奥手のアンタにも春がきたのねぇ・・・・・・これで、こっちも遠慮しないですむわ〜v』
「って、やっぱり本当なのか?!アルがオレに気を使って嘘ついたわけじゃなくて??」
『アルがウソつくわけないでしょ?・・・アンタじゃあるまいし、あたしのアルは正直者なのよ?!』
「あたしの・・・・・・・・・」
その言葉に、エドは呆然と受話器を見つめる。

『ちょっと、聞いてんの?!』
受話器から彼女の怒鳴るような声が聞こえて、エドは慌てて受話器を持ち直す。
「本当、かよ・・・・・オレ、全然気付かなかった・・・・・・」
『アルが、アンタを差し置いて「彼女が出来たって言い辛い」って言うから、アンタにも恋人が出来るまで黙ってようって2人で決めたのよ。アルって、本当に兄思いのいい奴よねーvそう言う優しいとこがたまんないのよね♪・・・・・アルったら、本当に優しいし、アンタと違って女の子の気持ちをわかってるって言うか、そう言う気遣いがすごく素敵だし、もちろん頭だっていいし、その上強いから頼りになるしぃvそれからね、この前だって・・・・・』
延々とアルフォンスの魅力を語りだすウィンリィにエドは慌てる。
「わ、わかったから!!・・・・・惚気んなよ(ため息)」
『そう?残念ね・・・・じゃあ、続きは今度来た時にでも、たっぷり聞かせてあげるから!っていうかバレたことだし、これからはアンタはともかく、彼だけでももっと頻繁に返して寄越してよ?!わかった?・・・ねぇ、アルに代わってよ?』

「・・・・・わかったよ、ああ、うん。今代わる」
兄に受話器を差し出され、アルは受ける。

「ウィンリィ?」
恐る恐る名前を呼んでみると、苦笑したように返事を返された。
『アルも、イロイロ苦労してるみたいね』
「ハハハ・・・・・・でも、ごめんね、ウィンリィ?」
そう申し訳なさそうに言うと、彼女の笑い声が聞こえた。
『後で、説明してくれんでしょうね?近いうちにこっちに来てよ!?』
「あ、そうだね」
やっぱりちゃんと会って、説明してから謝らないと・・・・と、そう思った。
そして、ふと兄が帰ってくる前にかかって来た電話の事を思い出す。
「じゃあさ、明日にでもここ出て、会いにいっていいかな?」

「アル?!」
その言葉にエドはギョッとして声を上げる。
だが、アルは兄の声を無視して、約束をして電話を切った。

「オイ、プライス卿の書庫調べはどうすんだよ?!」
「勝手に決めてごめんね?でも、兄さんが帰ってくるちょっと前に伯爵から電話があったんだ」
「え?」
「なんか、大事なお客様が急に泊まりで来る事になったんだってさ、書庫も使うんだって」
だがら、閲覧は来週以降にしてほしい。そう連絡があったのだ。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜?!」
今度こそ、文献探しができると思っていたエドは、落胆の声を上げる。

「丁度良いし、僕、リゼンブールに帰ってきてもいいでしょ?」
「・・・・・わかったよ」
先程ウィンリィにも『返してよこしてよ?!』といわれた手前、エドは頷くしかなかった。
「兄さんは、大佐のとこに行っていいからさv」
「い、いいよっ、オレは///・・・オレもリゼンブールに行くよ!!」
素直じゃないなぁ・・・などと弟に言われながら、エドはそっぽを向いたのだった。



******



「おかえり、アル♪」
「ウィンリィ・・・・・・・ただいま」

長い時間電車を乗り継いで、アルはリゼンブールに着いていた。
ただし、一人で。
兄に付いて来られては、ウィンリィとゆっくり話すことも出来ないし、まだ打ち合わせが出来てないからボロが出るかもしれない。
そう思い、事前にこっそり大佐に連絡をし、列車がイーストシティに停車した時、待ち構えていた大佐に強引に預けてきたのだ。
とりあえず、これで兄にバレるのを気にせずに、彼女と会話ができる。

昔よく遊んだ、丘の上に一本立つ木の下に、2人並んで腰を降ろした。

「あの、ウィンリィ、本当にごめんね」
「・・・この前の電話で、事情はなんとなくわかったけど・・・・・詳しく教えてよ?」
「実はね・・・・・・」

そこで、アルはことの経緯を詳しく説明した。
聞き終えたウィンリィは驚いたようだった。

「相手・・・って、あの軍人さんなの?!」
「そう」
「男に見えたけど・・・・・実は女、なんてことは」
「ないよ」
「エドが本当は女の子・・・」
「なわけないじゃない」
ウィンリィはよく知ってるでしょ?アルはちょっと呆れたようにいった。

「エドにそんな趣味があるとは知らなかったわ・・・・」
呆然と呟く彼女に、アルは苦笑する。
「って言うか、口説かれまくってからね。ほだされちゃったのかも?」
「ま、エドって自覚はないみたいだけど・・・男にもててたしね?」
「そうなんだよね・・・・ウィンリィは、反対?」
「ううん、アルと同じだよ。アイツがいいなら、いいわ」
「ありがとう・・・・・兄さんもそう言ってもらえるとホッとすると思うよ」

そういって、アルはホッとしたように笑った。

「でね、ついつい口をついて出ちゃった嘘なんだけど・・・本当にごめんね」

ウィンリィには本当に悪い事をしたと思っている。
彼女は自分達のことをよく理解してくれているけれど・・・・・
やはり自分のような魂だけの存在と付き合ってることにされるのは、迷惑だろうと思った。

「もしかして、ウィンリィって付き合ってる人とかいる?」
もしそうなら、僕その人にもちゃんと説明して、謝るからね!
そう、アルは申し訳なさそうに言った。
「もちろん、しばらくして兄さんと大佐の関係が落ち着いた様なら、正直に兄さんに話すから!」
それまで、我慢して自分の嘘に付き合ってくれないかと、懇願した。
そんなアルをウィンリィはしばらく見つめたあと、突然切りだした。



「エドに嘘ついてるのって・・・・・やっぱり後ろめたい?」



唐突な、彼女の言葉にアルは面食らう。

「えっ?・・・・・そりゃあ、もちろん・・・・」

「・・・・じゃあさ、本当にしちゃえばいいんじゃない?」

「え?」

彼女の言った言葉を理解するのに、かなり時間がかかった。
じれったくなったウィンリィが、更に言い募ろうとした時、


「え、えええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!」


表情はないはずなのに、思いっきり慌てているのが分かって、ウィンリィは可笑しくなった。
クスクスと笑う彼女に、やっぱ、冗談・・・なのか、と思い始めたとき。

「言っとくけど、冗談じゃないからね?」
「!!」

先手を打たれて、また驚愕。

「あの・・・・・どうして?」
「なによー!そんなに不満?!」
「いやッ、全然不満とかはないけどっ!!・・・・・でもさ、僕こんな体だし」

もしかして・・・・ウィンリィって兄さんの事が好きだったり、した?
兄さんに恋人が出来て、ヤケになってるんじゃあ・・・・・?
そう、遠慮がちに聞いてみると、頭に『ごいん』という音と共に、衝撃が走る。
彼女の手には、いつのまにやら、特大のスパナが握られていた。

「馬鹿にしないでよっ!!・・・・・そんな安っぽい感情なんかじゃないわ!!」
「ご、ごめん・・・・・!なら、どうして・・・・・」
「アルの事が、好きだからに決まってんでしょ・・・・・・」

アルは固まったまま、俯く彼女を見つめた。

「ヤなら・・・・あきらめるけど・・・・・」
「や、やじゃない!!嫌な訳ないよっ!?」

自分だって小さい頃から彼女が好きだった。
だが、幼い頃告白して、一度振られている上に、こんな体になってしまった。
そんな自分に、彼女が好きなどと言ってくれるのが、どうにも信じられなかったのだ。
慌てて、彼女の肩に両手をかけると、ウィンリィは顔をゆっくりと上げる。
泣きそうなのを我慢しているのか・・・潤んだ瞳に、少し噛んだ唇。

『可愛い・・・・・・・・/////』

アルは、ドキリと胸が高鳴るのを感じた。

「僕も、ウィンリィが好きだよ・・・・・・」

そう言うと、彼女はやっと、笑顔を見せた。
それにホッとしつつ、アルは聞かずにはいられなかった。

「でもさ・・・・・さっきも言ったけど、僕、こんな体だし・・・・いいの?」
硬い、無機質な鋼でできた体。
彼女に触れても、その体温さえ感じる事もできない。

「あたしね、今でも昔のアルの姿、ちゃんと覚えてる」

きっとね、元に戻ったら、すごくかっこよくなってるよ?
背だって、エドより絶対高くなってるに決まってる〜v
・・・・そう、ハート飛ばして乙女ポーズで言う。

「でもさ・・・その姿よりも何よりも、アルの心が好きだよ・・・」

その心は、ここにあるでしょ?そう言って、鎧の胸を手で叩いた。
叩かれた鎧は、中が空洞である証拠のように、『ごいん・・・・』と響く音がした。
でも、その空の中身が、彼女に触れられた所から、何かでいっぱいになっていって・・・・

――――――満たされた気がした。

「それにね、アル?」
急に立ち上がったウインリィを、座ったまま、見あげる。

「その鋼色の素晴らしさが、私以上にわかる女なんて、他に絶対いないんだから!!」
機械おたくらしく、いいわよね〜v鋼色♪などど、おどけてみせる彼女。

無機質な、こんな仮の姿さえ好きだといってしまえる彼女に、感動さえ覚える。

「ありがとう・・・・・・ウィンリィ。僕には勿体無いくらいだ・・・」

そう、嬉しそうに言うアルの声に、ウィンリィは照れくさそうに微笑んだ。

「えへへ・・・・じゃ、付き合って、くれる?」
「もちろん!!こちらこそ、お願いします!」

そして、2人で笑いあった。



******



ロックベル家に帰る道すがら、和気藹々と会話が弾む。

「ところで、エドはあの軍人さんのとこ?」
「うん、無理矢理おいてきちゃったけど・・・・・大佐のことだから、うまくやってるんじゃないかな?」
「最初は驚いたけど、恋愛に鈍なエドには、アレぐらい強引な人の方が合うかもねー?」
「あ、僕もそう思った。純情可憐な女の子とかと付き合ったりしたら、全然進展しないで友達で終わりそうだよねー?」
「言えてる〜〜〜〜〜〜〜!!女の子方が怒って、エド振られそう・・・」
「あるある!基本的に、男でも女でも・・・年上でリードしてくる方があうかもね?」
「そうそう!でさ、意地っ張りだから『好き』って言えないアイツの気持ちを分かってくれる、聡くて精神的な大人じゃないと、続かないでしょ?」
「そうだよねー。そう考えると、意外にあの2人ってベストカップル?!」
「そうかもね。・・・・・でも、なんだか目立つカップルよね」
「わかる?なんかさ、あの二人が並ぶと、嫌に視線が集まるんだよね・・・・・」
「黒と金って、色的にも派手だしね?」
「そう、それになんだか、やたら人をひきつけるオーラがあるっていうかさぁ」
「一人づつでもそうなのに、2人でいたら、ホント目立ちまくるかもね?」
「僕、鎧で目立つはずなのに、あの2人といると、周りの人に気付かれない時さえあるんだよ?!」
「そうなのー?・・・・・でも、あたしは気付かないなんて事、ないからね?」
「ウィンリィ・・・・v」
そっと手を繋いでくるウィンリィに、ドキドキしながら、
その手を、自分の鋼の手で傷つけないように、優しく握り返した。

彼女は、ちょっと照れたように笑ってから、話題を代えてくる。

「そういえば、エドにはずっと前からつきあってることにしてあるんだから、口裏合わせないと?」
「そうだね、いつから付き合ってたことにする?」
「そうねぇ・・・・えーっと・・・」


日が落ちてきた空は、茜色に染まっている。
手をつなぐ、長く伸びた2人の影は、遠い昔を思いださせる。
体温など感じないはずの鋼の手だけれど・・・・・・
昔、手を繋いで帰った時より、暖かい気がした。



―――胸に広がるのは、思い出よりもあたたかくてあまい。そんな感覚だった―――――



『幸福』・・・終わり



アルにも幸せになって欲しかったので、彼の幸福話を書いてみましたv
うちのエドは『弟至上主義』らしいので(笑)アルの幸福なしにはエドの幸福もない気がして(笑)
アルとウィンリィって、結構いいカップルな気がするんだけどなぁ〜?
ウィンリィって、可愛くてカッコイイ女の子ですよね♪
・・・・・連れて行かれたエド、どうなっちゃったんでしょうねぇ?(笑)
あ、セントラルとイーストシティの移動時間は適当なので、つっこまない方向でお願いします(苦笑)



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