その日、セントラルにて――――大総統主催のパーティが開かれていた。
「やぁ、久しぶりですな。ハクロ将軍」
「これはバルサ将軍・・・・・あなたもお変わりなく?」
「相変わらずですよ。皆様方はどうですかな?リコー将軍、マイン将軍?」
ハクロ・リコー・マイン
三人の将軍が談笑する中に入ってきたのが、バルサ。彼も将軍職に付いている。
4人になった将軍達は、一通りの挨拶を終えた後、またとりとめもない話に興じた。
そのうちリコーとマインがお互いの家族自慢を始めた。
「うちは、ようやく息子が士官学校を卒業しましてな・・・・・」
「それはめでたい。あなたの息子さんは小さい時から利発だった・・・楽しみですな」
「ははは、ありがとうございます。あなたのところのお嬢さんは確か妙齢でしたなぁ。
そろそろお輿入れ・・・・・・ですかな?」
「そうさせたいのですがねぇ、うちのじゃじゃ馬は中々言うことを聞きません・・・・・
とは言え、親としては将来性のある若者に嫁がせたいと気をもんでいるのですがね」
「あなたのお嬢さんは聡明でお美しい・・・・・引く手あまたでしょうに。
――――――実は、父親であるあなたが勿体無くて渋っておられるだけでしょう?」
お互いの腹を探りつつも、相手方を白々しいほどに褒めちぎっている。
ボンクラ息子も我侭バカ娘も、あっという間に切れ者息子と絶世の美女に早代わりだ。
・・・・・・・但し、言われた本人は「その評価は妥当だ」と思っているのが、手におえない。
「うちは息子がいないですし・・・一人娘ですからな。
出来れば私の後を継ぐものを・・・と、優秀な士官達を選んで娘に引き合わせているのですが、なかなか・・・・・・」
「さすが、お嬢さんはお目が高いのでしょう?自分に釣り合う者を探すのが難しい事を知っておるのですよ。美人ゆえの悩み・・・・・といったところでしょうな?」
「以前一人だけ娘が気に入ったものがいたのですが、断られましてね。相手方はその後さっさと結婚していまいましたよ。アレがケチのつきはじめだったのか、その後中々良縁に恵まれませんでね」
「それは身のほど知らずの男ですな。・・・・・・もちろん、そんな男は今たいした地位についていないのでしょう?」
「それが・・・・・・・大出世しましてなぁ。今では私たちと肩を並べているのが、なんとも忌々しい
」
「肩を?」
「マスタングですよ。ああ・・・マスタング将軍と呼ばなければならないのでしょうなぁ?」
先日昇進して自分と同じ中将になった若造の事を、マインは皮肉を込めてそう言った。
それを聞いて、リコーも顔を顰めた。どうやら彼もロイのことはあまりよく思っていないらしい。
「あんなもの、すぐにボロが出て降格するでしょう。婿養子になど迎えなくて正解ですよ」
「私もそう思いますよ・・・・・しかも、あの男は男色でしょう?婿にできるわけもなかったですな」
「そう言えば、男と結婚したのでしたな。それではさすがの美女も袖にされるはずだ。
・・・マスタングといえば、以前あなたの下にいましたな?ハクロ殿」
バルサと話をしていたハクロは、話を振られて振り向いた。
「え?・・・・・ええ、あの男が大佐の頃ですな」
「マスタングの『細君』。・・・確か、国家錬金術師だったと思うが、どんな男です?」
「鋼の錬金術師ですよ。ほら、最年少で国家資格をとった。
――――どんな『男』というよりも、私があった時はまだほんの子供でしたがね?」
「ああ、あの!・・・・・今は18・9・・・でしたか?私は実際に会ったことは無いですが、
やはりそっちの気がある子供だったのでしょうな?・・・・・・美少年というやつですか?」
リコーの質問にハクロは鋼の錬金術師の容姿を思い描いて、そして首を傾げた。
「―――確かに顔立ちは美しかったかもしれませんが・・・美少年というより、『生意気なガキ』と言う感じでしたなぁ?・・・・・・・・マスタングにしても、『男色』とは思えなかったが?」
「そうなると・・・やはり、『大総統のご機嫌取り』と言う噂は、当たりなのかもしれませんな」
昔を思い起こすようにそう言うハクロに、マインはそう相槌を打った。
ロイ・マスタング大佐と鋼の錬金術師の結婚。
結婚当時それは軍内部に大きな衝撃を走らせた。
何しろ超有名な国家錬金術師の二人が結婚したのだ。
しかも、どちらも男。・・・つまりは同性で。
法改正された後の、軍人の同性結婚・第一号だった。
そんな兆しもなく急な結婚だった上に、何かと話題の多い二人。
その当時、それはそれは話題になり・・・・軍内部を賑わせた。
それと共に、様々な噂が駆け巡った。
噂、その一
この結婚はお茶目な大総統の命令で、軍属の彼らは断れなかった。
噂、そのニ
色々と女性との浮名があったマスタング准将だが、ホントは真性のゲイで・・・
自分好みの子供を小さい時に引き取り、今まで育てていた。それがエドワードだった。
噂、その三
エドワードは実は元々女性だったのだが、研究時、練成に失敗して性が変わってしまった!
だが、愛し合っていた彼らはそれに怯むことなく愛をはぐくみ、法改正とともに婚姻に至った。
等など、・・・・・・他にも上げればキリがないほど、そこら中が間違った噂にまみれていた。
―――――その噂の中で、一番信憑性が高かったのが、『その一』で。
法改正して、早くその一号を見てみたかった大総統が、ロイ・マスタングに命令し、
それを承諾した彼が、子飼いの錬金術師と結婚した。
その見返りに昇進を果たした・・・・・と、言う噂である。
その噂が一番信憑性が高かった訳は、
・ロイが有名な、いわゆる『女たらし』だったので、ゲイとは信じられなかった事。
・大総統が、その結婚式に出席したらしい事。
・結婚直後に、ロイが少将に昇進した事。
この三点である。
結婚後、鋼の錬金術師が国家資格を返上した為、彼の姿を軍内で見ることも無くなリ、
噂の真相が暴かれる事もないままに、忘れ去られ・・・・・・・・・
うやむやなまま2年の歳月が経って、現在に至っていた。
「ああ、『マスタング夫人』といえば、今日のパーティに出席するそうですよ?」
思い出したように、マインがそう言う。
「ほう?めずらしいですな。結婚してから一度も顔を出したことがないでしょう?」
「さすがの厚顔無恥なマスタングも『男の嫁』など恥ずかしくて出席させられなかったのでしょう?
しかし、今回は・・・何故?」
「大総統が『久々に会いたい』と強請られたから・・・・・とか」
「あの方は相変わらず悪戯好きですな。
それで恥をかかされるのですから、少々マスタングに同情の念が湧きますな。ねぇ、バルサ殿?」
今まで話をただ聞いているばかりだったバルサにリコーが話を振るが・・・・・・・・
彼はこちらの話も聞こえないように、ただ一点を凝視している。
残りの三人が顔を見合わせて、不思議そうにバルサの視線の先を伺うと・・・・・・・・
壁際に、花が咲いていた。
いや、実際の花・・・・・・ではなく。そこに花のように美しい人物が佇んでいるのである。
見事なブロンドは高い位置で一つに結われ・・・流れるように背中や胸に落ちる。
その肌はまさに白磁。遠目でもそのキメ細やかさが分かるようだ。
スラリとしたバランスのいい肢体は、
クリーム色の、一目で特別あつらえとわかる上質なタキシードに包まれている。
壁に背をあずけ、瞳を閉じて佇むその姿はまるで一枚の絵画のようで。
周りのパーティ客の視線を男女問わず集めていた。
「これは・・・・・・・・美しいですな」
「まったく。・・・・・・だが、青年・・・・・ですな?」
「タキシードを着ているし・・・・そうでしょうなぁ」
その美しい人物は、中性的な雰囲気を醸し出してはいるが・・・・・・やはり男性だろう。
美しい顔やスレンダーな体型ではどちらとも取れそうな気がするが、
彼の纏う凛とした空気が男性だという事を表している。
それでも・・・そっち方面の嗜好が無い者でも思わず見とれてしまうほど――――彼は美しかった。
「・・・・・・男性とは、惜しいですな」
「本当に・・・・・ああ、でもバルサ殿は釘付けですなぁ?」
「彼はどっちもいけますからね、・・・私はノーマルですが、あれは・・・・・そそられますなぁ」
「ああ、やはり?実は私も先ほどからどうにも落ち着きません・・・・・こんな事は初めてだ」
ひそひそと噂するリコーとマイン。
そこへ、噂の人物を凝視していたバルサが振り向いた。
「何者か・・・・・・ご存知の方はいらっしゃるか?」
「いや、わかりかねますな」
「私も。・・・・・・ここに来ているということは、どこぞのご子息なのでしょうなぁ?」
「ふむ・・・・・・」
どうやら、本気で狙いたいらしいバルサは、顔を顰めた。
このパーティは大総統主催。
軍関係者(主に高官)や、軍への協力をしてくれる実力者、上流階級の貴族などが集まっている。
どれをとっても、簡単に手を出していいような者がここにきているはずがない。
バルサがため息をついた、その時―――――
「まさか・・・・・・」
「え?ハクロ殿・・・心当たりが」
「心当たりというか・・・・・いや、自信がないが」
「何者なんです!?」
バルサが勢い込んで聞くと、ハクロは少々戸惑ったように・・・・・口を開いた。
「今しがた噂していた、『鋼の錬金術師』。・・・・・彼では、ないかと」
そうハクロが口にした途端、まるで呼ばれたのに気づいたかのごとく、青年は閉じていた目を開けた。
ゆっくりと自分の周りを見回して、その視線が将軍達の方にも向く。
そこで、こちらを見つめているハクロに気づいたらしく、視線を止めた。
将軍達に向けられた、琥珀。
さっきまで静寂な美しさを保っていた青年だが、その琥珀の瞳が開けられた途端、
もっと強い・・・・・『苛烈』と表現しても良いほどの、そんな雰囲気に様変わりする。
―――――それは、息を呑む美しさで。
呆然と見つめる将軍達を見つめ、
青年は壁から背を離し・・・・・・ゆっくりと彼らのほうに近づいてきた。
そして、ハクロの前で、その歩をピタリと止めた。
「ご無沙汰しております。ハクロ将軍」
その声もまた、美しかった――――
『麗しき金色・前編』
『約束』番外・Aです!
今回は2年後の未来話。
相変わらずちょっと耽美気味でごめんなさい(汗)
だって、やんちゃな子供が成長して美人になってるのって、萌えるんです・・・・・・・
前後編って事で、後編に続きます。