『約束』・番外A・・・・『麗しき金色』・・・中編

 
「ご無沙汰しています、ハクロ将軍」


そう言って口元に笑みを浮かべる青年。
記憶にある彼とは、大分様変わりしてはいるが・・・・・
金の髪・金の瞳・・・・そして、何よりあの子供の面影があった。

「君は、やはり鋼の錬金術師なのか?・・・・・・・・・エドワード・エルリック?」
「ええ、そうです。・・・・・もっとも、今はマスタング・・・ですけどね?」

そう言って悪戯っぽく笑ってみせる仕草に、息を呑む。

あの頃より大人になった。
背も伸びて、言動もあの時と比べ物にならないくらい落ち着いている。

そして――――――――見違えるほど美しくなった

確かに素材は良かったように思うが・・・・・・ここまでとは気づかなかった。
さなぎが蝶に変わるように・・・大人への階段を上って花開いたのだろう。
が・・・・・それだけではない。

体に纏った、人を惹き付けるもの。

オーラ?気?・・・・・・・色香?
・・・・・なんと現したらいいのかわからないが、それは内側から漏れ出すもの。
確かに外見はこの上なく美しいが、ただ作り物のように美しいのではなくて、
内側からのもので光を纏ったかのように美しい。

それも、媚びて作り出したものではない。
自然に香る極上なものだと・・・・・・・そう、感嘆せざるを得なかった。

チラリ、と同僚達に視線を走らせる。

自分は完璧にノーマルだし、家族を大事にする方だし。
・・・・・それに、彼の子供時代を知っているから、まだ『驚き』の範囲内でとどめられているが。
他の三人はそうもいかないようだ。
特に、バルサなどは魂を抜かれたようになっている。


「・・・・・・・それにしても、君は随分と面変わりしたな?」
「将軍とお会いしたのはオレが15くらいの時でしたか?・・・・・あれから3年も経ちましたからね」

少しは変わりますよ。そう、苦笑いを寄越す。
ハクロは、”少し”じゃないだろう?と、内心でツッコんだ。

「しかし、珍しいな。・・・・・こういう席は初めてではないかね?」
「オレは不調法者ですからね。・・・・・こんな席には相応しくありません」
「今の君を見る限りでは、そうは思わないが?・・・マスタングは何と?」
「こんな席をオレが苦手なのを知っていますからね。特に、勧められる事もありません」

先ほど他の将軍達が噂をしていた『恥だから』と言う理由を思い出し、
さり気なく聞いてみたのだが・・・・・・・・
やはり、マスタングも彼をあまり積極的に連れてきたがってはいないようだ。
確かに『男の嫁』だが、この美貌なら連れてきてもかまわんだろうに?と、少々疑問に思う。
むしろ、見せびらかしてもいいほどだ・・・・・と思うのだが?

「だが、こういう席に足を運ぶのも大切な事だぞ?・・・ところで当のマスタングはどうしたのかね?」
「ご助言痛み入ります。・・・・・今日は大総統のお供です。そろそろ、顔を出す筈ですよ」

まだ会場に到着していない大総統とどうやら一緒らしい。
この頃大総統は奴が気に入りならしく、よく側においている。
・・・・・・他の将軍が奴を快く思わないのは、そこにも原因がある。
思わずハクロもそれを顔に出してしまったのだろう。

「では、オレはこれで」

挨拶は済んだし、薮蛇にならないうちに退散と思ったのだろうか?
さっさと踵を返して立ち去ろうとしたエドに、バルサが慌てたように後から声をかけた。

「まぁ、まちたまえよ?・・・・・君の夫君がくるまで、少し話をしようじゃないか?」

声の主を一瞥してから、エドは『だれ?』とでも言うように、ハクロに視線を向ける。

「あ・・・ああ。君は会ったことがなかったな。こちらはバルサ将軍。
で、その隣りがリコー将軍・マイン将軍・・・・・皆、マスタングと同じ階級の将軍達だ」
「リコーだ。よろしく」
「マインだよ。君の噂はかねがね」
「・・・・・バルサだ。お会いできて光栄だよ」

そう満面の笑みを浮かべて手を差し出してきたバルサを、感情の見えない瞳で一瞥してから、
エドは口元を笑いの形に作った。

「エドワード・マスタングです。こちらこそ、お会いできて光栄です」

差し出された手に、持ち上げられた白い手が重なろうとした、その時。


「ああ、ここにいたのか。エドワード」


その声に手が止まり、皆がふりむく。
そこには今しがた噂をしていた、ロイ・マスタング中将。
笑顔で近づき、さり気なくエドワードを自分の方に引き寄せた。

エドの髪に軽く口づけを落として、微笑む。

「遅くなってすまなかったね」
「ロイ・・・・・」
「一人で心細がっていないかと心配だったのですが、皆様が話相手をしてくださっていたとは」

「いや・・・・・・・話はこれからするところだったのだが・・・・・ね」

白々しいほどの笑顔に、バルサはムッと唇を引き締めて
そう忌々しげに言って、持ち上げていた手を戻した。

「それは、それは。だが、また後程にさせていただきますよ。・・・・・閣下が彼をお呼びですから」
「大総統が、オレを?」
「ああ・・・正確には、セリム殿がね」
「セリムかぁ!大きくなったろうな」
「君に会うのが待ちきれないようだよ?」

甘さの滲む声でエドにそう言うと、肩に手を回して自分の腕の中にしまいこむような格好で、誘う。
それは、まるで彼の姿を隠すような仕草。

「・・・・・では皆様方、失礼」

そして、先ほどのエドに向けたものとはうって変わった冷たい声に笑顔を貼り付け、
将軍達を振り向いた。

『・・・・・・っ』

顔は笑っているのに、背筋が凍る。・・・・・・そんな眼光。
それを集中的に向けられたバルサは、冷や汗が背を伝うのを感じた。
―――固まる将軍達を一瞥して、彼は背を向けた。

彼らが立ち去ってから、将軍達は内心でホッと息をつき・・・・・そして思った。


『・・・・・”恥だから”じゃない』


自分以外の誰にも見せたくないのだ、あの男は。
彼が自分の伴侶を連れてこない訳を悟って、将軍達は顔を引きつらせたのだった。



******



「・・・・・ガンとばしてんじゃねーよ」
「何を言うんだい?愛しい君にこの私がいつガンなど飛ばしたと?」
「オレにじゃねーって!・・・・・わかってるくせに」
「なんのことだか、さっぱり」
「・・・・・ったく、このオレ様がアンタの立場を考えておとなしくしてやってるって―のに・・・」

本人が喧嘩売ってどうするよ?

・・・・・言葉の通りロイの立場を考えているのだろう。
普段ならありえないほど大人しく肩を抱かれたままで、エドは小声でぶつぶつと文句を言う。

「・・・・・私の為とは、嬉しいね。だが、この件に関しては我慢しなくてもいい」
「は?」
「だから、私の立場を考えてあんな男の手など握らなくてもいいといっているんだ」
「別に、握手ぐらいなんとも・・・・・・」
「私が我慢できない」

キッパリとそう言う男に脱力して、歩を止めて彼を見上げる。

「ガキか、アンタは」
「ガキでも子供でも結構。『キレて暴れる夫』を見たくなければ、他の男に触れたりしないでくれ」
「男同士で夫も妻もあるか!・・・・・その嫉妬深いの、なんとかしろよ」
「愛ゆえだ。許してくれ」

ああ言えば、こう言う。
駄駄っ子のような自称『夫』(何で皆オレを『妻』って決め付けるんだ!?)に、ため息をつきつつ、
エドはまた歩き出す。

「・・・・・大総統の握手も断れとかいわね―だろうな?」
「出来れば、是非。」
「出来るか、馬鹿!・・・・・大体、セリムも男だぜ?アイツきっと抱きついてくるぞ?」
「彼は子供だ、許そう。ただし後二年したら、禁止だ」
「・・・・・・ニ年たったって、アイツはまだ子供だよ・・・・・」
「子供の成長は早い。私はそれを身をもって実感している!!」
「・・・・・(もう、なにもいわん)」

こんな所で小声で言い合っても仕方ない。
エドはそう口をつぐんで、ロイのエスコートに任せてゆっくりと会場を進む。
すると、今まで言い合いをしていて気づかなかったが、結構な視線を集めているのに気が付いた。

「・・・・・なんか、見られてねぇ?」
「君が綺麗だから」
「・・・・・(やっぱ、口閉じてりゃ良かった///)」

エドが再びため息を付いた時―――――



ダダダダダ、ダン!

―――――会場に突然機関銃の音が響いた。


「動くな!!静かにしやがれ!!」



どうにも、この会場には相応しくないダミ声だった。



『麗しき金色・中編』



中編、中編って、なによ!?(爆!)
・・・・・・・・・・・面目次第もございません。
とても後編としてだけでは収まりがつかなかったので、恥を忍んで『中編』なんぞ作ってしまいました。
やっぱ、どうにもこうにも文章長くなるやつなんです・・・・・
今度こそ、後編に続きます。・・・・・・終りますように!!(冷や汗ダラダラ)


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