パーティ後。
途中で材料を調達して家に帰り、二人で食事の準備。
機嫌を損ねたくないと思っているのか・・・・・
ロイはうずうずした様子を見せながらも、約束を守って邪魔はしなかった。
出来立ての食事を味わってから、また二人で片付けて、次は風呂。
一緒に入りたそうなロイを睨んでやると、ため息をつきつつ一人でバス―ルームに入っていった。
オレが入っている間も、大人しくリビングで本を読みながら待っている。
・・・・・・・なんか、今日は聞き分けが良くて、逆に不気味だなぁ・・・・
そんな事を思いつつ風呂から上がってリビングに戻ると、待ってましたとばかりにロイが振り向いた。
自分とおそろいの色違いのパジャマを着ている男の手には、タオル。
「ここにおいで。髪を乾かしてあげるから」
指し示されたのは、自分の膝の間。
くつろぐ時の定位置だ。
満面の笑みに・・・・・・・・・・恥ずかしくなる。
結婚してもう二年も経っているというのに、伴侶の髪を嬉々として丁寧に乾かす男。
今日の嫉妬振りを見ても――――どうやら自分はまだ飽きられてはいないようだ。
恥ずかしいような、鬱陶しいような、嬉しいような・・・・・・・・・・・・ホッとするような。
そんな複雑な思いにひっそりと顔を赤らめながら―――
髪はロイにまかせて、テーブルに置いていた読みかけの本を読む。
正直、結婚した当初は不安もあった。
なんだか大盛り上がりの末・・・・・・・ちゃんとした恋人期間もなく、結婚してしまった。
自分の気持ちにも不安があったけれど、それは生活していくうちに消えていった。
やっぱり、コイツの事好きなんだ――――
何気ない場面場面で、そう思い知らされて。
自分の気持が揺らぐ事はもうないだろう・・・・・と確信した。
ずっと一緒にいたいと、そう思った――――――
でも、相手の気持ちはというと・・・・・・・・やはり自信が持てなくて。
結婚しても、相変わらずもてるし。
街で、親しげに声をかけてくる女達(絶対昔の恋人だ!)は、
綺麗でいい匂いがして・・・・・柔らかそうで。
あまりの自分との格差に・・・・・見えないところで落ち込んだりして。
彼が自分を愛してくれる気持ちに疑いは持たないけれど、(疑い様もないくらい愛されてるし///
)
数年後に変わらない気持ちでいてくれるかというと・・・・・・自信が持てなかった。
激しいくらいの愛を示されて、嬉しくはあるけれど・・・・・
急激に熱くなり過ぎたものは、冷めるのもあっという間な気がして――――怖かった。
ゆるゆると伝えられた熱だったらば、『いつまでもその暖かさが続くのだ』と
・・・そう安心出来るかもしれないのに。
そんな事を思いながら暮らしていたのだが。
・・・・・・・結婚以来、眩暈がしそうなほどの愛を受けつづけたままだ。
それが二年も続けられて・・・・・・・やっと、この頃どこか心に余裕が出来た気がする。
この人は、ずっと自分を愛してくれるのだと・・・・・・やっと、そんな自信が芽生えてきた。
背中に暖かい彼の体温を感じながら・・・これがずっと続いていくのだと、そう思えるようになった。
エドはそこまで考えて・・・ふわりと、微笑む。
『こんな穏やかな時間っていいな・・・・・』
そう思ったとき、
さっきまで髪を乾かす感触しか感じなかったのに・・・それが別の物に変わってるのに気がついた。
「ロイ・・・・・・・さっきから何してんの?」
「ん?―――――消毒。」
エドが考え事している間に髪を乾かし終えたロイは、
次にエドの頭や髪にくまなくキスの雨を降らせていた。
こちらが気がついたと分かったら、ゆっくりと片手を取り、今度は手にキス。
終れば、また片方に。
くすぐったい!!と、抗議しながら振り向けば、今度は頭を押えられて、顔中に落とされる・・・キス。
「ちょ、おいっ・・・・んっ・・・・・なぁ、くすぐったいっ」
「肌が露出していた部分は、重点的に消毒しないとね」
「だから・・・・・誰にも触られてねぇって!!」
大総統にはちょっと・・・・・触られたけど。
そこはふれないでおいた。薮蛇になるといけないから。
「オヤジ達のいやらしい視線に晒された」
途端、憮然とした声が返ってくる。
思い出して、またムカついているようだ。
そんなロイに、エドは呆れたような声を出す。
「あのなぁ・・・・・『妻が思うより夫はもてない』って言うぞ?」
反対だって同じことだ。
自分は愛しているからよく見えるんだろうけど、他の人もそうみえるかというと・・・違うのだ。
欲目で、周り中全て敵に見えているようなロイを、そう非難する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・が。
「君は、相変わらず自分がわかってないっ!!」
・・・・・猛反論されてしまった。
そのまま、自分の『妻』がどれだけ美しくて魅力的か延々と語りだす『夫』に呆れながら、
面倒なので、無視して本をまた読み出す。
『思われてるのは嬉しいけれど・・・・・勘違いで他人に危害を加えるのはやめろよなぁ』
そんな事を思いつつ読み進めていると、ロイも聞いていないと分かったらしく。
声が止まり・・・またキスの感触だけが降りてくる。
これで気が済むんなら・・・・・と、好きにさせておくと。
「・・・おいっ、そこは別に晒されてねぇだろ!!」
いつの間にやら、パジャマのボタンを二つ外されて、あらわになった肩口にロイが吸い付いている。
慌てて身をよじるが、ガッチリと押さえつけられていて、中々うまくいかない。
「服越しでも、不快なんだ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜この、ウルトラヤキモチヤキ男!!」
「君が魅力的なのが悪い」
「自分の狭量を人のせいにすんな!」
「10人中10人が、私の意見に賛成だと思うけどね」
違うと思ってるのは、きっと全世界で君だけだよ。
エドの罵倒に堪えることもなく、ロイはしれっとそう言った。
ったく、ヤキモチ妬きにもほどがある、とか
眼科行って来い!、とか。
ブツブツ文句をいうエドを眺めると・・・ロイはその耳に唇を寄せた。
「ところで、エドワード。・・・・・バルサと何を話していたんだい?」
「ひっ・・・・・・え!?」
「あの男と、会場の隅で話しこんでいただろう?」
「!!」
科白と共に突然耳に吐息を吹き込まれて、飛び上がりそうになったエドだったが、
その内容をちゃんと把握するや否や・・・・・若干顔色を悪しながら、白々しく笑った。
「・・・・・何って・・・・・世間話だよ」
「世間話?」
「いや、ほら・・・セリム助けた後だったから、錬金術を誉められただけだよ」
「ほう。・・・・・その割には熱っぽい視線で見つめられていたようだったがね」
「気のせいだって!!・・・・・・・・・って、いつの間に見てたんだよ」
確かにこちらを振り返ることは無かったと思ったのに?―――もしや、後にも目があるのか!?
そう思いつつ見上げると、不機嫌な顔。
「見られてはマズかったのかい?」
「・・・・・んなこといってね―だろ!!見てたんなら、オレから話し掛けたんじゃないって分かるだろ?」
オレが責められるいわれはねぇ!!
キッパリとそう言い放つと・・・・・・・ロイはうんうんと頷く。
「ま、それはそうだな」
「だろ?ほら、離せよ。この本読んじゃいたいんだから!」
「大方、軍に戻らないか?とか、口説かれていたんだろうし」
「・・・わかってんなら・・・・・・・」
「あの男から離れるとき、なんて言ったんだい?」
「え・・・・・・・」
「かなりショックを受けていたみたいだけれど?」
その科白、聞きたいな――――――
色気をたっぷりと含んだ低音を、耳内に吹き込まれて、ぞくりと背筋が震える。
「あっ・・・・・・・・」
ふるり、と振るえて赤くなったエドを満足そうに眺め、ロイは彼を抱きかかえて立ち上がった。
「答えは、寝室に行ってから聞こうか」
「へ・・・・・ちょ!!オレまだ本読むんだってば!!」
「後でいいだろう?」
止まる気はないらしく、ずんずんと寝室に向かって歩いていくロイに、エドは抗議の声を上げる。
「こら〜〜〜〜〜〜!!人の話を聞け!!」
「うん?だから、ベットで聞くよ。存分に」
聞く耳持たずな『夫』に、少々ムカつく。
『折角穏やかな、いい気分だったのに』
そう思いつつ、彼の胸に手をつき突っ張った。
「離せよ、この嘘つき男!!」
「・・・・・?いつ私が君に嘘を?」
「結婚直後、本をプレゼントしてくれた時に言ったじゃないか。
・・・・・・・・・・・『これからは私の傍らでこの本をゆっくりと読んで欲しい』って!!」
「ああ、そう言えば言ったかな?」
「だろ?!・・・・・・なのに、アンタが側にいるときゆっくり本を読めたためしがないっ!!」
本屋の老主人に教えられた科白を、本人に直に言われた時は・・・・・すごく心が温かくなった。
彼にもたれて本を読む・・・・・そんな穏やかで幸せな時間。
これから、そんな風に時間を共有していくのかと、そう思っていたのに。
だが、実際は。
彼の側でゆっくりと本を読もうとしても、こんな風に途中で攫われてしまうのだ。
それも、十回中十回!100%でだ。(怒)
「なるほど」
「だろ?だから、今日は―――――」
「でもまぁ、いつからって約束したわけでもないし」
「・・・・・・・・・・・・・・・おい。」
ロイの科白に、エドが額に青筋を浮かべる。
だがロイはかまわず、いつの間にかたどり着いていた寝室のドアを開けた。
ベットの前まで来て、やっとその歩を止めたと思うと、ベットの上に降ろされる。
そして、ロイ自身もエド上に圧し掛かるようにして、横になって。
エドの額に、ちゅ・・・・・と口づけを落とし、にっこりと笑った。
「まぁ、後50年くらい経てばそんな時もくるだろうから」
いっそ爽やかなほどの笑顔に、エドは一瞬唖然として。
そして、怒りマークを幾つも浮かべながら真っ赤になって怒鳴った。
「80までこんなことするつもりか!?このエロ中将〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「その頃は、間違いなく大総統になってるよ」
「ば・・・・・・・んっ」
それ以上、エドの罵声は口外に出ることを許されなかった――――――
******
次の日。
ロイが出勤した後、エドはベットの中で身を横たえながら
「もう、絶対パーティなんて行かない・・・・・・」
涙目でそう呟く。
まさか、穏やかな日々が訪れるのは本当に50年後じゃねーだろうな・・・・・。
そうちょっと不安になりながらも――――帰ってきたときの報復を考えるエドだった。
そしてその頃のロイは――――
「さて・・・・・あの男、どう料理してやろうか」
執務室でそんな不気味な呟きを呟いた後、ちょっと思案顔になった。
・・・・・外に出すと必ず誰か落としてきてしまう妻。
『・・・・・・・・・・・ちょっとつけすぎたかな?―――――――色気。』
自らの手で咲かせた花のあまりにも甘い蜜に、嬉しいながらも・・・・・少し反省するロイだった。
さらっと”おまけ”だったはずなのに・・・・・・これじゃ『完結編』と変わんないんじゃ・・・(爆)