ハロウィン・スペシャル
『あまいものをもらえる日』・・・『路の果て』番外編



「Trick or treat!」

ある日の夕方。
執務室のドアが開き、突然そんな掛け声と共にエドワードとアルフォンスが入ってきた。
ただし、いつも赤いコート姿ではない。
エドは黒い三角にとがった帽子をかぶり、黒いマントを羽織っている。
アルは全身オレンジの衣装に、同じくオレンジ色をした、かぼちゃを模した帽子姿だ。

「・・・・・いったい何事かね?」

面食らったように呆然と呟くロイに、エドはニッと笑って見せた。

「だからぁ、『Trick or treat』!!」

「ハロウィンですよ、大佐」

唖然としているロイに、リザが答える。
そして2人に袋を差し出した。

「Happy Halloween・・・・・悪戯はかんべんしてもらえる?」
「ありがとう中尉!」
「ありがとうございます!」

嬉しそうに袋を受け取る二人に、ロイはなるほど・・・と頷いた。

「・・・そうか、そんな時期だったのだな。しかし、いつの間にそんなものを用意していたのだね?中尉」
「今日2人がこちらに来るとの連絡をもらっていたので、昨日のうちに。
・・・・・・・・でも、こんな可愛い格好で来てくれるなんて、思っていなかったですけど」

そう言うとリザは、微笑んだ。
エドは照れたように、少し顔を赤らめて頭を掻いた。

「へへ・・・・子供っぽいかとも思ったんだけど、たまにはいいだろ?」
「兄さんはお菓子がほしかっただけでしょ?」
「いいじゃん!折角のハロウィンだし。見ろよ、この戦利品!」

エドの持った、カボチャ型のバケツには、既に菓子がいっぱい詰まっていた。

「・・・皆、そんなに菓子を持ち歩いているのか・・・?」
「アホか!アンタじゃあるまいし。・・・・・だから、昨日の内に電話しといたんじゃね―か」
「わざわざそのために電話したのかね・・・私が何度言っても、いつもは定期連絡もしないくせに」

この兄弟。・・・特にエドは男女問わず、ここの人気者だ。
整った綺麗な顔に、人を魅了する金の髪と瞳。
そして、その美しい容姿にまるっきり合わない、粗野な言葉と態度。
そのギャプがまた、人を惹きつける。
彼から電話でねだられれば、この東方司令部に勤務する者は、皆嬉々として菓子を用意したに違いない。

『自分の言葉の効果も知らず・・・・・たちが悪いな』
ロイは苦笑しつつ、大げさにやれやれと首を横に振る。

そんな、呆れたようなロイの呟きを遮って、エドは手を差し出した。

「小言はいらん!!・・・ところで、くれんの?くれないの?」

悪戯の方がいいなら、それはそれでいいぜ?念入りにやってやっても。
ニイッと笑うエドに、ロイはため息を吐いた。

「いや、遠慮させてもらうよ。・・・好きなだけもっていきたまえ」

ロイはデスクの一番下の引出しを、引出しごと引き抜いて上に置く。
そこには、いつも通りに甘いお菓子がいっぱい入っていた。

「おお、さすが『甘味大魔王』!!いい品揃えじゃん♪じゃ、遠慮なく・・・・・」

そう言うと、エドは持っていたバケツをアルに渡すと、引出しごと手にもった。

「ちょ・・・・全部持っていくつもりか?!」
「好きだけ持っていっていいっつっただろ?ケチケチすんなよ」

そういうと、じゃーなと手を振りながらエドはさっさと出て行った。
アルはオロオロした後、小さく礼を言うと、兄の後を追っていった。

「引き出しは、置いていきたまえよ・・・・・」

ロイはそう呟きながら、『今日の残業は甘い物無しでこなさねばならんのか』と胸中で涙していた。



******



次の日の朝、エドが司令部の廊下を菓子を食べながら歩いていると・・・
突然、後から羽交い絞めにされた。

「うわっ、なんだ?!」
「Trick or treat・・・・・」

聞き覚えのある、腰にくる低音の声に振り向くと、そこには予想通り・・・・・大佐。
あまりの顔の近さと、密着度にエドはにわかに顔を赤らめ、焦りだす。

「ちょ・・・離せ!!」
「菓子をくれたら放してやる」
「・・・アンタ大人だろ?!もらえる立場じゃねーだろ?!」
「昨日、結局家に帰れなかったんだ・・・・・・」
「は?」
「残業が長引いてな・・・・・結局徹夜になってしまったのだ」
「そ、それがどうし・・・・・」
「君が菓子を引出しごと持っていってしまったから、昨日の夕方から甘いものを口にしていないんだっ!」

そう叫ぶロイ。なんだか目が据わっている。
つまり・・・・・・・・・・・・・・・燃料切れならぬ、『甘い物切れ』状態らしい。


「・・・・・・・ホント、アンタって甘味中毒なのな」

呆れたように、エドはため息を吐いた。
そして、手にもったチョコレートポッキーの箱を見る。
中に残っていたのは、一本だけ。
それをつまんで取り出す。

「今持ってんのって、コレ一本しかねーぜ?」
「・・・・・仕方ない。今買いに行かせているところだから、とりあえずそれでいい」

ロイはやっとエドを離し、寄越せとばかりに手を差し出す。
やれやれといった風に、それをロイに渡そうとしたエドだったが
つい・・・・悪戯心が顔を覗かせる。

ニヤリと笑ったと思うと、エドはその最後の一本をパクリと咥えた。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「ざんねんだなぁ〜?今、なくなっちまった。(笑)」

もぐもぐと口を動かしながら、人の悪い笑みを浮かべるエドに、ロイはフルフルと震えて青筋を浮かべる。

「ま、もう少し待つんだな?」

意地悪にそう言ったとき、突然肩を捕まれた。
エドが目を見開いて驚いていると、グイと引き寄せられて――――



ぱくん



・・・大佐が、自分の咥えているポッキーを半分食べたと気付くまで、かなりかかった。

やっとそう分かったものの・・・・・ロイと唇とエドの唇の間は、一センチも離れていない。
思わず、エドが悲鳴を上げそうになった時、



ぱきん



そう音がして、ポッキーが折り取られた。


「とりあえず、これで今は我慢するか」

ロイが先ほどのエドに負けないくらいの意地悪な笑みを浮かべて、踵を返して背を向けた。
遠ざかっていく背中に、やっとフリーズ状態が解けたエドは、顔を真っ赤にして青筋を浮かべる。

「こっ・・・こんの、アホ大佐〜〜〜〜〜!!子供から菓子とって、それでも大人か〜〜〜?!」

エドの罵声に、ロイは楽しそうに笑いながら立ち去ったのだった。



一人残されたエドは、完全にロイが見えなくなってから、その場にずるずるとへたり込んだ。
その顔は、『これでもか!』というほど真っ赤で・・・・・

「・・・・・・ったく、人の気も知らないで・・・・・・ばかやろう・・・・・」

それでも、昨日たくさんもらった菓子のどれをもらった時よりも、幸せな気分になったエドだった――――



******



その頃執務室では―――――

『ほんの悪戯心でしたことだったのに・・・・・』

先ほどの『みるみる朱に染まっていった』エドの顔を思い出す。
白く滑らかな頬が染まる様は、なんというか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・色っぽくて。
余裕の振りして何とかここまでたどり着いたものの、ドアを閉めてそのまま背をドアに預けた途端、
自分の顔が赤くなっていくのが分かって、片手で顔を覆って呟いた。


「あんな顔されるとは・・・・・・予想外だ///」


少し・・・・・・いや、かなり動揺するロイだった―――――






―――――――あまいおかしをもらえる日
                 いちばんあまいものをもらったのは・・・・・だれ?―――――



あとがき

デパートの食品売り場でハロウィン用のお菓子を見ながら「ああ、ハロウィンなのね」とは思っていたけれど・・・
実は、正直な所、あんまりハロウィンって良く知らなくて(^_^;)
だから特別何かするつもりはなかったんですけど、相方のハロウィンイラストをみたら、ちょっと萌えまして(笑)
『別館でもなんかするかなー』と思って、検索していろいろ見てみたら・・・・ますます萌えまして(爆笑)
2時間くらいで一気に書きました。・・・・子供の昼寝中に。(笑)
『お菓子と言ったら、『路』の甘味大魔王を出すしかない!!』・・・という訳で『路の果て・番外編』となりました。
本編がシリアスで肩凝っていたので、丁度いい息抜きになりました〜♪
少しでもあまあま気分を味わっていただけたのなら、いいのですけれど・・・・・
ではでは、本編の方も宜しくお願いしますvvv

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