「やっべー・・・・・・・・なぁ」
闇の中、エドはロイの家の前でたたずむ。
明かりの消えた窓を見て、そんな呟きが彼の口から洩れた。
今日はクリスマス。25日。時間は・・・・多分11時半あたりだろうか?
本当は昨日のイブにロイと二人で会う約束をしていたエドだったが、
北部から列車で来る途中、大雪に見舞われて列車が一時ストップしてしまった。
約束には当然間に合うはずもなく・・・・・
予定が変わった事を知らせるべく、一時停止した駅の電話に群がる乗客の列に並んでやっとロイに連絡したのは
約束した時間を大幅に過ぎてからだった。
でも、電話に出た男の声はあからさまに不機嫌で。
カチンときて、けんか腰で受話器を置いてから・・・・・後悔。
だって、あの男はそれはそれは楽しみにしてくれていただろうから。
24日に帰るからと電話した時の、子供のように弾んだ声を思い出す。
こそばゆいような気持ちになりながらも、自分としても楽しみにしていたイブ。
・・・・・・・・だって、恋人になって初めてのクリスマスだから。
あの男の事だから、デートプランを色々と考えていてくれたに違いない。
仕方なかったとはいえ、それを全部反故にしてしまったのだ。
それなのに、けんか腰になってしまい・・・・・・めずらしく、反省。
しかも、結局昼に着くことも敵わず、こんな日付が変わる頃の訪問になってしまった。
それでも、彼ならまだ起きていると思ったのだが・・・・・・・家の明かりは消えている。
それとも昨日休暇を取ってしまったので、今日は残業でもしているのだろうか?
司令部に確認してからくれば良かったと、また後悔。
でも、帰ってる可能性もあるしと、呼び鈴をならそうとして・・・・・・手を止めた。
もし寝てしまっているのなら、起すのは気が引ける。
「どうしよう・・・・・・・開いてないかなぁ?」
そう思いながらドアのノブを回すと・・・・・・・・・・あっさりと開いてしまった。
エドは少々呆れながらドアを少し開いて覗き込む。
「まったく・・・・・・・アイツ、自分の立場わかってんのか?」
こんなんじゃ泥棒に入ってくれといっているようなものである。
いや、泥棒ならまだいい。テロリストや軍内部にもアイツの敵はいっぱいいる。
寝首をかかれたらどうするつもりなのかと、少々腹を立てながら室内を手探りで進む。
ようやくリビングのドアを探り当て、そのドアを開いた時――――――――
パチン
聞き覚えのある音とともに、室内に次々と灯りが点っていく。
たくさん用意してあっただろうキャンドルに明かりが点っていく光景は幻想的で美しくて―――
驚きとともに、エドは呆然とその焔に見入った。
「おかえり、エドワード」
声とともに、ふわりと背中から抱きしめられる。
背中から伝わる体温と、彼の匂いに思わずエドは目を瞑った。
そして、ゆっくりとまた目を開ける。
「気配消して背後に回りこんでるんじゃねーよ・・・・・・・」
「気付かないとは、まだまだだね?鋼の錬金術師?」
「・・・・・うっせーよ」
口を尖らせながら首を回すと、悪戯っぽく笑うロイの顔が見えた。
怒っている様子が見えないことに少しホッとしつつ、謝罪の言葉を口にする。
「あの・・・・・・・さ、その・・・・昨日は間に合わなくて・・・・・・・ごめん」
ばつが悪そうにつかえつかえ謝ると、ロイは面食らったような顔をした。
『そんなに驚かなくてもいいじゃないか、どうせオレはいつも素直じゃねーよ!!』
そんなロイに内心ムッとしながらも、ここで喧嘩しては元の木阿弥なので自分を抑える。
ただ、少々拗ねた口調になるのは致し方ないだろう。
「なんだよ・・・・オレが謝るのはそんなに変かよ」
「いや・・・・・・。こちらこそ、悪かったね」
ロイは抱きしめていた腕を緩め、エドの体を回転させて自分の方向けた。
「列車の遅れは君のせいではないのにな。・・・・・・・大人気なかったよ」
どうも、君の事となると私は自分を見失うらしい。
自嘲的に笑って、ロイはエドの顔を覗き込んだ。
「許してくれるかい」
「ん・・・・・」
「じゃ、仲直りをしようか?」
その言葉とともに、ロイの顔が近づいてきて。
エドも受け入れるように目を閉じると
柔らかく唇が合わせられた。
一度離れてから体ごと抱きこまれ、また合わされる唇。
今度は先ほどより、深く長く―――――――
徐々に力が抜けていく体を支えるべく、エドはロイにしがみ付く。
それに答えるようにロイはエドを抱く手に力を込めた――――――
******
ようやく唇を解放されてから、エドはぐったりと力の抜けた体をロイに預けて
酔ったようにハッキリしない頭で、ロイを見上げた。
ロイは、そんなエドの顔を見て苦笑する。
「そんな顔でみつめないでくれないか?」
自制が効かなくなりそうだよ?
そう耳元で囁くと、エドは突然意識が戻ったように、真っ赤になって体を離す。
それをもう一度引き寄せ、強引に腰を抱いてロイは室内を進む。
テーブルの上の燭台に火をつけると、途端に部屋が明るさを増した。
「これ・・・・・・」
「もう食事は済ましてしまったかな?」
テーブルの上にはチキンやパイなど、料理がたくさん並べられていた。
もちろんケーキも。
しかも、2人ではとても食べきれそうもない大きな、苺のいっぱいのったクリスマスケーキ。
「いや・・・・急いでたし、まともに食ってねぇ」
「なら、今から2人でクリスマスパーティといこうか?」
笑いながらロイがそう言った時、リビングの時計が0時を知らせる鐘を鳴らす。
とうとう日付が変わってしまって、クリスマスではなくなってしまった・・・・・・
エドは残念そうに時計を見上げる。
そんなエドの心中を察したように、ロイはエドの顔を覗き込んだ。
「メリークリスマス、エドワード」
日付が変わったとこなど関係ないといった感じのロイに、エドは面食らったように瞬きをして。
そして、微笑みながら謝罪と愛しさをこめて、自分も言葉を返す。
「メリークリスマス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロイ」
はにかみながら、いつもの階級でなく名前を呼んでくれた恋人に、ロイは一瞬目を丸くして。
そして、嬉しそうに微笑んだ。
「素敵なクリスマスプレゼントだな・・・・・・」
「ま、クリスマス・・・・・・・・・・だしな///」
「これは、私も念入りにプレゼントをあげないと」
「・・・・・・・・・・・・なんだよ、その『念入り』って・・・・・」
そのプレゼントというのがなんなのかを察して、エドは赤面しながら額に青筋を浮かべた。
「ああ、おまけとして君の喜びそうな本も用意してあるから」
「だから、『も』ってなんだ、『も』って!!・・・・・・つーか、そっちがおまけなのかっ?!」
「当り前じゃないか。君へのメインのプレゼントは、私からの愛に決まってるだろう?」
「そんなこっ恥ずかしい台詞、真顔で言ってんじゃね〜〜〜〜〜〜!!!」
真っ赤になりながら、ぎゃあぎゃあと騒ぐエドを
腕でからめとりながら、いたるところにキスを落として。
また、力が抜けた頃を見計らって、口付けた―――――
――――そして、恋人達の一日遅れのクリスマスの夜は
幸せな気分でふけていったのだった―――――
・・・・・・・・・『愛してる』と言う言葉とともに・・・・・・メリークリスマス!!