バレンタインの翌日、エルリック少将は病欠だった。
「やあ、諸君。爽やかな朝だな!」
そして、馬鹿みたいに機嫌が良い男が一人、朗らかに手を上げつつ、出勤してきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうやら、今年はもらえたらしいっスね」
「そのようね」
ハボックとリザ。
大総統の側近二人は、スキップでもしだしそうな男を呆れ顔で見詰めた。
二人の内心は、『アンタ大総統だろ?!みっともないから、少し落ち着け!!』である。
もちろん言ってみたところでこの浮かれ男には通じず、逆にのろけを聞かされるだろうから言わないが。
「まぁ、毎年この日は2人とも機嫌が悪くてとばっちりで迷惑してましたからね。あれよりはマシですかね?」
「そうね。・・・・・・・・・・・それに、あの人の浮かれ顔も今日一日だけだし、我慢しましょう」
「へ?今日一日?」
『一週間は浮かれっぱなし』だと踏んでいたハボックは、首を傾げた。
リザはそんな彼に、ファイルから紙を取り出して広げてみせる。
「これって・・・・・・」
「さっき少将から電話があって、私が代筆しました。取り合えず今見せると五月蝿そうだから、明日渡すわ」
「だから、『今日一日』なんすね・・・・・・・・・・」
書類には『特別休暇届』とかいてあった。
届け人はエドワード・エルリック少将。
期間は明日から一週間。
ご丁寧に追記には『業務代行は全て大総統に』と書かれていた。
ロイがそれを知ったのは、業務を終えていそいそと家に帰ったとき。
『昨日の余韻もあるし、一週間は甘い時間を堪能できるはず♪』
そう喜び勇んでドアを開ければ・・・・・暗く静まり返った室内。
慌てて電気をつけてみれば、テーブルの上に置手紙。
その光景に愕然としながらも、広げてみると―――――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大総統閣下、約束通り特別休暇をいただきます。
久々に兄弟2人で一週間ほど旅行を楽しんでくるから、業務の代行、ヨロシク!
エドワード
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「エディ〜〜〜〜〜〜!!それはないだろう・・・・・・・・・・・・」
いやしかし!まだ私は休暇届に印を押していないではないか!!
いくらエディでも、勝手は許さん!!
少々憤りながらも、慌てて軍部に連絡してリザに届が出ているか確認してみると、
『確かにお預かりしています』との返事。
「私はまだ許可した覚えはないが?」
そう、ムッとした声で言うと、凛とした副官の声が返ってきた。
『少将がおっしゃるには『おとしまえ』だそうですよ?
そう言えば、必ず大総統は承諾してくださるといっていましたが?』
何か、『おとしまえ』つけなくてはならないことでも、なさったんですか?
しれっと、そう聞いてくるリザに、ぐうの音もでなくて。
ロイは力ない声で『わかった』と呟いた。
了承の声を聞き、リザは頷いて――――
『それでは、そのように処理しておきます。今日は、ごゆっくりお休みください。
明日から一週間、少将の仕事も代行して頂きますので、多分ご自宅に帰れないと思いますので」
さらっと恐ろしい事を告げて、リザは電話を切ってしまった。
ロイはうな垂れたまま、二階の寝室に行き、ベットの中に潜り込み――――
恋人の残り香包まれながら、涙に濡れた一夜を過ごした・・・・・・・・らしかった(笑)
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「兄さん、本当によかったの?」
列車の中で、アルは心配そうに尋ねた。
「いいんだよ。このところ厄介な事件もないし、しばらく忙しくてお前に会えなかったしさ」
「そっか。・・・うん、そうだよね!じゃあ、久々に楽しもうね、兄さん!!」
「ああ!そうだ・・・・・宿についたらさ、久しぶりに一緒のベットで寝ようぜ♪」
「・・・・・・・大総統が聞いたら、憤死しそうな科白だねぇ」
相変わらずの仲良し兄弟は、大総統の嘆きも知らず(って言うか、知ってるけど無視しつつ・笑)
容姿のせいで周囲に兄弟ではなく『ラブラブカップル』に間違えられながら、旅行に出かけていった。
その後の一週間。
大総統は背中に暗雲を背負いながらも、副官の銃声に励まされ(?)つつ、2人分の業務を何とかこなしたのだった。