君の存在・・・C『そして君の存在』

 
『愛・・・?』

ロイは自分の頭の中でたった今浮かんだ言葉に、愕然としていた。
『落ち着け』
と、自分に言い聞かせる。
まずは、落ち着かなくては。
とりあえず、今の状況を整理してみよう・・・・。
ロイは一つ深呼吸をすると、漆黒の瞳を閉じた。

今、自分は鋼のにキスをしようとした。これは、事実。
その際、ただの子供へのお休みのキスではなく、彼に欲情しての行為だった・・・・これも事実。
ついでに、今も自分の膝の上に乗っている暖かい体温に、甘やかなものを感じて動揺している。
・・・これも、正直認めたくはないが・・・事実である。

『私は、少年趣味もあったのか?!』

事実確認をして、さらに落ち込んでしまう。
だが・・・・
『まてよ?』
ふと、ロイは考えた。
『少年趣味・・・?』
今までノーマルだと思っていただけに、かなり自分の中でショックだったのだが、
まあ、考えてみれば恋愛も色んな形があるわけで。
実際 『軍』 などという特殊な環境の中では、よくあることなのだ。
そう考えれば、こんなに深刻に悩むほどの事ではないのではなかろうか?

『今までない経験だったので、少々動揺してしまったが・・・ 』

そう思ってしまえば、今までしてきた恋愛と大差ない。
出会って、可愛いと思ったから、口説く。
気に入れば、抱いてみたいと思う。
男と女という違いはあるものの、同じことだ。
『愛』 などと、大そうなものではなく、今までしてきたゲームのような 『恋愛』 と同じもの。
酔った勢いも相まって、毛色の違うものに興味が湧いただけ、ただそれだけのことだ。
年が若すぎるので、少々犯罪に片足突っ込んでしまっている気もするが。
15歳・・・まあ、ギリギリOKといったところか?

『・・・守備範囲が広がったと思えば、良いだけことか?』

自己弁護するうちに、かな―り都合のいい考えになってきているが、とりあえずロイは落ち着いた。
両の瞼を開けて、もう一度エドワードを見つめる。
彼は相変わらず気持ちよさそうに寝息を立てている。
・・・自分の気持ちを自覚してしまったせいだろうか?
ロイには、もうそれは 『子供の無邪気な寝顔』 には、到底見えなくなっていた。
色気など、微塵もあろうはずがない、エドワード。
だが、今のロイには、時折吐き出される吐息さえ、艶めいて聞こえてくる。
抗いがたい衝動を、自分の中に感じる。

彼に、触れたい―――

ロイの瞼が細く閉じられる。
『これはもしかして、おいしい状況なのかな?』
ロイはエドを抱き上げると、寝室に向かった。

ベットに、注意深く彼を降ろす。
降ろされたエドは、伸びるようにして一つ寝返りを打った。
寝返りと一緒に、白いシーツの上に、先ほどほどいた金髪が広がった・・・
さらに、息苦しそうに上着の止め具の辺りを引っ張る仕草をするので、外してやる。
途端に、いつも見ることがない鎖骨が目の前にあらわれる。

「ん・・・」

小さく吐息をもらすと、タンクトップの襟元をグイと引っ張り、自ら胸元を大きく広げてしまうエド。
おまけに、暑いのかタンクトップの裾をズボンから引っ張り出して、腹部まで露出させる始末である。
そこまでやってやっと寝苦しさがとれたのか、落ち着いたように、また寝息を立てて動かなくなった。

「君・・・結構タチが悪くないか?」

思わず、ロイの口からそんな呟きがもれる。
その眉間には皺が寄って、顔が引きつっている。

『兄さん、寝る時いつもおなか出して寝ちゃうんですよ!!』
確か、彼の弟がそうぼやいていたのを聞いたことがある。
だから、夜中に何度も毛布を掛けなおしてやるのだと・・・
それを聞いた時は、腹を出してだらしなく眠るエドワードを、
『どっちが兄なんだか、わからないよ・・・』
そうぼやきながら世話をするしっかり者の弟を想像して、みんなでひとしきり笑ったものだ。

『あれ、本当だったんだな・・・・』
ただ問題は・・・・今の自分には、腹を出して寝る無邪気な子供には見えないってことだ。
『人の気も知らないで・・・・・』
一応、ギリギリ理性を保っていたロイだったか、どうやら切れそうである。
ロイ・マスタング。元々、チャンスをみすみす逃すような男ではないのだ(笑)

彼の頬を一つ撫でる。
『無防備な君が悪い』
勝手な言い分を、胸の中で呟いて、彼の額に口付ける。
そして、彼の首筋に唇を落とそうとした瞬間、ロイの動きが止まる。

『帰って来たんだ―――』

唐突に、昼に聞いた彼の言葉が頭の中によみがえる。

『私がこんなことをしたのを知ったら、君はどうするかな・・・?』

たぶん、烈火のごとく怒るだろう。
そして、あの金色の瞳で睨みつける?
いや、それとも・・・・・
瞳に私を映す事さえ、拒絶するだろうか?
元々一度飛び出したら、二・三ヶ月平気で連絡もよこさない彼だ。
半年ぐらいは帰って来ないかも知れない。
いや、それとも1年?
報告をしなければならないのでそれ以上伸びることはあるまいが、極力近寄らないようにするだろう。
命令で帰還させることは出来るが、きっとその時は軽蔑と嫌悪の色をその瞳ににじませている・・・
負けず嫌いで、人に弱みを見せるのを嫌がる彼だ。
平気なふりをするだろうが、内心とことん嫌われること請け合いだろうな・・・
そう、自嘲的に笑ったロイだったが。
浮かんだ言葉に息苦しいほどの苦味を感じる。

嫌う

君が、私を嫌う?

いや、今だって『アンタなんかだいっ嫌いだ!!』などと、日常茶飯事的に言われてはいるが
なんだかんだいいながら、自分を頼りにしているのを知っている
いつも生意気な口を利いて、容姿に合わない鋭い視線で人を見る彼だが
東方に居る時は、子供の顔を覗かせる
大嫌いだといいながら、人の執務室に居座って
ソファーに偉そうに陣取って、本をよむ
『覇気のない顔って・・・なんだか、アンタらしくないじゃん?』
そう言って笑った、さっきの彼の笑顔を思い出す・・・・・
もう、あんな風に笑いかけられることもなくなってしまうだろう。

苦しい

君に嫌われると思っただけで、こんなにも苦しい。
君に拒絶されるのを想像しただけで、息が出来なくなる。

おかしい

今までしてきたゲームのような『恋愛』と同じもの、そうなはずだ。
なのに、この胸の痛みはなんだ?
確かに、人に拒絶されるのが気持ち良いはずもないが
今まで、どんな女性と付き合ってみても、そんな不安を持ったことなどなかった。
・・・・・たぶん、彼女達には執着していないからだろう。
来るなら相手にするが
戻ってこなくなっても、別段どうでも良かった

私は、彼に執着している?

どうやっても、手の中に置いておきたい。
絶対、手放したくない。
旅をするのを許しているが、それは自分の元に帰って来るのを知っているからだ。

ロイは体を起し、ベットサイドに座った。

『少年趣味の方が、まだマシだ・・・・』

ため息を付いて、肩をガックリと落とした。
それならば、今まで通りの自分でいられるから。

自分の気持ちを認識してしまい、眩暈がしそうだ

でも、だめだ。
どうしようもない。
誤魔化そうとしても、誤魔化しきれなかった。
認めるしかない。

振り向いて、もう一度彼の寝顔を眺める。
それだけで湧いてくる、思い。

愛しい・・・・・

「鋼の・・・私は、君を・・・・・愛しているらしい」

小さく呟いたロイの言葉は、眠っているエドワードには届かない。
ロイは立ち上がると、エドに毛布をかけて、静かに部屋を出て行った。







「というわけで・・・彼の寝顔が思いのほか色っぽかったので、つい欲情してしまったのだよ」

やれやれ、私も落ちたものだ・・・そう大げさに頭を振ってみせる。
いくら信頼している中尉にだとしても、まさか本音をそのまま言えるわけもなく・・・
ロイは、適当に都合のいいところだけかいつまんではなし、
最後にそんな風に茶化して話を終わらせたのだ。

それを黙って聞いていたリザだったが・・・
「・・・やっと、本気になれる相手を見つけられたのですね」
そう、静かに言った。
ロイは、ギョッとして、リザを見あげる。
「茶化しても、ダメですよ」
そうでなければ、女であれ男であれ、あなたがそんなに悩むはずがないでしょう?
そう、淡々と彼女は言う。

「君には・・・・・敵わないな」
ふう、とロイは一つ息を吐き出した。
「軽蔑しないのかね?」
自嘲気味にそう呟くロイに、リザは軽く首を横に降った。
「・・・・大佐が、興味本位で彼を傷つけようとしているのなら、ご意見申し上げる所ですが」
エドのことは、弟のように思っているリザである。
傷つけるのであれば、上司であるロイといえども容赦するつもりはないが・・・
この憔悴振りからも、彼の本気の度合いがわかるというものだ。

『女たらし』と噂されるこの上司。
噂だけではなく、実際いろいろと浮名を流しているのも知っている。
だけれどそれと同時に、彼が本当の意味で人を近づけられずにいることも気付いていた。

『本当は、優しい人だから』

困難な道を選んでからは、故意に大切な人を作らないようにしているのが分かった。
たぶん、その人を危険な目に遭わせたり、傷つけてしまうのが怖いのだろう。
自覚があるのかどうかは知らないが、彼はどんなに浮名を流しても、一線を超えないようにしている。
それを、痛いほど感じていたリザだった。

その彼が、こんなにも自分を押えられずに苦悩している
それほどまでに、彼の人を愛してしまったということだろう。
その相手が、エドワードだということに、全然戸惑いがないとはいえないけれど
何となく、予感がしていた。
彼をリゼンブールに迎えに行ったときから・・・
帰りの馬車の中で、大佐が言った台詞を思い出す。

『焔のついた目だ』

あの時、エドワードが大佐にとって特別な存在になるような気がしていたのだ。
『まさか、こういう形で・・・とは思わなかったけれど』
リザは、内心で苦笑した。

「真面目なお気持ちのようですから、特に申し上げることはありませんわ」
そう言うと、リザは珍しく、女性らしい穏やかな微笑をみせた。
「そうか・・・」
そうロイも、彼女に微笑み返す。
でも、またため息を付いて、頭を垂れた。

「しかし・・・どうしたものかな・・・・」
「往生際が悪いですね。まだ、認められないんですか?」
「いや、そこはクリアーしたんだが・・・・」

天上を仰ぐ

「認めたからと言って、即行動に移せる相手ではないだろう?」
「それは、そうですね・・・」

何てったって、彼はれっきとした男性だし。
自分が大佐にそんな風に見られているなどと、思ってみないだろう。
しかも、彼は15歳。

「たぶん・・・本当の恋も知らないでしょうね」
「だろう?」

淡い初恋くらいは経験があるだろう
しかし、彼は11歳で禁忌を犯してから
その罪を償うのに、寝る間も惜しんで突っ走ってきたのだ。
本来なら、少しくらいは経験があってもいい年頃だが
彼には 『恋』 などしている暇などなかっただろう。

そんな彼に、どこぞの少女・・・とかならいざ知らず
大佐が 『愛の告白』 などしても、受け入れられるどころか、理解すらしてくれないかもしれない。
いや・・・たぶんその可能性が大だ。
たぶん 「からかわれてる」 と怒るのが関の山である。

「確かに、前途多難ですね」

リザの言葉に 「そうだろう? 」答え、ロイは机に再び突っ伏した。
そして、伏せたままのくぐもった声のまま、「しかも・・・」 と続ける。

「彼、食事に行った日から、うちに泊まりっぱなしなんだ・・・3日間も」
「え?!」
「うちの書斎の本がいたく気に入ったらしくて、そのまんま居座って1日中よみふけっている」
「・・・そうですか」
「弟が戻ってくるならそれでも良かったんだが、あっちはあっちでいいものを見つけたらしくてな」

帰ってこないから、鋼の一人が泊まりこんでいるんだ。
そう、ロイは疲れたような声で言う。

「・・・・・・・」

それは、かなり辛いだろう。
愛していると気が付いた人と、同じ屋根の下、2人きりで3日間。
そこだけみると、天国のようだが・・・
おいそれと、告白も出来ないような思い人との3日間でもある。
軽い気持ちで押し倒してしまえるような相手ならいざ知らず
苦しいほど愛しいのに、本気すぎて手も出せないようだ。

まさに『天国と地獄』である

『だから、この隈なのね・・・』
眠れぬ日々を過している上司に、少々同情の念がわいてくるリザだった。
かといって、彼を傷つけられるのは嫌なので、ここは我慢してもらうしかないだろう

「大佐」
「なんだ?」
「本当に・・・なにもしてないですね?」
「?!・・・出来たら、こんなふうにはしてないよ・・・・」
「ご立派です、大佐。この調子で頑張って下さいね」
ニッコリと笑う彼女に、頬を引きつらせるロイ。

「鬼かね、君は・・・・」
「私も彼はお気に入りなんです」
ふたたび、ニッコリと笑うリザ。
「絶対傷つけないでくださいね。あくまでもソフトに、長期戦でお願いします」
まぁ、それで受け入れられるかどうかは、別の話ですけどね?
さらりとそう言う彼女に、ロイは心臓の辺りを押えた。

「やっぱり鬼だ・・・・・(泣)」
「鬼がどうかしたのか?」

突如聞こえた声に顔を上げると、そこには・・・・
「鋼、の・・・・」
「よお、大佐」
「エドワード君、来ていたの?」
「こんにちは、中尉!ちょっと前に着いたんだけど、司令室で皆と話してたんだ」
リザにそう説明してから、エドはロイの前まで進むと、チャリと音を立てて鍵をテーブルに置いた。
「大佐、いろいろサンキューな。オレ、アルんとこ行くよ」
「・・・うちの書斎は調べ終わったのかな?」
「ああ、読みたかった本は完全制覇した」
役に立ったよ、サンキュー。
そう言いながら、エドはにいっと笑った。
「それはよかった。・・・お役に立てて、光栄だよ?」
いつもの笑みを返したつもりだったが・・・
エドは、ちょっと顔を顰めてこちらを見つめている。

「鋼の?」
どうした?そう聞く前に、彼の顔が覗き込むように間近に降りてきた。
「?!」
突然のことに、驚いて息を飲む。

だが彼は、息がかかるくらいの近さで、人の顔をマジマジと見つめると
「酷い顔」
そう言って、さっさと体を引いていく。
「・・・いきなり失礼な奴だな?」
少々、ムッとしながらそう言うと、なんだか苦笑いをしながら「だって・・・」と呟く。
「色男が台無しじゃん?・・・・・隈なんて作ってさ」
軽口を叩いて笑うが、すぐにその顔がくもった。

「鋼の?」
「オレ・・・・邪魔だった?」
「・・・なんだね、急に?」
「いや、オレが泊り込んでる間、大佐なんだか様子がおかしかったから・・・・」
「・・・・・・・」
悟られないように、2人きりの時は、なるべくいつも通り自然にしているつもりだったのだが・・・
どうやら、うまくいっていなかったようだ。

「さっきさ、司令室に寄ってハボック少尉達と少し話をしたんだけど・・・」

大佐って、あんまり家に人を呼ばないって言ってたんだ。
たまにヒューズ中佐が泊まったりはするみたいだけど、他は全然だって?
色んな女の人と、あんなにとっかえひっかえ付き合ってるのに、家には誰も入れないって。
アンタ、使用人も夜は帰すって言ってただろ?
もしかしてさ、一人にならないと休めないタイプなんじゃ?
オレ・・・知らないで3日も居座ってたし、本当は疲れてたんだろ?
エドワードは俯いて、ボソリボソリとバツが悪そうに話す。

部下達に気付かれていたのにも驚いたが・・・
彼がそんなことを気にするのにも驚いた。
思わず、苦笑する。

「子供が、そんなことを気にするんじゃない」
「子供って言うな!!」
「・・・君のせいではないよ、本当に気にしなくていい」
「そう・・・か?」
「嫌な相手なら、最初から誘ったりしないよ?」

そう言って、笑ってみせる。
エドワードはそれを見て、やっとホッとしたように笑った。

「そーだよな!大佐がそんなにセンサイなわけ、ないよな〜?」
「・・・・・違うと分かったとたん、その態度もどうかと思うんだが?」
さっきの君は、ちょっと可愛げがあったのに・・・そうため息をつく
しかし、エドはそんな台詞は意に介さないように、胸を張った。
「オレのせいじゃないなら、いいんだよ!気にして損した。なら・・・」
ビシィと人を指差す。

「その顔、何とかしろ!」

言ったろ、アンタは 『嫌味な位自信満々』 じゃないと、調子狂うって!
そう言って、いつもの挑戦的な顔で笑う。
「鋼の、人を指差すのはやめなさい」
にが笑いしながら、そう答えた。
自然に、笑顔がこぼれて行くのが、自分でもわかった。

『まったく、君には敵わない』

確かに、こんな自分はらしくない。
彼のたった一言で今までの胸の中につかえたものが、落ちた気がした。
すっきりとした気分で、また微笑む。

「そう言えば、宿代がまだだったな?旅に出るなら、支払ってから行きたまえ」

やっと戻った 『いつもの調子』 でニヤリと笑う。
「げっ?!金取るのか?・・・高給取りの癖にセコイぞ?!」
そう、詰るエドに 『金など、いらんよ』 そう手をひらひらと振って
机の上に肘を付いて、顎を乗せて、彼を見る。
「何事も、錬金術師の基本は等価交換だよ?そうだな・・・何にしようか?」
「うえ〜、金の方がマシだった〜!!」
そんな風に叫びながら、何を言われるかと少々不安がっている彼に笑う。

「・・・・・・定期的に、ここに連絡を入れること」
「え??」
「ひと月に一回は電話でもかまわないから、生きているかどうかだけでも連絡を入れたまえ」
「・・・・・」
「そして、出来れば・・・2ヶ月に一度くらいは、帰っておいで」
心配してるから。・・・・そう微笑んだ。

思いがけない提案だったのだろう。
目を瞬かせて、しばし呆然と固まった後、フイッと顔を背けて俯いた。
「・・・・・めんど、くせーよ」
投げやりな言葉とは裏腹に、耳が少し赤くなっている。
心配されてると知って、照れくさいのだろう。
彼は、いつも表裏のない好意を向けられると、途端にこんな態度になる。
『こういうところは、年相応で可愛いな・・・』
苦笑しながら、うんと言わない彼に、もう一押し。
「この提案は気に入らないのかい?仕方ないな・・・」
大げさにやれやれといった態度で頭を振ってから、ニヤリと笑う。

「そうだな・・・ 『マスタング大佐、泊めてくれてどうもありがとう(はぁと)』 と言いながら、
感謝のキスをしてくれる・・・・・にしようか?」

言いながら、自分の頬をトントンと叩く。
「なっ・・・・・?!へ、変態かアンタ!!」
途端に、真っ赤になって、ギョッとしたようにこっちを見る。
「君の寝顔、結構可愛かったんだ」
ちょっとありかなー?とか、思ってしまったよ?
楽しさを押えられずに、つい、ニヤニヤと笑ってしまう。
途端、ズサッと2メートルくらい、一気にあとずさっていってしまった。

「変態だ!変態の家に3日も泊まっちゃったんだ、オレ!!」

両腕で自分を抱きしめるようにして、青くなったり赤くなったりしている。
とうとう、我慢しきれずにふきだしてしまうロイ。
ひとしきり笑った後、彼にもういちど聞いてみる。

「さぁ、どっちにするね、鋼の?」
「・・・・・前者にします。セクハラ大佐っ!!!」

大笑いしたせいで、どうやら 「からかわれた」 と判断したらしく・・・
額に青筋を浮かべながら、言い捨てる彼。
そんな顔も可愛いと思ってしまうあたり、かなりはまってるんだなぁと自分に苦笑する。

「よろしい。じゃあ、忘れないように」
「わかったよっ、じゃ、オレ行くから!」
「ああ。・・・・・今度帰ったら、また泊まりに来るといい」
「ぜってー、いかねぇ!!(怒)」

はめられたとか、セクハラだとか、ブツブツ言いながら、背を向けてドアにむかう彼。
ドアノブに手を掛けた時、その背中にもう一度声を掛ける。

「鋼の」
「あんだよっ、まだなんか・・・・?」
怒りもあらわに振り向いて怒鳴る彼に、微笑む。
「気をつけていってきたまえ」
エドは、拍子抜けしたような顔をした後、またこちらに背をむけた。
「・・・・・了解」
こちらを見ずに、手を上げただけで、その体はドアの外に消えていった。






「セクハラですよ、大佐?」
いまだ楽しそうに、クックッと喉を鳴らして笑う上司に、リザは呆れたように忠告する。
「やっぱり鋼のは、最高だな♪」
これは、悩んでる場合ではないな。誰かに持ってかれる前に、手に入れないと?
さっきの憔悴振りはどこへやら?ウキウキと踊りだしそうなくらいだ。
にこやかに笑うロイに、リザはため息を付いた。
「大佐、私との約束・・・・忘れないで下さいね?」
「分かってるよ、中尉。丁重に扱うから?」
是非、そう願います。リザはそう言ってから、考える。

やっと、元に戻ってくれたのはいいが、ちょっと浮かれすぎだ。
ここは一つ、手綱を引き締めておいた方が良いだろう・・・

「ところで、ご機嫌が治ったわけですから・・・この書類早速片付けてくださいますよね?」
ニッコリと、笑うリザ。
「うっ、いや・・・その・・・・」
「問答無用です。もう業務に支障が出てますし、さっさとお願いします」
有無を言わさず、ピシャリと言い放つと、ロイはガックリと肩を落とした。
「中尉・・・私は3日もろくに寝てないんだが?」
弱弱しく、そう上目遣いで言ってくる大佐に、リザは、綺麗に笑って見せた。
「大佐の実力でしたら、後2日ほど徹夜してしてくだされば、片付きますよ?」

頑張って下さいね。

そう言って微笑むリザは、何も知らない男共なら、イチコロでやられそうなくらい美しいのだが
その時のロイは、彼女の後ろに鬼を見たという・・・

2日後、何とか気力で終わらせたロイは、どうにか休むことを許され、
やっと帰ってこれた我が家で、ただひたすらに眠ったのだった。

―――この3日間で、大きく変わってしまった君の存在を胸に抱きながら―――

『そして君の存在』・・・終わり



終わったよ〜!!!(号泣)
初鋼連載。どうなることやら・・・と不安でしたが、何とか終わることが出来ましたv
なんだか、大佐が情けない話になってしまった気がしますが・・・
かっこいい男がたまにみせる情けなさって・・・愛しくないですか?(笑)
ここまでお付き合いくださった方に感謝しますv
よろしければ、感想くださいませv



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