「私が大総統になった暁には、軍の女性の制服を、全てミニスカートにする!!」
「大佐!!俺はどこまでもついて行きます!!!」
そう言い切ると、グッと拳を上げ、ポーズをとるロイ。
その足にすがりつき、涙を流しながら忠誠を誓うハボック。
そんな2人に、ホークアイは横目で冷たい一瞥を与えて立ち去ってしまったが、
当の2人は、きらきらと輝く光をバックに背負い、そのポーズのまま浸っていた。
「あんたら・・・・・・・・・アホ?」
盛り上がっていたロイとハボックは、突然掛けられた声に、ギョッとして振り返った。
そこには、『明らかに呆れ顔』の鋼の錬金術師と、その弟が立っていた。
「どんな野望かと思えば・・・・・どうしようもねぇな、エロ大佐?」
軽蔑の眼差しで、そう言うエドワードに、ロイは「フン」と鼻を鳴らした。
「まぁ、子供の君にはわかるまい。」
「そうっすよねー、子供の大将には、わかんないですよね?」
ロイの足にしがみ付いていたハボックも、立ち上がって、相槌を打つ。
「子供子供、言うなっ!!!」
握りこぶしを振り上げ、今にも殴りかからんばかりの勢いで、エドは怒鳴る。
しかし、ロイはそんな事などお構いなしに、腕を組んで、エドワードを見おろした。
「しかし、子供とはいえ・・・15歳。もう思春期だろう?」
ハボックも、うんうんと頷く。
「そういや、そうですね。・・・もう少し、女に感心があってもいいお年頃じゃないか?大将?」
やれやれ・・・といった感じの2人の言葉に、エドの額に青筋が浮かぶ。
「うるせー!!余計なお世話だっ!あんたらと一緒にすんな!!」
今度こそ、殴りかかる体勢になったエドだったが、唯一の身内の一言で凍りついた。
「ボクはほしいけどなー?彼女。」
その言葉に、先の2人は満面の笑みを浮かべる。
「お、アルの方が話がわかるじゃないか!お前もこっち来い!」」
「常々思っていたのだが、アルフォンス君の方が、鋼のよりも精神面で大人のようだね」
・・・なんだか、敵がいつの間にか2人から3人に増えていたようだ。
「アルっ、お前まで何言ってんだよ!?」
エドは、焦ったように『ガシッ』とアルフォンスの腕を掴む。
「大体、そいつらの言ってる事は『彼女』とか、そんな可愛い内容じゃねーだろ?!」
足を踏み出しそうになったアルを押えつけながら、エドはそう怒鳴った。
「あ、そうか」
軍人チーム(笑)に行きかけたアルだったが、すんでで戻ってくる。
「それに僕、ミニスカートより、フレアのワンピースの方が好きだった!」
「そう言う問題でもないだろ・・・・」
ガックリとエドワードは脱力したが、ロイは楽しそうに笑った。
「なるほど、弟くんの好みはフレアか!よし、じゃあ選択性にして、それも採用しよう!」
「わーい♪」
「でも、フレアスカートの軍服って、変じゃないっスか?」
男3人、大盛り上がりで騒いでいる横で、『男』であるはずのエドだが、一人蚊帳の外状態である。
『こいつら、俺と同じ生物か?!でも・・・な、なんだか、悔しい!!』
エドが、そう心の中で葛藤していると、不意に視線を感じた。
視線の先に顔を向けると、騒ぎの輪の中にいたはずのロイが、こちらをまじまじと見つめている。
エドは不機嫌そうに、睨み返した。
「しかし、鋼の。男のくせに男のロマンがわからんとは・・・」
唐突に口を開いたロイだったが、そこで不自然に言葉を切った。
エドの顔を見つめながら、なんだか、顔を顰めて考え込んでいる。
「・・・・・なんだよ・・・」
睨みながら言うも、さっきの脱力から抜けきれてないらしく、エドの言葉には力が無い。
そんな2人に気付いたアルとハボックも、いつの間にか話を止めて、2人のやり取りを聞いている。
「・・・男のロマンがわからんとは、もしや・・・」
「?」
「女?」
余りの事に、一瞬フリーズしてしまったエドだったが、次の瞬間、みるみる真っ赤になった。
「だぁれが、ちっちゃくって、女の子みたいだって?!」
『ちっちゃいなんて、一言も言ってないじゃないか・・・』
3人の、そんな心の声など聞こえるはずも無く、今度こそエドは大暴れしだした。
が、そんな兄への対処は馴れきっている弟がいたため、絶妙なタイミングで取り押さえられてしまう。
「兄さん、落ち着きなよ?」
大暴れしている兄を羽交い絞めで押えながら、諭すような口調でアルは話し掛ける。
「はーなーせ〜!!!」
押さえつけられていながらも、まだ暴れていたエドだったが、アルの腕が緩まないので
とうとう(体だけは)大人しくなった。
「てめぇ、書類で性別確認してるだろ―が!!」
大人しくなったものの、まだ威嚇するような瞳で、ロイに食って掛かる。
「・・・やっぱり、男なんだね?」
「!!!当り前だろっ!?」
まだ、疑問が残ったような口調で言うロイに、エドは『まだ言うか?!』という感じで、声を荒げた。
ロイは、顎に手をあて、首を傾げるようにして、エドを見つめた。
「いや、久しぶりに会ったら何だか美人になった気がして・・・もしや、女の子だったかなー?と。」
「なっ・・・?!」
ロイの言葉に、エドは言葉も出ず、口をパクパクさせた。
ハボックも少し近づいて、マジマジとエドを見つめる。
「・・・そう言われて見れば、なんか可愛くなったっすね?!」
「可愛いとか、言うなっ!!!少尉まで!」
耳まで赤くなったエドは、とうとう練成ポーズをとりだすが、またもや弟に押えられる。
「兄さん、こんなとこで練成なんかしちゃ、だめだよ?」
「はなせっ、アル!!こいつらに、怒りの鉄槌を一発!!!」
怪獣映画の怪獣さながらに暴れる兄を押えながら、アルはため息をついた。
『こんなに反応するから、からかわれるんだよ・・・・』
確かに兄は、容姿だけを見ると、十分に女の子で通りそうである。
実際、間違われて嫌な目にもあっているので、怒る気持ちも分からなくはないけれど。
「そんなに嫌なら、ちょっと服脱いで見せてあげたら?」
そうすれば、すぐ誤解は解けるでしょ?とニッコリとアルは微笑んだ(ような気がした)。
「!?・・・何で、俺がこんな所でパンツ一丁にならなくちゃいけないだよ!!」
「あはは、そりゃあいいや!ねぇ、大佐?!」
ハボックは心底可笑しそうに笑い、ロイの方に振り返った。
しかし、ロイは笑うどころか、なんだか恐い顔で、わなわなと振るえている。
「・・・大佐?」
「・・・・・ぞ・・・」
「は?」
何かを小声で呟いている大佐に、ハボックが聞き返そうとしたその時。
「いかん、いかんぞ鋼のっ!!!」
「えっ、なにがっ・・・?」
突然、声を荒げて自分につめよるロイに、エドは怒っていた事も忘れ、ビクリと身を引いた。
「こんな、公衆の面前で、下着姿になどなってはいかん!!」
私は許さん!そんな事、私は許さんぞ?!
すごい剣幕でそう力説するロイに、一同はポカンと口を開けた。
「・・・あんたに言われなくても、こんなとこで脱がねぇよ・・・」
唖然としながらも、ぶっきらぼうにエドはそう答えた。
「あの、大佐?・・・僕も冗談だったんですけど・・・??」
アルもおずおずとそう続ける。
その言葉に、ロイはハッと我に返る。
我に返って思った。
『何で、私はこんなにムキになっているんだ??』
自分でも混乱しながら、顔を上げると、そこにはなんだか呆れ顔で見つめる、3対の目。
嫌な雰囲気に追い払うように、ロイは一つ咳払いをした。
「ゴホン・・・いや、軍部の風紀を守るのも私の勤めだからな」
取ってつけたような言い訳を口にすると、エドは胡散臭そうな目で見た。
「人をワイセツブツみたいに言うんじゃねー!」
そういい捨てると、エドはくるりと背を向けた。
「兄さん?」
「これ以上こいつらといると、頭おかしくなりそうだ。帰るぞ!!」
「あっ、待ってよ、兄さーん!!」
さっさと早足で遠ざかるエドを、アルはガシャガシャと音を立てて、追っていった。
その後姿を見送りながら、ハボックは考える。
『エドが服を脱いだからって、風紀が乱れるとは思えないけどなー?』
・・・・・大佐って、そんなに潔癖症だったか??
なんだか納得がいかないものの、確かに自分と違って、だらしない格好をした大佐は見た事が無い。
軍服もいつも崩すことなく、きちんと着ている。
確か、プライベートで私服を着た大佐を見た事があったが、高そうなスーツを品良く着こなしていた。
『人前で脱ぐってのに、抵抗あるのかな?下品だとか・・・?』
よくは知らないが、口調や仕草を見ても、何だか大佐は『育ちがいい』においがするし。
とりあえず、そんなふうに疑問を片付けロイの方を振り向いた。
が、そこにいたロイは、いまだエルリック兄弟が消えた先を見つめている。
『大佐・・・・?』
そんな彼の横顔を見ていたハボックは、何となく、さっきのロイの言葉を思い出した。
『美人になった・・・か』
ハボックがエドワードに会ったのは、エドが国家資格をとった12歳の時である。
その時は、さすがに今よりは幼い印象だった。
あれから、3年。
背丈こそ、たいして変わっていないような気がするが、少し大人びた気がする。
丸かった顎の線が、少し大人のそれに近づいてシャープになり、
子供体型だったのが、すらりとした印象になった。
今の彼は、元々小綺麗な顔なので、どこか中性的な感じかもしれない。
しかし、それはあくまでも『喋らなければ』の話だ。
口を開いた時のエドは、まさに『口の悪いガキ』そのものである。
だが、確かに姿だけを見ていれば、美少年の部類に入るかもしれない。
中身があんまりにも違うので、ハボックは今までそんなふうに見た事など無かったのだが・・・
改めて、よくよく観察してみれば、そうかもしれないと思う。
そう考えると、大佐が『美人』と言った訳が、なんだか理解できる気がした。
「うん、そうですね。」
「何がだ?」
突然呟かれたハボックの言葉に、ロイはやっと我にかえったように、振り向いた。
「・・・大将って、よく見れば美人っスね?」
ハボックは、一人で納得したようにうんうんと頷いた。
「さすが大佐、お目が高い!」
そうふざけた調子でロイの方を振り返ったハボックだったが・・・
ロイの姿を見た途端、『ズサッ』と数メートル、一気に後ずさった。
「どうした、ハボック?」
「ど、どうしたって・・・・・とりあえず、その手を下ろしてもらえませんか?」
「手?」
ハボックの言葉に、ロイは訝しそうに自らの手に目をやると・・・
発火布の手袋をはめている右手が上げられ、まっすぐに前のほうに伸びている。
しかも、戦闘体勢の『指パッチン準備』状態である。
それは明らかに、ハボックのいる方向に向けられていた。
「・・・・・・あれ?」
右手を下ろし、その手のひらをマジマジとロイは見つめた。
「あれ?・・・じゃ、ないですよっ!!いきなりどうしたんですか?!」
まだ、遠くに離れたまま、ハボックは恐々と震えながら叫んでいる。
「あ、いや・・・・考え事をしていたらしい。無意識だな・・・たぶん」
ロイは、あやふやに答えた。
自分でも、何故戦闘体勢など取っていたのか、よくわからない。
と、言うか、さっきまで自分は何を考えていたんだったか?
なんだか、霞がかかったように、ついさっきの記憶がはっきりしない。
『何を、考えていたんだっけ?』
確か、ハボックが鋼のを『美人』だなどと言ったのを聞いた瞬間、なんかこう、ムカムカして・・・
ムカムカ???
ボーッとしたまま、手を見つづけている大佐に、ハボックは、やっと緊張を解いた。
「無意識で燃やされたんじゃ、たまんないっすよ。・・・いったいどうしちゃったんですか?」
そう言いながら、ロイの側へと近づいた。
やっと、そばに戻ってきたハボックに、ロイは苦笑いをして見せた。
「すまんな。・・・少々疲れているらしい」
そんなロイに、ハボックは眉を顰めた。
「・・・まぁ、あんなにお偉いさんが団体で居座ってますからね。心労も重なりますよ」
大丈夫ですか?
そう、心配げに聞くハボックに、ロイは手をひらひらと振って、歩きだした。
「この位、なんともないさ。・・・行くぞ」
「はっ!」
カツカツと軍人特有の歩き方で歩き出した大佐に、ハボックは短く敬礼すると、その後を追った。
この時の大佐の奇行を、ハボックは「疲れの為」と納得し、収めた。
ロイ自信も、ふと浮かんだ違和感を認識できず、胸の奥にしまいこんだ。
『無意識』・・・終わり
これで気付かないってのも、どうかと思う(笑)
でも、やっとアルが出せて、嬉しいな〜♪
・・・3・4回で終了する予定です。たぶん。(笑)