呼んだのは?

 
「さぁ、そろそろ休憩にしようぜ?」

東方司令部の指令室。
いつもの休憩時間に、いつものティータイムが始まる。
でも、今日は若干メンバーが違う。
いつもお茶を入れてくれる、紅一点のホークアイ中尉は大佐のお供でお出かけ。
当然、大佐も出かけている。
その代わりと言ってはなんだが、イーストシティに滞在中のエルリック兄弟がこの部屋にいた。
エドとアルは空いている机の上に本を山積みにして、それを読みふけっている。

「エド、アル!おまえらもこっちこいよ!」
ブレダの呼び声に、 「はーい」 と鎧姿に似合わぬ可愛い声で返事をして、
アルフォンスはすぐに立ち上がったのだが、兄貴の方からは返事がない。

「エド?お前も来いって!」
本から顔を上げないエドに、もう一度呼びかけるブレダを、アルが静止した。

「ああ、ブレダ少尉、いいですよ・・・ほっといて」

ああなると、全然回りの音が聞こえなくなっちゃうんですから
そう、ため息をつきながら、アルフォンスは諦め声でそう言う。
「すこい集中力だね?」
フュリーがお茶を皆に配りながら、感心したように言った。
「あの年で国家資格をとるくらいだからな」
ファルマンが、今までの国家錬金術師の平均年齢などのうんちくを延べだす。
その口を塞ぎながら、ハボックは面白いことを思いついたような顔で言った。

「でもさ・・・本当に聞こえないのか?」

ハボックの一言で、皆が顔を見合わせた。
「賭けるか?」
ニヤリとブレダが笑う。
「何を賭けるんです?」
どうやらファルマンも乗り気のようである。
「昼飯を奢るって事で、どうだ?」
勝ったやつに、残りの負けた奴らが1回づづ奢るってことで?・・・そうブレダは言う。
「いいですね」
とファルマン。
「よーし、決まり!」
ハボックの声で、決定となる。

「いいんですか、大佐や中尉にばれたら・・・」
フュリーだけが心配そうに声を顰めるが、
「大丈夫だって、まだまだ帰ってこねえよ。いつも予定より長引くだろ?」
乗り気な他の3人に言いくるめられ、ため息を吐きつつ、なし崩しで4人の賭けが始まった。

「ルールは?」
「一回づつ呼んでみて、返事させたら勝ち」
「でも、兄さん返事する時はよくありますよ?もっとも、生返事で・・・・・ちゃんと聞いてるわけじゃなく、条件反射みたいなものですけど・・・・・」
兄を肴に遊んでいる大人達に苦笑しながら、割と楽しんでいるような口調でアルが口を挟む。
「うーん、それじゃあ・・・エドが呼んだ奴のところに来たら、ゲームオーバーだ」
「「「了解!」」」

じゃんけんの結果、フュリー・ファルマン・ブレダ・ハボックの順番に決まった。
そして、ゲームは始まる・・・・

「エド君!」
「エドワード!」
「エド!」
「大将!」
一回目は返事すらなし。

「エド君、お茶飲まない?」  「ん―――」
「エド、クッキーあるぞ?」  「ん―――」
「エド、チョコはどうだ?」  「ん―――」
「大将!ドーナッツ好きだろ?」  「ん―――」
二回目、餌付けに生返事。

「手強いなー?」
「どうします?」
「・・・大佐の真似でもしてみるか?」
「お、それいいかも!」

「鋼の、お茶だよ?」
「鋼の、返事をしないか!」
「鋼の、こちらを向きたまえ!」

「・・・・効果なしですな」
「大佐の真似もだめかぁ・・・?」
「・・・似てないってのもあるんじゃあ・・・」
皆が頭を抱えたとき、ハボックが不敵な声で笑う。

「君達、工夫が足らんよ、工夫が!」
不服そうな皆に 「いいから、見てろ?」 と言い置くと、
立ち上がって窓際にある大佐の椅子に腰を降ろした。
「きったねー!」
ブレダの非難も何処吹く風。
「呼んだ奴のとこに来たら・・・ってルールだろ?何処で呼ぶかは勝手だ」
そうニヤリと笑うと、足を組んで髪をかきあげ、偉そうにふんぞり返った。
(どうやら、大佐になりきっているらしい・笑)
大佐の机の前に、皆も移動して見つめる中、ハボックは一つ咳払いをした。

「ゴホン・・・・・・・・・・・・エディ、いい加減にこちらにきたまえ?」

大佐しか呼ばないエドの愛称を使い、わざと低音を効かせて、大佐の声色を真似て彼を呼ぶ

カタン
呼びかけに答えるように、小さな音を立てて椅子からエドが立ち上がった。

「おおっ?!」
皆の驚きの顔。ハボックは得意げな顔。
だが、その皆の顔が、怪訝そうな表情に変わる。
立ち上がったエドは、確かにこちらに向かって歩いているのだが・・・・
その瞳は、本から一時も離れず
しかも、歩いてくる足元はどこかおぼつかない。

「なぁ・・・あれって・・・」
「「「無意識??」」」
3人は顔を見合わせるが、ハボックは勝ち誇ったように笑った。

「へへん、でも 『呼んだ奴の所にエドが来る』 って条件はクリアだ!」

オレの勝ちだな!
自分の方に近づくエドを見ながら、そう笑ったハボックだったが・・・
次の瞬間、その顔が凍りついた。

「た、大将?!」
ハボックの前まで進んだエドワードは、あろうことか・・・・・・・
その膝の上に 「ちょこん」 と横向きに座ったのである。
焦りまくるハボックに気付く事もなく、当然のように座ったエドは更に・・・

「!!!」

ハボックの瞳が、驚愕で見開かれる。
膝の上に座ったエドは、摺り寄せるようにその金色の頭をハボックの胸に預けたのだ。
そして、何事もなかったように、その体勢のまま本を読みふけっている。
自ら、お姫様抱っこのような体勢で体を預けるエドワードに、全員衝撃を受けた。
表情はわからないが、たぶん彼の弟もだろう。

「なあ・・・これって・・・」
「いつもこうしているってこと・・・?」
「だろうな・・・・」
シーンと黙り込んだ皆をよそに、ハボックは顔面蒼白だ。

「大将!!いい加減に気付けって!こんなとこ大佐に見られでもしたら・・・!」
燃やされる・・・そう続けようとした時。

「私がどうかしたのか?」

聞こえてきた、覚えのある低音の声に、そこに居る全員が固まる。
ギギギ・・・と音が出そうなほどぎこちない仕草で振り返ると、
そこには怪訝そうな顔をした大佐とホークアイ中尉が立っていた。

「た、大佐・・・・予定では後2時間くらい戻られないはずじゃあ・・・?」
やっと搾り出したブレダの声に、ロイは顔を顰めた。
「私が早く戻ると何か都合が悪いのか?」

『はい、とっても都合が悪いです!!!』

まさか、そう言える訳もなく・・・・・・・・・
3人は、冷や汗をたらしながらハボックとエドが見えないように、さり気なく壁を作る

「何故、私のデスクの周りに集まっている?」

そこに見られたくないものでもあるのか?
そう意地悪く笑みを浮かべ、ロイが近づく。

「大佐、いけません!!!」
フュリーが半ば悲鳴のような声を上げる。
「自分のデスクに向かって、何が悪い?」
どうせハボック辺りが人の椅子で居眠りでもしてるんだろう・・・・・
そう思いつつ、ふさがる壁をよけて、デスクの前に立ったロイだったが。

「・・・・・・・」

黙ったまま、ロイの漆黒の瞳が細く閉じられる
全員顔面蒼白。
ハボックに至っては、蒼いを通り越して既に真っ白である。

「ハボック少尉、これはどういうことかな?」

静かな声が、余計に怖い・・・・・・
「大佐っ、これはですね!!・・・これは事故と言うかなんというかっ」
必死に弁明をするハボックを横目に、ロイはデスクの横に回りこみ、2人の前に立った。

おもむろに、エドの本を取り上げる。

「なにすんだっ!!!」
突然、目の前から消えた本に、一瞬呆けたような顔をしてから、
エドはハボックの胸からようやく頭を離し、取り上げたであろう、自分の前に立つ人物に怒鳴る。
「鋼の、とりあえずそこから降りたまえ」
そういわれて、エドは怒鳴るのもやめ、きょとんとロイの顔を見つめた。

「あ・・・れ、大佐?何で、前にいるんだ??じゃあ、こっちに居るのは・・・・」
エドは混乱したように、自分が座っている人物を見あげた。

「ハボック少尉!?」

「・・・よぉ」
そこには青ざめならが、何とか苦笑いを作ってみせる、ハボック少尉がいた。
やっと現状が飲み込めてきたエドは、慌てて膝から飛び降りる。

「ご、ごめん、少尉・・・・・」
かあっと頬を朱に染めて、しどろもどろで謝るエド。
いつものように、ロイ専用の執務室で彼の膝の上に居たと勘違いしていたのだ。
皆の前での醜態に、穴があったら入りたい気分である。
「わりぃ・・・なんかオレ、勘違い・・したみたい?」
「あ、いや・・・うん、気にすんな・・・」
2人で真っ赤になりながら俯く。
それを見ていたロイの辺りから 『不機嫌なオーラ』 が漂ってきて
フュリーは「ひいっ」と小さく悲鳴を上げた。

「鋼の」
さっきよりも低いロイの声に、ホークアイ以外の部下は直立したまま固まった。
「なに、大佐?」
エドだけ、その雰囲気がわからないのか、ぽてぽてとロイの前に進み出た。
「頼まれていた資料が届いた。私の執務室にきたまえ」
「えっ、ホント?!」
嬉しそうに見あげてくるエドの背中を押して、先に行かせる。
エドがロイの執務室に向かって駆け出していってから、ロイは部屋に残っている者達に向き直った。

「ハボック少尉」
「はいっ」
冷や汗をダラダラかきながら返事をすると、冷たい声が返ってきた

「話がある」

後で執務室に来るように。
そう言って部屋を出るべく踵を返す大佐に、ハボックは慌てた。
「大佐っ、あれはですねっ・・・エドの方からっ!!」
言い訳をしようとしたハボックを、ロイは手を上げて静止した。

「分かっているとも、少尉・・・」

ロイの瞳がハボックを捉える。
「・・・ 『エディ』 は 『私に呼ばれた』 と勘違いしたんだろう?」
「!!」
そう微笑むロイだが、もちろん目は笑っていない。

「後で、呼ぶ」
「はい・・・・・・(泣)」

お見通しっすか・・・・と、ハボックはガックリと肩を落とした。
それを気の毒そうに見守っていた3人だったが
ロイは、今度は3人に向き直った。

「もちろん、お前達も同罪だから」
そう言い放って、部屋から出て行くロイを、3人は真っ白になって見送った。

事の一部始終を無言で見守っていたリザだったが、ため息を一つ吐くと、アルフォンスに声をかけた。
「アル君、これから資料室の整理を手伝ってくれないかしら?」
「あ、はい!いいですよ」
そう言って、アルはガシャガシャとりザの元に走り寄る。

「「「中尉!!!是非自分もお手伝いします!!!」」」
中尉と一緒に居れば、何とか大佐の怒りをかわせるかも知れない!!
そう一縷の望みを胸に、リザに駆け寄った面々だったが・・・・

「あなた達は、自分の業務を早めに終えなさい」

後で、大佐から呼ばれるみたいですから
そう、ポーカーフェイスで言うリザに、全員がガックリと肩を落とした。

「アル君、今日はここの仮眠室に泊まりなさい。
・・・・・・私が夜勤なので、ブラックハヤテ号も連れてきたから」
一緒に遊んでくれると嬉しいわ?そう言ってリザは微笑んだ。
「えっ、いいんですか?」
「ええ、かまわないわ」
嬉しそうな声を出すアルフォンスに笑いかけながら、
「エド君は宿に帰れないでしょうからね・・・」 と、リザは小さく呟いた。
そして2人は和気藹々と、姉と弟ように2人は連れ立って部屋を出て行った。

後に残った4人のバックには、ブリザードが吹き荒れている。
フュリー曹長の
「だがら、嫌だったのに・・・・(涙)」
と言う呟きが、空しく部屋に響いていた。

『呼んだのは?』・・・終わり



甘えエド(笑)
酔っ払ってもいないのに、ここまでボケるのもどうかと思いますが・・・・(汗)
そもそも、お膝の上に自分から・・・なんて、彼の性格からすると絶対やらなそうだけど。
甘えるエドが書いてみたかったんです♪
大佐の前だけでは甘えた姿を見せるエド・・・・・・・萌えvvv(腐ってる・・・)
大好きな東方司令部の面々も勢ぞろい♪
こんな感じのギャグ話がすごく好きだったりします。
ハボック少尉がちょっとかわいそうですが・・・・・・ごめんね、ハボ!(^_^;)
でもって、やっぱり中尉は最強!が、絶対条件ですよね!
この後、エドはやっぱりお持ち帰りされたことでしょう(笑)大佐ってヤキモチ焼きっぽい気がします。
ところで、司令室に大佐用の机と椅子ってあるんですか?(いまさら・・・・)



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