「はぁ・・・・・・・・」

ロイは大きなデスクに突っ伏しながら、重いため息を吐く。
非情な副官は、『大総統、朝っぱらからヘタレてないで、仕事してください』そう言い置き、
ついでに書類もどっさりと置いていってしまった。

「昨日、あんなにたくさん処理したはずなのに、何故今日もこんなにあるのだ?」

忌々しげに呟き、少し体を起し、目の端で書類の束を睨んでは見るものの、
手を出す気にもならず、またデスクに懐いてしまう。

到底、仕事などする気にもならない――――

また一つ、ため息。
そして、昨日の場景が蘇る。

『エディ・・・・・・君に会いたい』



「公約」番外編・・・『新たなる野望』



あの後、ロイを苛めてある程度気が済んだらしいエドは、急激に眠気に襲われたようで、
『縛られたまま暗闇に一人放って置くのはあんまり非人情だしな、電気つけといてやるよ』
そう、ちょっとだけ温情を見せ、『じゃ、オレ寝る。おやすみ〜』とだけ、言い置いて
電気をつけたまま、彼はベットに縛られた自分の隣で寝息を立て始めた。

一人っきりで放って置かれないだけマシだ・・・と、思ったのもつかの間。
『こんなことなら一人で暗闇に置き去りにしてくれ〜(涙)』
すぐに、そう心の中で叫ぶ自分がいた。

なにせ、エドはあのままの格好で寝てしまったのだ。
寝苦しいからか、上着だけは脱いだものの、白いシャツのボタンは3つ外して肌蹴たまま。
そして、生足に少しスリットの入ったミニスカートを履いたまま、である。

電気はこうこうとつけっ放しのままなので、否応無しに目に入ってくる彼の姿態。
梳かれた髪は乱れて白いシーツに広がり、
寝息を立てる、少し開いた唇は、キスを強請っているようだ。
相変わらず、自分で腹部を露出させるし、
動くたびにみえそーでみえない、スカートの辺りも堪らない。

ただでさえ、ここのとこ触れる機会も少なく、彼を欲していたところだった。
しかも、今日も散々焦らされて、期待させられた後である。
どうしようもなく煽られて、触れたいと身をよじってみるのだが、
がんじがらめの体はどうにもならない。
発火布の手袋が無くても、ペンの一本でもあれば錬金術を使って抜け出せるのだが、
そんなものをエドが与えてくれるわけも無く、涙を飲むしかない。

はぁ・・・と何度目か分からないため息を付いた時、何かが触れてきた。
首を動かし見てみると、エドの手が、するりと絡みついてくる。

『許してくれる気になったのかっ!!』

そう期待しつつ顔を見てみると・・・・・・・
閉じられた瞳に、変わらぬ寝息。
・・・・・どうやらねぼけているらしい。

「エ、エディ・・・・・?!」

そのままぴったりと体を寄せて来て、腕どころか足まで絡められ、ロイは焦る。
『冗談じゃない!!』
通常なら大喜びする所だが、今は正直、生地獄である。

「エディ!!寝ぼけるんじゃない!目をさま・・・・」

これ以上煽る気か?!と、少々腹立たしくなり、語気を荒げると・・・・

「ろ・・・い」
「!」
「ろい・・・の・・・ばか・・・」
「・・・・・エデ・・・」
「うわき・・もの・・・ばか・・・やろ・・・・」

うっすらと目尻に滲む涙。
ロイは言葉もなく、黙り込むしかなかった。

「エディ・・・・・・」

少しして、名前を呼んでみるものの、目を覚まさない。

「すまない、エディ・・・・・・君を傷つけるつもりじゃなかったんだよ」

答えはないけれど、エドはますますロイに擦り寄ってくる。
近くなった彼の金糸に、唯一動く頭を向けて、口付けた。

「愛してる、エドワード。君だけを・・・・・・」

そう囁くと、悲しげなエドの表情がふわりと柔らかくなる。
ロイはそれに、ホッと息を吐き、首を動かして今度は彼の額に口付けた。

―――不特定多数の者に嫉妬するぐらい
        この金色の恋人は、自分を愛してくれている――――

さっきまでの落ち込みも苛付きも、すっと消えていくようだ・・・・・
換わりに首をもたげる、罪悪感。・・・・・そして、幸福感。

「エディ」



愛しい恋人よ目を覚ましておくれ
そしてこの戒めを解いてくれ
体が自由になったなら心の底から謝罪して
君の不安が掻き消えてしまうほど強く抱きしめよう
私がどれほど君を愛しているかを伝えよう



ロイは軽く目を閉じてから、また恋人の顔を見つめた。

「エディ・・・エドワード、目を覚ましてくれないか?」

ロイの囁きに答えるように、エドの唇がかすかに震える。

「ろい・・・・・」
「エディ?起きたかい・・・・?」
「や・・・・・だめ・・・・ぇ」
「は・・・?」

自分の名を呼ぶ恋人に、『目を覚ましてくれたのか?』と喜びかけたロイだったが、
次に聞こえてきた、どうにも色っぽい吐息交じりの台詞に、目が点になる。

「や・・・ん。ろい・・・だめ・・・だってばぁ・・・」
「・・・・・・。」

これは、もしかして、もしかすると、もしかしなくてもっ!?

身をよじるようにして、色っぽい声で擦り寄ってくるエド。
どうやら『うれし・はずかしv』な夢をみているようだ。(笑)

これが、縛られていない時ならば
「ふふ、可愛いね・・・」
などといいながら、夢でなくしてやるところだけれど、この格好ではどうしようもない。

「エディ!!お願いだから目を覚ましてくれ!!」

ロイの悲痛な懇願も効果なく、エドは起きる気配もみせない。
軍人たるエドは、殺気でもあればさすがに体は反応して、すぐに覚醒できる。
・・・・・だが、元々は寝汚い方である。(寝相も悪ければ、よく寝ぼけて寝言も言う)
しかも、今夜は普段は呑まない酒を結構飲んでいた。
(タラシの恋人を呪っての自棄酒か、ミニスカート姿の現実を忘れる為かは、謎)
そんな悪条件も重なり、とても起きてくれそうも無い。

「あ・・・んっ・・・・おれも・・・・・すき・・・・・v」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、エディ!!」

情事の最中しか言ってくれない、大サービスな呟きを口にしながら
首筋に吸い付かれ、ロイは興奮とも冷や汗ともつかない汗が噴出してくるのを感じた。

そして――――

「ごめん、私が悪かった!謝る、謝るから!!
もう2度と軍の女性達のミニスカートを見たいなんて絶対言わないから!許してくれエドワード!!
お願いだから、私を解放してくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!(←いろんな意味で・笑)」

真夜中の寝室に、相変わらずギチギチに縛り付けられたままの、ロイの叫びが響き渡った。



******



「ん・・・・・朝・・・?」

小鳥の声と朝の日差しに目を細めながら、エドは上半身を起した。
欠伸と共に一つ伸びをして、ふと隣をみると・・・・・

「あ、そういや、アンタこのままだったんだっけ。これに懲りて、もう・・・・っ、ロイ?!」

縛り付けられた恋人の姿に『ちょっとやり過ぎたかなー』などと思いつつ、その顔を見て驚いた。
目は充血、目のしたには盛大に隈が出来ていて、疲労困ぱいといった感じでぼーっとしている。

「ロイ、大丈夫かっ!?締め過ぎた??ごめん、今外すからっ」

顔色の悪い恋人に焦りつつ、慌てて両手を合わせる。
そしてベットに手をつくと、まばゆい閃光が走り、ロイの戒めは解かれた。
しかし、解かれてもロイは動こうとしない。
エドは焦って、彼の顔を覗き込んだ。

「ロイ、どこか痛い?!わっ・・・・」

彼の肩に手をかけ、ゆすった途端、エドの視界が反転した。
目の前には恋人の顔。でも、その後ろに見えるのはベットではなく、部屋の天上だ。

一瞬のことで訳がわからなかったエドだったが、やっと組み敷かれたのを把握した。
自分の上に乗っている男を顔を見ると、やはり隈があって疲れた様子だったが、
先ほどのような空ろな目はしておらず、じっとこちらの顔を見つめている。

「・・・なんだよ。昨夜の報復?」

してやられた悔しさに、相手を睨みつけながらそう言うと、
予想に反して、彼はゆっくりと横に頭を振った。

押さえつけていた両腕を解放して、ロイはあらためてエドの右手をとり、その甲にそっと口付ける。
そして、その手を頬にあてて、金の瞳を覗き込んだ。

「いや。報復じゃない。謝罪を・・・ね。」

エドは、目を見開く。

「昨日はすまなかった。・・・・・君の気持ちをもっと考えるべきだったよ」
「ロイ・・・・・・」
「だが、これだけは信じてくれ」

―――この私を、君以上に夢中にさせるものなど、ありえない
          君以上に魅力的な存在など、いるわけがない
                     私の心は、君だけのものだ――――――――――

ロイの真摯な告白に、エドは睨んでいた目線をフイッと逸らした。

「オレ・・・・・・なんか、寝言でみっともないこと、言った?」
「みっともないことは言っていないが・・・堪らなく可愛い事は、言っていたかな?」

バツが悪そうな口調で聞くエドに、ロイは少し茶化すような調子で答える。
その途端、カッと赤く染まっていく頬に、口づけを落とす。

「堪らなく可愛くて、愛しくて、幸せで・・・・・そして、胸が痛んだよ」

愛しい君に、そんな思いをさせてしまうなんて、恋人失格だな。
ロイは自嘲的な笑みを浮かべると、横を向いたままこちらを見ようともしない恋人の頬に手を添え、
優しくこちらを向かせ、もう一度その瞳を覗き込む。

「愛してる、エドワード。もうあの命令は2度と出さないから・・・・・許してくれるかい?」

窺うように聞いてくるロイに、エドもやっと視線を戻して彼を見つめる。

「しょーがねぇなぁ。・・・今回だけだぞ?」

照れ隠しだろう、『あーオレって、あまい!!』などと、ブツブツ言っているエドに、
今朝方までの仕打ちも忘れて、頬が緩んでくる。
『甘いのは、私の方かもな』
どんなことをされても、愛しさは消えることなく、増すばかり。
いったいこの小悪魔(たまに大魔王だが)は、どれほど自分を魅了すれば気が済むのだろうか?

「エディ」

名前を呼ぶと、照れくさそうに見つめ返してきて・・・
ロイは、ゆっくりと覆い被さるように、身を沈めていき―――
二人の唇が重なろうという瞬間、

パッパー

突然表でクラクションの音が聞こえて、大声を上げて、エドが起き上がった。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「うわっ!!」

勢いつけて押しのけられ、ロイはベットの下に転がり落ちてしまった。
「あ、ごめん!!」
エドが慌ててロイに手を貸して起す。
「なんなんだ、いったい・・・?」
体を擦りながら聞いてくるロイの質問には答えず、エドは窓に走りより開け放つ。

「おはようございます、少将!・・・・・って、まだ仕度できてないですね?」

窓の外にいたのはブロッシュ大尉。
乱れたエドの髪に苦笑している。

「ごめん!!今すぐ行くから!」
「お早く願いますよ〜。列車の出発時刻が迫ってますから!」

エドはクローゼットから着替えを取り出すと、バタバタを洗面所のほうに駆けていった。
呆然とそれを見送っていたロイだったが、ハタ、と気が付いて窓辺に寄った。

「ブロッシュ大尉」
「え・・・・・?うわっ、大総統閣下!!・・・・・おはようございますっ」

車に背を預け、エドが出てくるのを待っていたブロッシュは、
突然の声に窓を見上げ、それがとんでもない人物だった為、慌てふためいて姿勢を正し、敬礼した。

『うわ・・・・・・・ぉ///』

ロイの姿は乱れたバスローブのまま。(もっとも、下からでは胸の辺りまでしか見えないが)
そして、これまた乱れた髪を、なにやら疲れたような顔で鬱陶しそうにかきあげている。
先ほど見た自分の上司の乱れた髪と思い合わせて、ブロッシュは赤面した。

『なるほど、それで起きれなかったのかぁ』

2人が恋人同士だというのは知っているものの、こんな風に目の当たりにして焦らずにはいられない。
まずいモノを見てしまった・・・といった感じに、目を泳がせた。

「エディ・・・少将の今日の予定は?列車の時間とか言っていたが」
「はっ、これより北方視察にお出かけになる予定です」
「北方?!期間はどれぐらいだ?」
「3日ほどであります。ですが・・・その後そのまま西方に向かわれ、また10日ほど・・・」
「!!」

『なにー?!それでは、このままエディに2週間近く会えないのか?いや、移動時間を考えると、もっと・・・』

表情を険しくする大総統に、ブロッシュは訳もわからず、ビクビクと次の言葉を待っている。

「少将の北方視察は中止だ」
「え?は・・・しかし・・・・(汗)」
「代わりの者を・・・・ぶっ!」

イライラしたような大総統のお言葉は、スパーンと見事な音と共に途切れた。
窓から落ちてきた物を拾ってみると・・・・・スリッパだった。これが音の主らしい。
そして、それを投げつけたであろう人物の怒鳴り声が聞こえてくる。



「勝手に人の予定をかえてんじゃねー!!」

軍服に着替え(もちろんミニスカではない・笑)、髪をキリリとポニーテールに結い上げたエドが、
寝室の入り口に、スリッパを投げつけたままの格好で立っていた。
その姿に、ため息が洩れる。

「もう、着替えてしまったのだね・・・・・・」
「あったりまえだろっ!!あんな格好で仕事なんか出来るか!」
「もちろん、あの格好は他の者には勿体無くて見せることなど出来ん!!
・・・・・・だが、私はもう少し見ていたかったな・・・っていうか、触れたかった・・・」
「・・・・・・こんの、ミニスカ狂いのエロオヤジ!(怒)」
「なぁ、エディ。視察は別に君じゃなくても・・・・・・・」
「もう決まってるの!!我侭言うな!!」
「だが、北方への視察は、昨日キャンセルして帰ってきたのだろう?何故また・・・・・・・」
「取りやめになったわけじゃなくて、先に伸びただけなの」

そう言って、そっぽ向いたエドに、違和感を感じる・・・

「もしかして・・・君、アレを止める為にわざわざ・・・・・?」
「さぁってねぇ?じゃあ、オレ行くから」
「まっ・・・!」

ロイの静止に耳も貸さず、エドは入り口近くにあったトランクを引っつかむと、駆けていってしまった。

やられた・・・・・・
薄々そうかなとは思っていたが、やはりリザ辺りと手を組んでいたのか。

重い足取りで窓辺に寄ると、丁度エドが車に乗り込むところだった。
窓辺に立つロイに気付いたエドが、こちらを振り向く。
ニヤリと笑ってから、わざとらしく敬礼してくる。

「では閣下、行って参ります」
「・・・・・・・・・・・・ああ」
「私の留守中、身辺お気をつけください。残党の動きが煩くなってきていますから」
「・・・・・・わかっている」
「あまりホークアイ大佐に面倒かけないであげてくださいよ?」
「・・・・・・わかっている」
「いいこにしてたら、なるべく早く帰ってきてやるから」
「・・・・・・わかって・・・・・っ?エディ?!」

慌てて身を乗り出すと、悪戯っぽくウインクして、彼は車に乗り込んだ。
ブロッシュ大尉もなにやら赤い顔をしてこちらに敬礼をしてから、運転席へ。
そして、車は滑るように門を出て行った――――

置いていかれたロイは、疲れた足取りでベットに倒れこんだ。

自分が唯一頭の上がらない男女、エドとリザ。
あの二人にタッグを組まれ、敵うはずが無い。

もう、今日はサボってしまおうか・・・・・?

恋人におあずけを食らったまま、置いてきぼりをくった男は、拗ねたように目を閉じる。
その途端、部屋の電話が鳴り響いた。
忌々しげに受話器を耳に当てると、聞きなれた副官のクールな声。

「大総統閣下、おはようございます。
後5分でお迎えにあがりますので、身支度を整えてお待ちになってください」

・・・・・・・もう、本当に泣いちゃおうか?・・・と思う、ロイだった。



******



そして、出勤はしたものの、ぐったりとデスクに懐いたまま。
寝不足でぼーっとした頭の中に浮かぶのは、やはり愛しい恋人のことばかり。

『エディ・・・・・・・』

昨日は、本当に酷い目にあった。
ある程度は覚悟していたものの、こんな報復は予想外だった・・・・・

『それでも・・・・・・』

確かに酷い目にあったが、彼があんなに愛していてくれていると分かったのが、救いだ。
・・・しかし、アレだけであんなに盛大にヤキモチをやいてくれるとは。

「やはり・・・すれ違いが多いからかな?」

トップに立って2年。
少しは落ち着いてきたものの、まだまだこの国は不安定だ。
そのため、自分も忙しく、心の底から安らげる事が無い。
たまには息抜きを・・・とあんな命令を出したりもしているが、普段はやはり多忙な日々。
将軍としてのエドにも、日夜激務を強いているのが現状だ。

『もっと、一緒にいて愛し合える時間が多くなれば、
彼もあんなことで嫉妬することもないのかもしれない・・・・・・・・・・・』
また、しばらく会えなくなってしまった、恋人を思い浮かべて考える。

自分がこうして会えない時間を『寂しい』と感じるように
きっと彼も『寂しい』のだ。

『ならば・・・・・・・』

ロイはデスクから頭をあげ、積み上がった書類の束を見つめた。



******



「閣下、失礼致します。書類の進み具合はいかがでしょう・・・・・・・あら?」

大総統執務室に入室してきた副官は、珍しく驚きの声を上げた。
多分進んでないだろうと思いハッパをかけにきたのだか、驚くことにほとんど片付いている。

「ああ、大佐。丁度呼ぼうと思っていたところだ。これを片付けてくれ」
「はい」
「他にも決済書類があったら持ってきたまえ。早急に片付けて、テロに関した臨時会議をする」
「わかりました。・・・・・が、どういう風のふきまわしですか?」
「私はやる時はやる男だ」
「それは承知しておりますが、サボる時はサボり倒すお方なのも心得ておりますので、
なんだか薄ら寒いです」
「・・・・・・・・君ね」

最高地位についた今でも、ズバッと切りつけてくる副官にガックリと肩を落とす。
だが、彼女の言葉はいちいちもっともなので、たてつく気にもなれない。

「・・・実は、新たな野望が出来てね」
「野望・・・・・ですか?」

またですか?・・・といった風に、あからさまに嫌な顔をする彼女に苦笑する。

「安心したまえ。・・・・・今度はきっと君にも賛成してもらえるはずだよ」
「是非、そう願います」

まだ、疑わしそうな副官に苦笑しながら、ロイは椅子を回して窓の外を見た。

早く国政を安定させよう
簡単に揺るがないくらいに
国民が安心して笑って暮らせるように
皆が願う平和な国をつくりあげる
前々からのその目標を、一日も早く成し遂げよう

そして、お互いの肩の荷が軽くなったら
もっと、一緒にいられる時間を増やして―――――

「ホークアイ大佐」
「はい」
「一刻も早く、この国に平和を取り戻そう」
「・・・・・・はい。あなたなら、必ず出来ます」

微力ながら、私もご助力を。
そう言いながら頭を下げるリザに、ロイは深く頷いた。



******



「お〜帰ってきたのかぁ、ブロッシュ大尉」

ブロッシュがロイの側近達の集う部屋に顔を出すと、ハボックが手を上げて労った。

「ええ、ついさっきですよ」
「どうだったー?」
「まぁ、滞りなく・・・・・といったところですか。こちらはどうでしたー?」
「とりあえず、平和。だが、すごいことがあったぜ?!」
「え、なんです?」
「大総統閣下が、息抜きもせずに一所懸命に仕事をしてた!!」
「それって、そんなにすごいことなんですか・・・?」

あたりまえのことなんじゃあ?と呆れたようにブロッシュはため息を吐き出した。
確かに『大総統閣下にサボリ癖がある』とは、聞いた事がある噂だが、
閣下の側近ではない自分は、そんな姿をあまり見たことが無い。
それどころか、見たことがあるのは、威厳を持って的確に指示する出来る男の姿だけである。
だから、よく側近達がいう『サボる・だらしない』などの言葉は、どうにもピンと来ない。

「ああ、お前はあんまり見たこと無いだろうからな・・・閣下は確かに素晴らしく有能な方だが、
たまにどうしようもなく無能に成り下がる時があるんだよ」
「む、無能ですか・・・・・?」
「そう。雨の日と、エルリック少将が出掛けてしまった時」

お前はエド付きだから、一緒に出かけちまうから、知らないだろうなぁー?
そう言って、側近達は可笑しそうに笑う。

「大総統、エドにメロメロだかんな。
居なくなると心ここにあらず・・・って感じにボケて、よくホークアイ大佐に怒られてんだよ。
それが、今回はシャキシャキ仕事してんだぜ?皆で『雨が降る』とか『槍が降る』とか言ってたんだ」

咥えタバコのままそう言うハボックの言葉を聞いて、ブロッシュはふと出発前のあの出来事を思い出し
赤面した。

『あー、もしかしてそれって、あの時少将に言われた言葉のせいかなぁ?』

かぁっと、みるみる赤面していくブロッシュに、ハボックは訝しげに声をかける。

「もしかしてお前、なんか知ってんの?」
「あー、いやー・・・・。お二人のプライベートなことですしぃ」

目を泳がせるブロッシュに、ハボックは立ち上がって近づき、ガッシと肩を組む。

「かまわねぇよ、隠すなって!!誰にも言わないからよ?」

ふと見ると、側近達に取り囲まれていて、ブロッシュはしどろもどろになりながら、
あの日の朝、自分が見聞きしたことを白状した。

「実は・・・・・・・」





その後、軍部には

『大総統が一生懸命に仕事をしていたのは、お気に入りのエルリック少将に
―――「いい子にしてないと、もう帰ってこない」と、三行半を突きつけられたせいらしい』

そんな、ちょっと間違った噂が流れたらしい(笑)

ここのところ、『国政を安定して、一日も早く平和な国の実現を』と頑張ってきたロイは、
その噂を聞いて、久しぶりにヘタレていた。

「なんだか、今回散々だ」

そんな呟きに、苦笑したエルリック少将が、
いい子にしていたご褒美か愛情かはわからないが、珍しく優しくしてやっている姿が見られたという。






新しい野望は、前々からの野望である『平和な国』を実現した時に、達成される。

―――――願いが叶った時、
           私はこの腕に君を抱きしめて暮らすのだ―――――



公約番外編・・・『新たなる野望』・・・終わり



私の記憶が正しければ、この話は『(公約で)いいとこなしだったロイをフォローするため』に書き始めたような?
なんつーか、全然・・・・・・
フォローになってません!(爆)
なんか、ますます酷い目にあってるような?(汗)ロイ。ごめんよ〜〜!!
でも、最後にエドに優しくしてもらってたから、オッケーか?(笑)
しかし、おまけのはずだったのに、『あの日の夜何があったか?』を書き出したら、止まんなくなってこんな事に・・・・
本編でも『ここ書きたいなぁ』と思っていたのですが、エドの微笑で終わらせたかったので、あっちではあえて書かなかったんですよ。
で、やっぱり書き足したくて『番外で・・・』と思ったら、止められない止まらない!(爆笑)
・・・・・・蛇足だったらごめんなさい。



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