「いらっしゃ・・・・・・あら!?」


セントラルの夕刻。
そろそろ閉店準備をしようかとレジを開けた店の主人は、勢いよく開いた扉から入ってきた客を見て
目を丸くした。
顔見知りの客ではあるが、ここに顔を見せるのは多分半年振りくらいだろう。
レジを再び閉めると、このプティックの女店主・セシルはにっこりと微笑んで彼らを迎えた。

「久しぶりねぇ!エドワード君・アルフォンス君」

懐かしそうに声をかけてくるセシルに、アルも嬉しそうに会釈した。

「お久しぶりです、セシルさん」
「元気だった?」
「はい。セシルさんも?」
「私は相変らずよ。あ・・・・・ココももちろん元気よ」

以前世話になったことがあるこのセシルは、30代の気さくな女性だ。
彼女とは、以前アルフォンスが拾った真っ白な子猫(この猫がココである)を引き取ってもらってからの
付き合いである。
久しぶりに聞いた名前に、子猫の姿を思い出してアルフォンスは嬉しそうな声をあげた。

「わぁ、会いたいなぁ〜」
「良かったら、これから家に来ない?ココも喜ぶわ」
「いいんですか!?」
「もちろん♪」


「―――――――――――――それより、頼みがあるんだけど」


突然聞こえた第三の声に、二人は振り向く。
今まで黙ってセシルとアルの会話を聞いていたエドが、唐突に喋りだしたのだ。

「ああ、ごめんなさいね、エドワード君。・・・・・・それで、頼みって何かしら?」

なにやら暗雲を背負ったようなエドに、少々引きながらも・・・・・セシルは首を傾げてみせる。
俯いていたエドは、セシルの問いかけに、ゆらりと顔をあげた。

「また服、見立ててほしいんだけど」
「えっ、服?え―――と・・・また、女性物でいいのかしら?」
「うん」
「そ、そう。どんなのかしら?ドレス?ワンピース?」

以前、訳あって女装しなくてはならなかった彼の手伝いをしてやった事があるセシルだったが、
前は思いっきり嫌がっていた女装を、エドが自分から申し出てきたのに驚く。
そして、更に鬼気迫るような表情に驚愕しながら問い掛けると――――


「ドレス!!すっげーかわいく・・・・・いや、出来る限り美人で色っぽくしてくれ!!」


そうキッパリ言い切ったエドの目は、据わっていた――――――





『しゃるうぃだんす?』





「・・・・・・これでどうかしら?」
「オレ、自分じゃよくわかんねーや?美人になってんのかな?コレ?」
「もちろん、すごく綺麗よ!!お世辞抜きで!!」
「そっか!・・・・・アル、どーだ?色っぽいか!?」

両手を腰に当てて、不遜な態度でふんぞり返って意見を求めてくるエド。

機械鎧の為、あまり露出する訳にはいかなくて、首も腕も足もでてはいないが・・・・・
赤のドレスは体のラインに沿って緩やかなカーブを描き、太ももの辺りから放射状に広がるデザイン。
太ももまではフィットしたシルエットの総レースで、緩やかに広がる部分は光沢のある素材。
髪は高い位置でポニーテールで結われ、赤いガラスで出来た髪留で飾られていて、
耳にも同じデザインのイヤリング揺れている。
・・以前女装した時の清楚な可愛らしさとは一転。そこにはどこか小悪魔的な色香を放つ美少女がいた。

ただし、偉そうな態度と、ギンギンに睨みつける挑みかかるような瞳が無ければ・・・・・だが。


「――――――その睨みつけるような目をやめれば・・・・・・・ね」

ため息混じりの弟の言葉に、『わかった』と深く頷いたエドは
『じゃ、行って来る!!』と、本当に分っているのか疑問がわくほど肩を怒らせて出て行った。
兄を乗せた車が走り去るのを見送りながら、アルはもう一つ深いため息を吐く。

「・・・・・ね、いったい何があったの?」
「えーと、まぁ、その・・・・・なんと言ったらいいのか。とりあえず、『愛を取り戻す為』 とでも・・・」

歯切れの悪いアルの言葉に、セシルは益々首を傾げたのだった。



******



「って・・・・・いねぇじゃねえか」

パーティ会場に潜り込んだエドは、キョロキョロとあたりを見回し、目当ての人物を探した。
だが、一通り探したのにも関わらず、見つからない。
広い会場であるから、他の人物なら見のがしたとも考えられるのだが、
あの、無駄に目立つ男を見のがしてしまったなど、考えられなかった。

『まさか、ガセネタだったんじゃねーだろうな?」

少々不安になって、エドは眉を寄せた。

そもそも、彼が何故こんな格好をしてこんな所にいるのか。
――――それは、ある情報を聞いたためである。



今日の昼過ぎ、所用でセントラル司令部に顔を出したエドだったが・・・・・
そのとき軍の女子職員がしていた噂話を聞いてしまったのだ。
噂の内容、それは――――――


『マスタング大佐が、今日の夕刻セントラルで見合いをするらしい』


それを聞いたエドは、何気ない風を装って、彼女達の輪に混ざった。
軍部の有名人、しかも可愛い美少年として女性達にも人気のあるエドを彼女達は歓迎し、
そして、その話を詳しく教えてくれたのだ。

今日、某実業家主催のパーティが開かれる。それに、ロイが招かれたらしいのだ。
特に親しい間柄でもないのに招待されたのは、実業家の一人娘がロイに熱をあげている為。
表向きはただ若くて有望な軍人を実業家がパーティに招待した・・・ということになってはいるが、
その実、娘と引き合わせるための見合いの意味合いが強いというのだ。
そして――――――それを知りつつ、ロイは招待を受けたらしい。

「ほんとに大佐、行くのかな?」
「あら、絶対よ?ある筋の情報を確認済みだもの♪」

ある筋ってどの筋なのか?
自信満々でそういう彼女達に別れをつげ、エドはその場から足早に離れた。



そのまま焦ったように話し掛けてくる弟を無視して、知り合いの伯爵家の長男に頼んで招待状を用意。
以前女装する為に使ったブティックに駆け込んで、着替えて今に至る――――――訳だが。


『どうすっかなぁ・・・・・』


勢い込んで会場に乗り込んだものの、目当ての人物がいなくて肩透かし。

『折角、オレの姿(しかも女装)を見て青くなったあの男の顔に、
見合い相手の前で『浮気者!』と罵倒してから、一発ぶち込んでやろうと思ったのに!!』

むう・・・・・と眉をよせてこれからどうするか考えあぐねていると、
近く話し込んでいるを着飾った女性たちの会話が聞こえてきた。

「知ってる?今日のパーティ、マスタング大佐もいらっしゃるそうよ?」
「ええっ!私以前にちょっとお会いした事があって、ずっと憧れていたのよ。嬉しい〜vvv」
「だめよ。私は『呼ばれた』っていったでしょう?・・・パトリシアがお父上に頼みこんだって噂よ?」
「え!?パティが狙っているの!?――――――私だって狙っていたのにぃ」
「諦めなさい、どんな男だってウェラー財団の一人娘の誘いを断る訳無いでしょう?
パティと結婚すれば、ウェラーの次期総帥よ」
「でも、マスタング様は軍人でしょう?事業には興味がおありにならないんじゃ?」
「あら、軍でだって有利になるわよ。何てったって莫大な財産が手に入る訳だし。
それを使えば昇進だって簡単よ。あの方の器量なら、両方手に入れられるんじゃないかしら?」

ああ、残念ね・・・
そう心底残念そうにため息を付いて、食事テーブルの方に歩き出す女性達。
その後で、エドは固まったように動けないでいた。

単純に、人に黙って見合いなどする浮気男に恥をかかせてやるつもりでここまで来た。
だが、真相は―――『浮気』などという簡単な物ではなく、あの男の未来が変わるかもしれない事態。
その女と一緒になりさえすれば、アイツの軍での立場はぐんとあがる。
それは、あの男が胸に秘めて・・・ただそれだけの為に理不尽なことも受け入れている『野望』に、
一歩どころか、数歩も数十歩も近づけるかもしれないということだ。

―――――しばらく固まったままだったエドだったが、そのうちノロノロと歩を進め始めた。

『かえ、ろう・・・・・・』

アイツがどうするつもりなのかは、知らない。
だが――――――――この選択肢を自分がぶち壊して良い訳が・・・無い。

アイツの悲願の重さを知っているから、尚更。
自分に一言も無くというのには頭にくるが。それは、後であった時にでもぶん殴ってやればいい。
それに・・・・・ここに来たと言うことは、アイツはもう選んでしまったのかもしれない。


そして、オレは―――――――アイツを引き止められるような物は、何も持っていないのだ。


確かに、オレはアイツの恋人という立場ではあるけれど、その女性のようにアイツに捧げる物など無い。
財産どころか・・・目的を達していない今は、体や心もさえも完全にアイツに渡してやることも出来ない。

そんなオレが、引き止めて良い訳が無い・・・・・。

エドは目頭が熱くなってくるのを必死に耐えて、出入り口を目指す。
それにしても、嫌になるほど広い会場だ。早く―――一刻も早く、ここから立ち去りたいのに。
歩く速度を速めようと思った時、後から声がかけられた。

「失礼、お嬢さん。どこか具合でも?」

思わず後を振り向くと、そこには若い男。パーティの招待客らしい。
周りを見回しても、この男の視線の先にいるのは自分だけ。
自分に話し掛けているとわかったエドは、適当にあしらおうと決めつつ、口を開いた。

「いえ。急用を思い出したので・・・急いで退出する所です」

失礼します・・・そう言って足早に立ち去ろうとしたエドの左腕を、その男がさっと掴む。
驚いて振り返ると、タラシくさい笑顔で男は笑った。

「よろしければ、私が車でお送りいたしましょう?」
「は?いえ、結構――――」
「何かお困りですか?お嬢さん」

別な声に振り向くと、また別の男・・・しかも、一人ではなくわらわらと5・6人。

「何かお困りなことがあれば、私が――――」
「君、私が先に声を掛けたんだが!?」
「その美しい方を先に見つけたのは僕だと思いますけどね?単に貴方の方が近くにいただけでしょう?」
「レディの前で醜い言い合いなど、二人とも無粋だな・・・お嬢さん、さあ此方へ」
「おい、抜け駆けするんじゃない!」

・・・・・・なんだか軽く騒ぎになって、チラチラと周りの視線も集まりだして、エドは焦る。


『アイツが到着する前に、ここから出なくちゃいけないのに!!』

面倒だから振り切ってここから走り去ろうと出入り口に目をやった時、そのドアが開いた。
そこから入ってきたのは黒髪と黒い瞳の―――――あの男で。
その隣りには、多分見合い相手の女性と実業家の父親と思われる、金髪の女性と中年の男性。

入ってきた途端、ロイは此方を見て目を見開き。エドは咄嗟に顔を伏せた。
だが、視線がばっちりあってしまっている。あの反応からすると絶対気が付いただろう。
カツカツと近づく足音に居たたまれない気分。
『本当は顔色を失うのはあの男の筈だったのに・・・』
悔しさが湧くが、どうしていいか分らず―――微動だにできないままエドはその場で固まる。
とにかく、ここは知らぬ振りして通り過ぎてくれないかと、エドはぎゅっと目を瞑った。
だが―――無常にも、足音は自分のすぐ前で止まった。


「失礼。彼女は私のパートナーなのだが?」


その科白にギョッと顔を上げると、あっという間に手をとられ、引き寄せられる。
エドの肩を抱きながら男達を睨みつけるロイに、エドは慌てた。
だって、あの親子はまだそこにいて、こっちを見ている筈なのだ。
なのに、なのに・・・『パートナー』だなんて!!

「大佐!」
「エド?」
「お・・・私、急用が出来たから帰る!大佐はゆっくりしてきていいから!」

エドはそれだけ早口に言うと、ロイの手を振り解いて親子の視線を避けるように顔を背けて、
会場から走り去った。



******



そのまま走っていたら、何処をどう間違えたのか、庭に出た。
綺麗に整えられた庭の植木の陰からキョロキョロと辺りを見回していると、急に腕を引かれた。

「エド」
「!?・・・・・・・・大佐」
「どうして、ここに?」
「えっと・・・ちょっと・・・な。あ、それよりもアンタなんで追いかけてくるんだよ!?」

さっき隣りにいたの、見合い相手なんだろ?
そう言うと、ロイは目を見開いて・・・・・何故か、にっこりと笑った。

「なるほど・・・・・妬いてくれたわけか?それで、わざわざこんな可愛い格好をしてくれたのかい?」
「ち、ちがっ!!これは―――――」
「これは?」

じっと見つめる黒い瞳に、言い訳し様も無いのが分って・・・エドは気まずげに瞳を伏せた。

「・・・・・浮気モンの断罪にきたんだよ――――でも、もういいや」
「いい?」
「今なら言い訳も付く。―――――――チャンス、なんだろ?会場に戻れよ」


言い訳も謝罪も・・・・・別れの言葉も。・・・・・・・後で聞いてやるから、今は戻れよ・・・・・


エドはそう言って俯いた。
本当はいつものようにニヤリと不敵に笑って見せたら、大佐も戻りやすいだろうとは思ったが、
とても・・・・・あの漆黒の瞳を見つめながら、笑える自信が持てなかった。
『早く行ってくれ!!』そう願いつつ、自分の足元を見つめる―――
ロイはそんなエドを見つめて押し黙った後・・・・・・唐突に口を開いた。

「――――ここまで音楽が聞こえてくるな・・・・・ああ、ワルツだ」

そして、優雅に手を差し出した。



「踊っていただけますか?」



「は?・・・・・なに言ってんだよ!?早く戻れって!!」

眉を寄せたエドの手を強引に取ると、ロイはステップを踏み始めた。

「ちょ、ちょっと!!そもそも、オレ・・・ダンスなんて踊れねーし!!」

ダンスの経験など、昔戯れに母と踊ったくらいだ。しかも女性パートなど踊れる訳もない。
慌てるエドにロイはクスリと笑いかけた。

「私がリードするから大丈夫」

言葉で、動きで・・・ロイは巧みにエドをリードして、夕闇に包まれた中庭を進む。
初めはぎこちなかったエドだが、だんだんとコツが飲み込めて――やがて二人は滑るように舞い始めた。

『何、考えてやがんだ?』

でも、さすがにタラシ・・・・・ダンスも上手い。
踊ったことのないオレさえ何とかステップを踏めているのは、コイツのリードが上手いせいだろう。
・・・・・・・・・女にモテる、筈だよな。
そんなことを考えつつ―――踊りながら、エドはロイの顔をじっと見つめる。


『――――ラスト・ダンスってことか?』


気障なこの男らしい・・・・・
エドは、ともすれば潤んでしまいそうな瞳を隠すように、再び目を伏せる。

思いを通わせあって半年。
そのうち二人で過ごした日など、数えるくらいだろう。
考えてみれば、自分は酷い恋人だったかもしれない。
数ヶ月ごとにしか顔を見せず、会ってもいつも憎まれ口ばかりで。
常に、オレは目的を果たすことを最優先に考えるから、
短い逢瀬の中でさえ、心を完全にコイツに預けることも出来なかった―――――
コイツを置いて旅立とうとするオレを、いつも苦笑で見送ってくれた、大佐。
『つれないね』と言われて、舌を出して見せるような・・・・・・そんな、可愛げの無い恋人だった。

『だけど、愛してた・・・・・・』

それでも、愛してたんだ―――――。
ぎゅっと目をきつく瞑った辺りに、音楽は途切れた。それと同時に、ダンスも終る。
繋がれていた手が離れていくのを、エドは絶望的な気持ちで耐えた。

せめて、せめて大佐の姿が見えなくなるまでは、泣いちゃいけない・・・・・・・

唇を噛んだ、その時・・・体が温かいものに包まれる。
抱きしめられていると気付いて、エドはゆっくりと目を開けた。
そこには、自分を愛しげに抱きしめて微笑む男の顔。

「馬鹿だな・・・・・・・私が、君を手放すとでも?」
「っ・・・・・だって、あの人と結婚すれば有利だって」
「君・・・・・・・私を見くびってないか?」

私が女性の財産を狙わなければ、昇進も出来ない男だとでも?
心外だと、ロイはわざと顔を顰めてみせる。

「君を捨て、好きでもない女と一緒になって昇進などしなくても、私は必ず野望を叶えてみせるよ」



―――――ダンスだけじゃ無い、私の『パートナー』は君だけだ――――



そう言ってエドの唇にそっと口付けて。
その後、悪戯っぽく笑った。

「それにね・・・・・・見合いって言うのは、ガセネタだ」
「・・・・・・・は?」
「ウェラー殿とは、元々知り合いなんだよ。―――久しぶりに『会いたい』と彼に呼ばれたんだ。
疎遠になっていたから周りは知らないかもしれないが、あの娘も幼い頃に遊んでやったことがある」

告げられた言葉に、エドはパクパクと金魚のように口をあけて呆然とした。

「な、なん・・・・・・・」
「それにしても、嬉しいな・・・いつもつれない君がこんなに妬いてくれるなんて」

ガセネタを流した人物に感謝したいくらいだ。
そう言って艶っぽい流し目を寄越すロイに、エドは赤面する。

「妬いてなんかねーよ、馬鹿大佐!オレ帰るからっ・・・アンタは好きなだけ踊り狂って来い!!」

恥ずかしさでどうしようもなくなり逃げ出そうとするエドだが、そんな事ロイが許す筈もない。
逃げ出す前に体を絡め取られて、抱き上げられてしまう。

「お送りしますよ、お嬢様?」
「ばっ・・・・離せよ!見合いでないにしろ、呼ばれたのに着いた早々帰っていい訳ねーだろ!?」
「後で謝っておくよ。――――――いい加減、観念したまえ?」

こんな可愛い格好の君を一人でなんて帰せないよ?
さっきのように不埒なハエが寄ってきたらどうするんだ!!
エドと違い、嫉妬したことを隠しもせずにそう言う男に、エドはキョトンと目を丸くした。

「・・・・・・そんなに、綺麗?」
「もちろんだよ・・・・・・・まるで夢のように美しい――――」

うっとりとそう言うロイに、エドは感心したように感嘆の声を上げた。

「すげぇなぁ・・・・・セシルさんて」
「は?」
「この服とメイクを頼んだ人だよ。”美人にして”とは言ったけど、そんなに綺麗になってるなんて!
これが噂の特殊メイクってやつかな!?舞台とか映画とかで使う?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・普通のメイクだとおもうんだが」
「んなわけねぇよ、だってオレが美人になってんだろ?」

真面目な顔してそう言うエドに、ロイは深いため息を吐いた。
『この無自覚な宝石を、一瞬たりとも手放せる訳が無い』
―――――そう思いつつ、彼を抱く腕に力を込める。

「君は自覚が無さ過ぎだよ、益々一人になんて出来ないね―――――さあ、私のホテルに帰ろう」
「おいっ、だからアンタは戻れって!オレはアルのところに帰るから」
「いや、私の愛を疑うようなつれない恋人には、よ―――く分らせてあげないとね」



――――私がどれほど君を愛しているか、思い知らせてあげよう――――



意地悪く耳元に囁くと、頬どころか首筋まで赤く染めて、固まる幼い恋人。
それを満足そうに見つめて、ロイはエドを抱いたままパーティ会場を後にした。



******



「それでね、嫉妬に狂った兄は・・・あんな格好で恋人の所に乗り込んで行ったわけです」
「へぇ〜!恋愛には奥手に見えたけど、エド君ったら結構やるわねv」
「大佐は慣れてるでしょうけど、他の人たちに迷惑掛けてないといいなぁ・・・・・」
「でも、本当に見合いだったら修羅場になっちゃってるんじゃ・・・・・?」
「ああ、それは大丈夫ですよ。もし見合いだったとしても、絶対大佐は断ってる筈だし。
・・・・・大体兄さん自覚無すぎなんですよね、そんなに心配しなくてもいいのに!
だって、側にいる人が胸焼けするくらいベタ惚れされてるんですよ?」

『エドが司令部に顔出した時は、コーヒーに砂糖を入れるな!』

司令部ではそれが常識になってるくらいなのになぁ?
そう苦笑するアルに、セシルも笑って見せた。

「恋は盲目――――――って、ほんとよね」

そして、兄は帰ってこないだろう――――と、セシルの家に厄介になることになったアルは、
彼女の息子や猫のココと、こちらはこちらで楽しい夜を過ごしたのだった。




●MOONTAILの小林桜様に捧げさせていただきました●

MOONTAIL様の30万HIT祝いに贈らせて頂きました。
単独でも読めますが、うちの長編『シンデレラの夜』のロイエドのつもりで書きました。
リクは『エドにダンスを申し込むロイ。二人でワルツを踊る』だけだったので、別にシンデレラの二人でなくても良かった筈なのですが・・・
桜さんが『シンデレラを読み直した』と言ってくださったのと、相変らず短編が苦手なので;番外のつもりで書いたほうが書きやすくて、つい。
桜さんには、迷惑だったかもしれません〜〜〜ごめんなさい(>_<)
しかも、人様に差し上げる物なのに、このズルズルとした長さ・・・面目次第もございません(大汗)
此方から書かせてくださいと申し出たのに・・・・・苦情は慎んでお受けしますよ、桜さん!!(マジで!)

――――桜様、30万HIT本当におめでとうございましたv



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