俺はドーナツが好きだ。 もちろん、シチューだって大好きだ。 ・・・牛乳は飲めないけど、好きな食べ物は一杯ある。 だけど、それらが食べられなくなるくらい好きになった人ができたのは初めてだった。 ・・・・もっともそれがまさか同性でしかも、あんな奴を好きになるとは思わなかったけどな!
ささやかな 意趣返し
Small revenge ――目の前では何故か俺を差し置いて、女性達の群にの中央にいる「恋人」が一人。 もっとも、あっちは気づいていないようだが。 ソレを見た俺を見て何を思ったのか、弟はオロオロしながらも兄さんと小さく呟いてくる。 もちろん、俺がソレににっこりと微笑んで、何だと返したのは言うまでもない。 「に、兄さん・・・きっと大佐には大佐なりの理由が――」 「大丈夫だ、弟よ。俺だって男だからな、それくらいの理由は心得ているぜ。もっとも――」 制裁はちゃんと下すけどなと口元を歪めたエドワードに弟であるアルフォンスは一瞬後ろへ仰け反った。 それでも、冷静になろうという弟にエドワードはこれ以上ないほど冷静だと言わんばかりに弟の推理を如く如く一蹴しつくした。 「で、でも、仕事の一環かも・・」 「あのな、アル・・・いいか?第一こんな時間に遊ぶことをあのホークアイ中尉が許すと思うか?」 「そういえば・・・」 「だろう?しかも、こっちに来ると連絡したにもかかわらずここにいるってことは今日はまだ司令部へ行っていないってことだ!」 「・・・・そうなるね。」 「つまりー今のあいつはロイ・マスタング個人なんだってことだ・・・つまり――遠慮はいらねぇってことだよ。」 そう、これが仕事中というなら、まだ仕事という可能性があるから許しようはある。 だけど・・・今のコレはどう見ても―さぼりだろ、しかも、俺を差し置いて女性逹と群れてどうしてるんだぁ、あんたは。 まぁ、当然といっちゃ当然だけど――やっぱ、仕返しっつーか、反省はさせないとな? ここで許したら、恋人としての名折れだし、師匠に怒られること確実だ。 何しろ、旦那や恋人ができたら、飴と鞭を使い分けろっていつも言っている人だしよ〜。 さぁて・・・ 「ククク・・・俺をこんな気分にさせた罪は重いぜぇええええ、大佐・・・・!」 ごおぉおおっと燃えているエドワードの怒りにアルフォンスは知らないよといわんばかりに冷や汗をたらしていた―もっとも鎧姿ではあったが。 「・・・・・・」 そして、一方のロイはというと、ようやく女性逹から解放され、踵を返して呑気に司令部へ向かうところだった。 それが中断されたのは、通り過ぎようとしていた店の中にエドワードがいたような気がしたからだ。 「・・・今日も女性と話したし、そろそろ司令部へ向かうか・・・ん、さっきのウェイターはなかなか・・・・・ってまさかっ!?」 まさかと思いつつ、ロイは普段のきざったらしや威厳はどこへやらで、窓にへばりついている。 しかし、そのそれは残念なことに間違いなく――目を凝らしてみても間違いなく我が恋人―エドワード・エルリックだった。 何故彼が―そう思ったとき、あのうと小さく子供の声がした―その声になんとか反応を示せたのは、それが愛しい恋人の弟だったからである。 もしこれが他の子供だったら邪魔だと邪険にしていたに違いない―それほどに今のロイには余裕がなかった。 「あああああ、アルフォンス君、あれはいいいいい、い、一体?」 「・・・大佐が―あちらで延々女性達に群れているのを見た後、兄さんが突然この店に入ったんです・・・」 僕はこんな姿だから入れなくて。と付け加えたのに納得しつつも、何故この店のウェイターをせなならんのか。と訝しくするがその答えはすぐに理解できた。 何しろさっきから黄色い悲鳴が止まないのだから。しかも呼ばれているのはロイではなく―恋人の方なのだ。 「―ねぇ、君、こっちお願い〜」 「はいはい、注文だな、何を頼むんだ?」 「名前なんていうの?え、エドワード君?」 「うん、そんな名前。おねーさんの名前こそ教えてくれよ〜」 「うわ、小さくて可愛い〜!!」 「だああああれが、豆粒ほどの見えないミジンコドチビか!!」 「え、女の子じゃないの・・・・うわ、うわあああっ?」 「俺は男だぁああああ!!」 「でも可愛いじゃないか・・・・女の子だったらモテモテだろうに、残念だ?」 「嬉しくねぇ・・・」 「だったら、牛乳飲めばいいのに〜」 「あんな腐ったもん誰が飲むかっ!!」 「やーん、可愛い〜っ!」 ・・・・しかも男女問わず人気者のようだ。それに真っ白になるロイだが、アルフォンスはどこか悟った様な声で続けた。 「・・・何か店の人と幾つか会話した後、何を思ったのか、あんな風にウェイターをやっているんです・・・。 あ、ほら、兄が気づきましたよ。」 「なにっ!」 アルフォンスの言葉に振り返り、窓を通してエドワードの方を見やれば―にこやかで―いつもの子供っぽい笑顔とは裏腹に―寒い笑顔だった。 そう、例えるなら、己の仕事に鞭打つ有能なる副官と同じ笑み。 「・・・・・・まさか。」 「多分、大佐に対するあてつけでしょうね・・・」 「ななななな・・・・」 「・・・・僕、先に司令部に行ってきますんで、とりあえず、兄を頼みます。じゃ!!」 ぶっちゃけ、ここにいても痴話喧嘩に巻き込まれるだけだ―そう判断したのか、アルフォンスはすたこらと消えていった。 しかし、未だロイは固まっていて店の前につったったままだ。そこを猫が一匹通り過ぎ、ニャーとないても気づかないほど真っ白になっている。 それをみつつ、手伝いをやめようとしないエドワードは内心、己の心の狭さに呆れていた。 ・・・・・自分ではわかってんだよなぁ・・・心が狭いってことぐらい。 だってあの男の女性の群れと話すのは最早日常的なもので、情報集めの一環ぐらい解ってるのに。 それでも、やっぱり、むってきちゃうのは、俺がまだ子供だからか・・・。 女々しいっつーか、我ながら情けない仕返しって自覚しているけど、それはきっとあの男に惚れた弱みなんだろうな。 それでも――俺の帰りを司令部で待たず、女と喋ってるあんたが悪いんだぞと叫ぶことはできなくて。 だからこんな仕返しになっちゃうのはご愛嬌ってことで許してくれよ。 その代わり――・・・愛だけはあるから。 「お待たせ・・・ってなんていう顔してんだよ。」 「・・・ようやく我に返って店に入れば、君のお愛想といわんばかりの笑顔で接待され、 挙句に君の手伝いが終るまで待ったんだぞ、私は!」 「だって、俺がここで手伝いしなきゃ、あんた延々と女性達と会話してそうだったんだからしゃーねーだろ?」 「だからってあんな風に愛想をふりまかなくてもいいだろう!!」 ぎゃぎゃー喚くロイを余所にエドワードは耳を塞ぎながらも司令部へ足を向け出した。 もちろん横でまだ喚いていたロイの言葉などどこ吹く風。 「あーもーだったら入らなきゃ良かっただろ?」 「何を言う、君目的で注文を指定する輩を燃やすのは私の役目だ。」 「・・・・その発火布を止めるのに苦労したぜ・・・まったく。」 「――そう思うなら、頼むからああいう事は止めてくれ、心臓に悪いよ。」 「・・・・・ところで、仕事は?」 「・・・・・・・・・・こんな夕陽が綺麗な時に君と二人きりなのに野暮なことを言わないでくれ。」 「現実逃避したって、意味ねーと思うぜ・・・ロイ。」 「都合のいい時だけ、ロイと呼ぶのだね・・・エドワード。」 「あんたもだろ。」 「私は普段はエドワード、仕事の時は鋼の、そして夜にはエディと――って何で、叩くんだね、痛いではないか!」 「あんたが腐れ変態だからだ。それより司令部へ行くぜ、弟が待っているんだからな。」 自分のことより弟の事を口に出されたのが尚気に入らないのか、ロイは再び怒鳴りだす。 しかしそれを無視して先に走り出したエドワードの背中は夕陽が照らしてオレンジ色に染まっていた。 気づけばエドワードのコートがぼやけてきた頃には夕暮れになっていて、夜になりかけていた。 そんな時にこの司令部へ入る軍人など――度胸ある人間だけだ。 少なくとも、彼女を前にして堂々と入れる軍人はここにいないのではないだろうか。 しかし、ロイはそれを気にしつつも、司令室の前の廊下で会話を続けていた・・・その司令室の前で何かが起こるとも知らずに。 「・・・鋼の、頼むから、フォローしてくれ、君のせいなんだから。」 「でも、あんたがあそこで女性達とべちゃくちゃしてなかったら俺もあそこに居なかったぜ。」 「・・・待て、ということは―まさか、君は私に仕返しするためだけに・・・」 ロイが嬉しさを滲ませながらも口を開くが、エドワードはそれ以上喋らせまいと大声を挙げた。 もちろん、司令部の有能なる裏ボスに聞こえるようにするためということは言うまでもなく。 しかし、そのホークアイ中尉とその面々はすでに廊下―しかも、司令室の前でスタンバイしていた。 それにエドワードが訝しく思いながらも、口を開いたが、ロイは未だエドワードを急かして答えを聞こうとしている。 「ただいまーそこで呑気な無能を見つけたから連れて来たぜ!」 「お、おい、鋼の、さっきの質問に答えたまえ、焼きもちだろう?嫉妬したからあんな仕返しをしたんだろう?」 「さぁてねーそれより、あんた、自分の心配を・・・って、ホークアイ中尉、その銃は・・・・・・」 「中央から・・・最新の武器が届いたのです。丁度武器庫の整理が今日ありまして。試し打ちをしてみたかったのですが・・」 「・・・ほ、ホークアイ中尉・・・・ま、まさか・・?」 「・・・・丁度、どこぞの大佐殿が朝からいなくて、将軍の仕事を頼まれた私達は散々でしたが、その代わり、将軍より試しうちの許可を頂きまして。」 「それって・・・中尉だけじゃないよね・・・後ろの面々逹も銃持っているし?」 「ええ、大佐の部下達もたまにはウサ晴らしするべきだと将軍が哀れみを込めて許可を下さいましたので、遠慮なく撃たせていただこうとこうして武器を持参して待っておりました。」 「「「「「そういうわけで・・・・撃たせていただきます(ぜ)」」」」」 大佐の有能な副官たるホークアイ中尉が手を上げた瞬間、目の前で綺麗に部下達が整列し、声をはもらせた。 それにエドワードがこそこそとホークアイ中尉側にまわったのはいうまでもなく、ロイが涙目になったのも言うまでもない。 ドンッドォオンッ…パアンッ!! ・・・・エドワードが耳を塞ぎつつ、司令室の中へ入れば、そこにはぼのぼのとアルフォンスがブラックハヤテ号と遊んでいた。 「あ、兄さん♪」 「おお、あの店でお土産もらったぞ、ついでに、オイルもわけてもらった。」 「わーい、ありがとう、兄さん。っていうか・・・」 「何だ、弟よ?」 「・・・・ううん、やっぱりちゃっかりしているよ。だってあの店って、大佐が好きなケーキがある店でしょ? わざわざあそこを選ぶあたり、大佐を嫌いになりきれないんだね、兄さんってば。」 「・・・・あの無能が甘い物苦手っつーからな、わざわざ選んでやったんだ。」 「ほんと、素直じゃないよねぇ―兄さんは。」 じみじみと腕を組みながらも廊下から聞こえる悲鳴を無視するあたり、アルフォンスも大物だ。 「・・・・とにかく、皿と紅茶だな、大佐の分は夜までお預けにするから、中尉たちの分だけ用意するぞ。」 「また大佐を苛めて・・・知らないよ、大佐に拗ねられても。」 「いいんだよ――これは俺の―」 ささやかな仕返しなんだから。 よいしょっとケーキを皿に盛りつけながらニヤリと笑ったエドワードの顔はいつもの笑顔で。 それにふぅとため息をつく様子を見せながら、アルフォンスは紅茶を入れてフォークを並べる。 そしてエドワードは盛大に大声で扉から怒鳴った。 これからこの司令室になだれ込んでくる大佐を哀れみ、そしてその部下達を労うためにおやつを用意して。 こんなガキみたいなささやかな仕返しをするのはあんただけだから。 ・・・・悔しいけど、あんたが俺を愛してくれるって解ってるからできる仕返しなんだぞ。 だから、気づかないでくれよ・・・せめて俺が大人になるまでは―― 俺の小さな小さな子供の様な意趣返しをどうか嫉妬からだと思わないで。 END
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きっと、本望ですね!!(キッパリ)
そして、相変わらずアルや中尉と楽しい仲間達(笑)がいい味出しておりますvvv
コランダム様の企画で、思いがけずリクエスト権をいただきましたv
お誘いいただいてから、ずうずうしくも速攻でリクさせていただきまして(笑)頂いたのがこのお話です!
リク内容は『ロイエドで、ヤキモチを妬くエド』でした。
可愛いヤキモチを妬かれ、可愛い仕返しを受けてしまったロイ。
たなぼた式に素敵小説頂いてしまって、ウハウハです♪
はづき様、本当にありがとうございました〜vvv