『a cat in the box 』
なんですか、この可愛らしさは!?(金色子猫〜v)
ロイが拾う前に、私が拾ってしまいたいです!!(そして、ロイに燃やされる・・・)
兄さん、とアルフォンスが呼んだ。
「あそこで何かあったみたいだよ」
イーストシティの駅に降りたってすぐ、弟の指差す方向をエドワードも振り向いた。
貨物列車のホームの向こうに、軍服姿が大勢見える。
「あー、なんかすげーイヤな予感」
ぼりぼりと頭を掻いて、エドワードはぼやいた。
「行ってみようよ」
「行かなくていいって」
「あ、大佐だ」
「―――」
条件反射で眼を凝らしてしまう自分が悲しい。
「どこだよ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてみるが、青色の中に見慣れた黒を発見することが出来ない。
仕方ねーなと、アルフォンスと一緒に近付いてみた。黄色い線が張られており、ホームの
一部が立入禁止になっている。
―――居た。
ブレダ、ハボック、ホークアイ、見慣れたメンバー。そしてロイ。
「……」
頬が勝手に赤くなるのを自覚して、なんだよ俺と自分ツッコミを入れてみる。
これでは街中でロイを見て、キャーキャー嬌声を上げているその辺の女性達と変わらない。
だって―――。
髪がいつもと違う、ちょっと乱れたオールバックで、上着を脱いだ白いワイシャツの襟元は
緩んでいて、肘まで袖を捲ってあって。
何でそんなカッコ、してんだよ―――。
ロイは横顔でホークアイと何か話している。
彼女の腕に掛けられているのはロイの軍服の上着。当たり前のように彼女にロイは渡し、
ホークアイも受け取ったのだろう。
それが悔しい。
白い背中。広い肩。
あれにぎゅーっと抱き着きたくなった。
行って、しがみついて、そしたら少しは驚くだろうか。
ぴたーっと貼り付いて、頭をぐりぐり押し付けて、離れないで邪魔してやりたい。
あの軍服のスカートみたいに、ずるずる後ろにくっ付いていたい。
構ってもらえなくてもいい。
ただ、一緒に居るんだなって思いたいだけなのに。
何で甘えたくなった時にはいつも、周りに大勢人が居るんだろう。
自分がもっと子供だったら、何も考えずに走って行くのに。
ロイの弟か何かだったら、堂々と飛び付いてやれるのに。
ただの部下だったら、背中にタックルしてびっくりさせてやるのに。
恋人だから、それが出来ない。
ただこうして、こっそり見ているだけなんて。
こんなに今、ロイの声が聞きたいのに。
笑って抱き締めて欲しいのに。
見ているだけしか出来ないなら、見ない方がマシだ―――。
踵を返そうとしたその時。
「何処かその辺で、豆の転がる音がするな」
「だれが豆粒かこらぁ!」
―――やってしまった。
<KEEP OUT>の内側に飛び込んできたエドワードにロイが笑う。
「こら、ここは関係者以外―――」
「ああ、彼はいいんだ。これでも軍属でね」
追い出そうとした憲兵をロイが制する。
「これでもって何だ!」
「こんなに可愛いのにという意味だ」
睨めばさらりと返されて、ぐっとエドワードは詰まった。代わりに、ここで何してんだよと
訊いてみる。
「違法ドラッグの密輸取り締まりだよ。ヒューズから情報を貰ってね」
「この間はテロリストの爆破予告だったよな。この街、ちょっと治安悪いんじゃねーの?
それとも司令官が嫌われてんのかな〜」
にやにやするエドワード。
「容姿端麗、頭脳明晰、地位も名誉も何もかも備えた人物が妬まれるのは仕方
あるまい?」
「え?その容姿端麗って誰のこと?」
臆面も無く返ってきた科白に呆れて聞き返す。
「少なくとも、君が見惚れてしまう位には整っていると思うんだがね」
「―――性格悪…」
この男は、エドワードの視線に気付いていながら素知らぬ顔でいたのだ。
「んじゃ俺、アル待たせてるから行くわ」
「アルフォンス君ならあそこで手伝ってくれているが?」
言われてみれば、確かに生真面目な弟はハボック達と一緒に木箱を幾つも運んでいる。
似たような木箱はあちこちに散らばっていて、手近な一つを覗いてみると、中にはおがくずが
いっぱいに詰まっていた。
「こん中に隠してたわけ?」
「生きた蟹の下に隠してね」
「何でカニ?」
「生物だからね、犬の鼻を狂わせるにはいいんだろう」
ああと納得してよく見てみると、箱の側面には「ノースシティ港直送」「採れたて」「ナマモノ
注意」などとそれっぽいシールが貼ってある。
「もう少しで片付くから、待っていてくれるかい」
上着を受け取って戻ってきたロイがそれを着直すのを見ながら、エドワードは箱の端に
座って彼を見上げた。
「何で俺が」
「どうせ司令部に行こうとしていたんだろう?今行ってもファルマンしか居ないよ。此処で
待つか向こうで待つかの違いだけだ」
「そーだけどさ」
そばに居て、見ているだけなのは厭なのに。
甘えさせてくれないくせに。
「俺―――いいよ」
司令部で待ってるからと腰を上げようとした瞬間、箱がぐらりと揺れた。
「わっ―――?」
バランスを崩して、背中から彼は箱の中へと落ち込む。
「鋼の?」
慌ててロイが覗き込んだ。
「う〜」
ひっくり返った亀のように、箱にすっぽり嵌り込んだままもがくエドワード。
おがくずに埋もれて手足をばたばたさせる赤いコートはまるで。
採れたて。産地直送。ナマモノ。
「笑ってないで助けろ!」
ロイが何を想像したか分かって、彼は睨んだ。
「ああ、すまない」
無造作に身体を屈めてきたロイを見て、今度は焦って叫ぶ。
「あーだめ!服が汚れるっ!」
自分はフードの中までおがくずまみれだ。蟹が入っていたというのは本当らしく、何やら
生臭い匂いもする。
そんなエドワードにロイは少しだけ笑った。
「気にするな」
「わぁっ」
両腕で高々と抱き上げられ、身体中からおがくずが滑り落ちる。それは当然、ロイの
服にもみるみる付いて。
「バカ!あんたの服汚れちまったじゃねーか!」
「洗えばいいだけだ」
「そーだけどっ」
そうじゃなくて。
彼はこの場の指揮官で、司令官で、有名人で、部下もいっぱいいて、だから、みんなの
前でこんなみっともない姿を見せちゃいけない。
一分の隙も無い、かっこいい大佐でいなけりゃダメなのに。
折角脱いでいた上着まで汚れて、綺麗な黒髪にも埃が。
だらしない姿なんか見せるのは、自分の前だけでいいのに。
湧き起こってくる独占欲とか、じれったい思いとか、そんな気持ちを知りもしないで。
「大佐」
ホークアイがやって来て、上官の格好に少し困ったように眉を寄せた。
「中尉!大佐のこれ、俺のせいだから!」
慌ててエドワードは彼女に言う。
「中尉、着替えに戻ってもいいかね」
「どちらまで」
「ここからなら、司令部より私の家の方が近いな」
「……」
呆れたように溜息を吐いて、ホークアイはロイの腕に抱きかかえられたままのエドワードを
見遣った。
「今日はもう、このまま帰られて結構です」
「それは助かる」
「その代わり、明日は9時までにちゃんといらして下さい。来られなかった場合は、イースト
シティに居る間、エドワード君達は私の家に泊まって貰うことにします」
「―――絶対行くとも」
慌てて頷いて、それからロイはエドワードをもう一度抱え直した。ここでようやく子供が
我に返る。
「ちょ、もう降ろせ!」
「駄目だ」
「だから、大佐の服まで―――」
「服なんかいいんだ」
「……」
他の言葉が見つからなくて。
ロイに抱かれて運ばれる姿がどれだけ周囲の視線を浴びているかが分かって恥ずかしい。
ちらりと見て、ロイが軽く笑った。
「鋼の。顔が赤いよ?」
「どーせ、カニみたいだって言うんだろ…」
「いや。どちらかというと捨て猫を拾った気分だな」
何処となく楽しそうに答えるロイ。
「―――生き物を簡単に拾っちゃいけないんだぞ」
いつも弟に言う科白を恋人に。
「最後まで責任が取れないなら、拾う資格は無い?」
「…そーだよ」
声が自ずと小さくなる。
「責任を取る覚悟なら、とっくに持っているんだがね」
軽く唇に触れられて、エドワードは瞼を上げた。
「一生大事にしてあげるから、大人しく拾われてくれないか?子猫君」
まるでプロポーズのように、見つめながら言われて。
ばかばかばか―――。
もう顔が赤いなんてもんじゃない。真っ赤だ。
「返事が無いのはOKということだと認識させて貰うが」
勝手な解釈をするロイに。
「―――仕方無いから拾われてやる」
そう答えて、ロイの胸に火照った頬を押し付けて隠した。
「では、帰ったら一緒にシャワーを浴びようか」
「…おい」
すぐこれだ。
「拾った子猫はすぐに洗って綺麗にしないとな。ノミが居たら困る」
「誰が小さい猫かぁ!」
ふーっと威嚇する様がそっくりで。
ロイは笑って、子猫の鼻にキスをした。
『MOONTAIL』の小林桜様から、20万HIT祝いに小説頂いてしまいましたvvv
憧れのサイト様からの嬉しいお申し出に、狂喜乱舞!!
20万HITして、本当に良かった・・・・・!と、喜びを噛み締めております♪
リクエストは迷いに迷った結果、
『ロイに甘えたいんだけれど、やっぱり恥ずかしくて甘えられないエド』をお願いしたのですが・・・
しかも、ロイはいつもながらめっちゃかっこいいし、もう幸せのひと言に付きますv
20万HITできたのは、サイトに来てくださる皆様のお陰ですので、幸せのおすそ分け〜!ということで、
サイト掲載の許可を頂きましたv皆さま、どうぞご堪能くださいね♪
小林桜様、本当にありがとうございました!!