――はぁと肘をついてため息をつく様はいつもの"大佐"らしくもなく、周りにいた部下達はなにやらひそひそ囁きあっていた。 「今度は一体何をやったんだ?」 「いやぁ、またですか。仕事とはうって変わって献身的な姿になる様子は微笑ましいですな。」 「どこがだ。まぁ、あの大将にはさすがの無能誑しも形無しってことッスねぇ。」 ピクリとその台詞に反応した"大佐"は即座にぱっちんと指を鳴らした。 もちろん、余計な一言をのたまった煙草軍人に向けての制裁のためである。 しゅうううとあたりに煙が立ち込めた瞬間、周りに居た大佐の部下達はそそくさとばらばらに散らばっていった。 その場に残ったのは不運なことに、制裁を加えられた煙草軍人であるハボックだけ。 この瞬間、被害者となった彼はこの後、無能誑しと呼ばれたロイ・マスタング大佐の愚痴の相手となる運命となることが決定した・・・毎回の如く。
love letter
「――で、今度は一体何が?」 「いやに今度はという部分を強調するな。ああ、もしや、私と鋼の仲のよさを妬んで――」 「いやいやいや、誰もそんなの考えてませんから!! というか、あーた、まだ告白どころか、付き合ってもないでしょうが!!」 ・・・・・・・この男には学習能力というものがないのか?と思いながらも再び指を鳴らしにかかる―― もちろん、その後に屍ができたのはいうまでもない。しかし、彼は毎度の如く、根気良く立ち上がってきた。 ここまでくるとハボックも実は人間じゃないというオチになるんじゃなかろうか。 「えー、で、いい加減本題を聞かせていただきたいんですが?」 「そうだったな。実はな・・・もういい加減、告白しても良いかと思ってな・・・」 「そういいながらその台詞、もう何十回目もはいてますよねぇ・・・?!」 むぐ。この時ばかりはさすがの大佐も口を噤まずに居られなかった。事実、告白しようにも如く如く失敗しているのだから無理もないことなのだが。 しかし、それでも諦められず再び同じ事を決意し、部下に相談しようとしている姿には献身的といわざるをえないものがある。 ・・・ここまでくると本当に誑しだったのかという疑問が浮かぶがそれは口に出すまい。 「ふ、それについては・・・確かに返す言葉もない。だが、今度こそ私は鋼のに告白し、今度こそ惚れさせてみせるぞ。」 「はーさいですか。頑張って下さいね。」 「うむ。それで、丁度いい。毎回ラブレターを書いては振られている人間に聞くのも気が引けるが…ラブレターというものに一番詳しいのはお前だろうからな、とりあえず指導を頼む。」 大佐のどう考えても貶しているとしか思えない台詞に涙を流しながらもしぶしぶとラブレターなるものの書き方を教えた。 その当の本人はというと、もしこれで返事をもらえなかったらお前の責任だぞと睨んできた。 それでも初めてのラブレターなるものに頭を悩ませていた様子だった。 「・・・ううむ。愛を語り、相手をほめた後、告白を書き、返事をもらえないかと問う。 それだけなのに手紙にするとなんと長くなるものなのだろうか。」 「そりゃあ、三十枚ほどもびっしり書けばそうも感じますっしょ。」 「鋼のが可愛いから悪いのだ!! そもそも、あの子の可愛さとどことなく見せる中性的な表情はなんともいえないものがある。 いいかね? あれの長い金髪はもちろん、少しきつめな目元も、ふくよかな唇も――ってこら、聞いているのか!?」 「き、聞いてますって・・・あの、もちろんそういう褒め言葉をたくさん書くのも大事ですが、 あの大将がそこまで読む人間だと思いますかね?」 寧ろ、こんなの読めるかと焔にくべるか投げ捨てるかのどちらかではなかろうかと、ハボックは想像したがそれを口に出すほど馬鹿ではなかった。 ふと我に返ったらしい大佐はそれもそうだと、先ほどまで熱心に書いていたその三十枚の便箋をあっさりと絨毯へと放り出した。 「うーむ、ラブレターというものは奥が深いのだな・・・。」 「・・・あのう。」 「なんだ?」 「何で大佐とあろうものが口で勝負にでないんですか?」 本当は聞くべきことではないのだろう。だが、ハボックはどうしても言わずにいられなかった。 というか、言わざるをえなかったに近いものがある。もちろん、それを口に出した瞬間後悔したのはいうまでもない。 しかし、制裁後にしぶしぶと口を開いたあたり、さすがの大佐も決まりが悪かったのだろう。 女性を魅了してやまないマスタング大佐とあろうものがラブレターを書くというのは、確かに異例のことではなかろうか。 だが、大佐ははっきり言い切った。それはもう清清しく。 「な、何を言う。本命を前にしてこの恥ずかしい台詞を言えるか!!」 「・・・・・・いやそれを本命でもない女性達に言ってきたっていうことのほうがよっぽど恥ずかしいことだと思うんスけど。」 それどころか、もし大将が聞いたら絶対愛想をつかしますよとさらりとのたまったハボックに大佐はみるみる真っ青になっていく。 普通の青を通り越して、海の色より深い青色どころか緑色になりそうだと思うくらいに酷い色だった。 ハボックはそんな大佐の様子に唖然としながらも、まさかという恐ろしい考えをポツリと口にした。 「・・・まさかありえないと思いますけど、一応聞きますよ。 当然、その本命ではない女性達とはもうすっぱり縁を切ってます・・・よね?」 言い終えないかのうちに、コンコンと扉を叩く音がした。 ロイは放心しきっていて何も口を開けず、扉を開けられなかったが、次に扉の奥から聞こえた声にかっと目を見開いた。 「大佐――いないのかよ?」 うわーうわさをすれば大将ッスね。と驚きながらも扉を開けますか?と大佐に聞いてきた。 だが、当の大佐からすれば、中途半端なラブレターを持っている上に、女性達との関係を清算するのを忘れていたという後ろめたさからか、おろおろしているしかない状況だった。 次第に扉を叩く音が酷くなり、はてには足で扉を蹴っている音が聞こえた。 「・・・・だ――――――っ!!もう勝手にはいるぞ!!」 だが、それでも大佐でいう本命が扉を盛大に開けて現れた瞬間には大佐のたの字どころか姿すら見つからなかった。 「・・・あれ、ハボック少尉だけ?」 「いや、さっきまで大佐もいたんスけどねぇ・・・・」 「あ、兄さん・・・窓が開いているよ。」 「なんで俺が来て窓から逃げる必要があるんだ?」 ああ、アルフォンスはさすが目が利くなぁとハボックは思った。事実、大佐はその窓から逃げて逃走したのだから。 告白すらされていない本命さんである少年が事情などどこ吹く風であっさりと告げたとき、 ハボックは内心で大佐も不憫だなぁと呟いた。だが、それを口に出さず、そこを離れようとしたその時、 エドワードはふとじゅうたんに落ちていた紙に目を留めてしまった。 それにハボックがやばいといわんばかりにダッと逃げようとするが、ガシッとエドワードに捕まってしまった。 「・・・・・これ、どういうことか説明してくれるよな、ハボック少尉?」 「い、いやその・・・それは・・・」 「これは―あの男が俺に対しての嫌がらせでやっているのか? 何かな、このまるでラブレターみたいな嫌がらせは大佐の仕業か?」 「・・・・・あのな、その・・・」 いや、それは正真正銘のラブレターなのだが。と言いたいのを堪えながらもハボックは己が窮地に立たされていることに気づいた。 もし、ここで何か言おうものなら、あの大佐に焔で燃やされることは確実。 かといって、今ココで黙っていたらこの目の前に居る最年少の国家錬金術師にのされてしまうだろう。 ――逃げ場がないではないか、自分!!とひぃいと目の前が真っ暗になったような錯覚さえ覚えてしまう。 だが、そんなハボックに助け舟を出してくれたのはひょっこり出てきたホークアイだった。 ハボックは窮地を救ってくれた彼女が女神のように思え、涙ながらにも口を開こうとしたが――彼女の口から出てきた台詞は無情なる台詞だった。 「あら、ハボック少尉・・・大佐は如何したのかしら?」 「・・・・・・えと、逃亡しました・・・」 「まぁ―それはそれは・・・後で銃の的にしなくてはね。ところで、何故逃亡を見逃したのかしら?」 ガシャと銃の安全装置が外れる音に更なる地獄をかいま見たような気がしたハボックだった。 前にはホークアイ中尉、背には、チビ・・・もとい、小さいながらも天才国家錬金術師であるエドワード・エルリック。 逃げ場が完全にないと観念したハボックはついにすべてを語ることにした――とある事実を一部脚色しながら。 「――つまり、ハボック少尉はラブレターの書き方を教えて貰っていたと。」 「そ、そうなんだ、大将が見たそれは大佐の書いた見本なんだよ・・ははは・・・。」 「そうかぁ、確かに大佐だったら誑しだもんね。でもなんで兄さんに?」 「じょ、女性の名前を書くのが億劫だったんじゃないスかね?」 「そう・・・大佐らしいわね。いいわ、今回はこのセンスのかけらもないラブレターに免じて見逃しましょう。」 ホークアイ中尉だけは気づいたようだ。そりゃそうだ、この人が気づかぬわけはない。 そう思いながらも、温情ある言葉を頂戴した手前、何もいえないのでそ知らぬ顔で頷いておいた。 ありがたく内心で感謝しながらも、ハボックは今にも襲い掛かってきそうなエドワードから一目散に逃げていった。 だから、ハボックは気づかなかったのだ。エドワードが首を傾げつつ、ポツリと呟いた台詞に。 そしてその台詞に同意するかのようにホークアイもアルフォンスも微笑んでいた。 「・・・あの大佐が冗談ぐらいで俺の名前を使うだなんて思うわけ無いだろ。爪が甘いよなぁ、ハボック少尉も。」 「どうやら今度はラブレターで兄さんを落としにかかるみたいだね。確かにラブレターなら、告白の途中で逃げるだなんてことはさすがにないと思うよ。」 「まぁ、この三十枚ぐらいはありそうなラブレターは止めたみたいだけれども、懸命な判断よね。このラブレターの処分は任せるけど、どうするのかしら?」 「・・・・・・トランクの隅っこにぐらいは入れておいてやるよ。」 それにしてもなんだ、このこっぱずかしい台詞はとぶつぶつ呟きながらも顔を赤くしていているエドワード。 そんな兄の様子に微笑ましいなぁとアルフォンスは鎧姿ながらも温かな目で見守り、 ホークアイはというと微笑みながらも、しっかりと大佐の机に大量の書類を置いていた。 「・・・・まぁ確かに、こんな三十枚のラブレターだったら即座に叩き捨てただろうけどさ・・・ 何も絨毯に放り出すことはないだろうに。」 「まぁまぁ、この大量の褒め言葉に免じて次のチャンスぐらいは与えてやろうよ、兄さん。」 「・・・・・・・・・まぁ、い、一回ぐらいは聞いてやらなくもないかな。」 結局報告書を放り投げて又来ると言って去っていったエドワードの耳はとても赤かった。 そんな兄を追いかけてはお辞儀をしては消えていくアルフォンスに見送りをしたホークアイ。 そうして後に残ったのは後に残業を言い渡されることになる大佐の机のみ。 後日、改めてラブレターを書き終えた大佐がうきうきと浮かれ、机でにやけている姿が見られた。 その様子に目を留めたハボックはあれと大佐に質問を投げかけた。 「あれ、ラブレターやっと書き終えたんスか?」 「うむ。ようやく書きあがったぞ。シンプルかつ、美麗な語句を並べ立てたラブレターがな。 ふ、私にかかればこのようなラブレターなぞ・・・」 「じゃあ、女性問題もすっかり問題は・・・?」 「無論だ、あの後にすぐさま女性達に引導を渡してすっぱり縁を切ってきたぞ!」 それは何かが違うだろうと思ったがハボックは口に出さず、あっさりと口にした。誰もが言わなかった禁断の一言を。 「じゃあ、後はそれを渡すだけっスね、どうやって渡すんスか?」 ・・・・・その場に盛大な沈黙が舞い降りたと誰もが思った。 むろん、集まる視線は自然と大佐と、その大佐が持っていたラブレターに集まっていくわけで。 時と場合をちっとも考えていないハボックの追い討ちはさらに続き、みるみる大佐は再び真っ青になっていった。 「・・・・・・あの、大佐?」 「――――――ハボック、参考までに聞くが、どうやってわ、渡すのだ?」 「俺のときはロッカーとかに入れたりとか、直接渡したりとかですねぇ。大体、大佐だって直接渡されたことあるじゃないっスか。 でも、大将はあまりこっちに来てもすぐに帰っちゃうからやっぱり手渡しが一番いいんじゃないっスかね。」 「ちょ・・・直接・・・か?」 「そうですね、本命なら尚更直接手渡しするのが礼儀であり、当然のことではないでしょうか?」 追い討ちをさらに楽しそうにかけるホークアイの言葉に、大佐の肩がビクッと震えた。彼女はエドワードの本心を知っているからこそ楽しめる。 だが、エドワードの心情も知らない大佐にとってのそれは、己の運命をその場で決められるようなものだ。 もしその場で捨てられたら・・・・?そう思うと顔を引きつらせることしかできない。 「・・・・・わ、私はどうすればいいんだ――――!!!!」 ――後日、不審なお面を被り、真っ黒いコートを着込んだ変態がとある少年にラブレターを渡したという噂が流れたが、 それが本当かどうかは本人達にしか解らないことである。 |
やっぱり、ロイはエドにベタ惚れであるべきです!!(超私的考察・笑)
ロイのへタレっぷりがまたいいですよね!あの男やはり愛しいですvvv
うちの30万HIT記念に、はづき様からお祝い品もらっちゃいました〜vvv
リクエストは悩んだ結果『エドにメロメロなロイ』に♪
どうです、このメロメロ加減!!すばらしいvvv
つれないながらもロイのことがホントは好きvなエドも、可愛くて仕方ありません!
そして、いつもながら余計な一言で燃やされてしまうハボがツボです(笑)
本当に素敵なプレゼント頂いちゃって、幸せいっぱいv
はづき様、本当にありがとうございました〜vvv