―――あの変な告白を受けた俺が馬鹿だったのだろうか。
love song
頭痛がしてきた。眉間に皺を寄せながらも、ガックリと肩を落とす。 それくらいに疲労感を感じていた。目下のところ、目の前に居る・・・この男のせいで。 「・・・なーんで、あんたがここに。」 「なんでとはつれないね、せっかく、久々に会えたというのに。」 「・・・あんたとは三日程前に東方司令部で会ったと思ってたんだがなぁ、大佐?」 ひくひくとこめかみを引きつらせるエドワードだが、当の大佐本人は聞き捨てならんといわんばかりに指を突きつけてくる。 それに訝しさを感じながらも一応言い分を聞こうとする。だが、その言い分は毎回のお約束だった。 「何を言うか、三日間も会えなかったのだぞ、それを何故三日前とそう簡単に言えるのかね・・・うわっ、何をするんだね!?」 エドワード!と叫ぶその声すら無視してパンと再び手を叩き、床へと押し付けようとする。 それが練成の合図など、同じ錬金術師である大佐には嫌でも理解できた。が、それを止められず、止まらなかったのは言うまでもない。 しゅうううと煙が立ち込める最中、エドワードに話しかけてきた人物が居た。 すっかり大佐のせいで影が薄くなっていたものの、この場には二人きりだけではなく、他に後二人いたのだった。 「兄さん・・・程ほどにしたほうが・・・」 「あら、私はこの無能上司には丁度いいお灸だと思いましたけれども?」 しれっと言うホークアイ中尉に、おろおろする弟のアルフォンス。 その二人に問題ないといわんばかりに足で地べたに這い蹲っている大佐を踏んづけたこの人物こそ、 鋼の錬金術師、エドワード・エルリックであった。 「――大体、なんで電車の中にいるんだよ、あんた。」 呆れたように問えば、あっさり「仕事という名目でデートしてみたくてね。」と、言ってくるではないか。 ああ、頭が痛い。頭痛が酷くなってきたような気がする。再びこめかみを押さえながらも、額に手を押し当てる。 隣に座っているアルフォンスはというと、愛ですねぇと喜んでいるし、ホークアイ中尉はもう諦めたような表情を見せていた。 だが、エドワードだけは、こればっかりは納得がいかないといわんばかりにきっと大佐を睨みつけた。 「――これがたとえば一ヶ月とか二ヶ月なら俺も納得いく・・・ だが、なんで三日前に会ったのに、この電車の中で会ってしかもデートをしなきゃなんねぇってのはどういうこった?」 だが、これも暖簾に腕押しとわかっていた。この大佐のことだ、恐らく君への愛でだとか歯の浮くような台詞で言ってのけるのだろう。 事実、今までもそうだったし、恐らくこの後もそうだろう。 「だがね、鋼の。」 ため息をついたとたん、さっきまでとは別の呼び名で話しかけられた。それに目を細めながらもなんだと問う。 すると、いつになく真面目な大佐の顔と目が合った。 「何だよ?」 「仕事でというのは本当だよ。何、君に迷惑がかかるようなことはしないさ。」 「――それならいい。」 「だがやはり、電車での君も新鮮だな。いや、窓を眺める君の様子は実に妖艶で――」 「だぁああああっ!!! 真面目に話したかと思えばすぐにそれか!!!」 今度こそ止めてくれるなとトランクをふりあげようとするが、悲しいかな、周りを気にした弟に止められてしまった。 結局何度もこの似たような会話を繰り返し、駅に降りた頃には疲れ果てていた・・・エドワードだけが。 当の元凶である大佐なぞ、はっはっと笑いながら清清しい表情を見せている。 しかも自然にエドワードの手を握ろうとしてくるあたり侮れない。 ああ、こういうところが大佐たる所以なんだなぁとアルフォンスは妙な納得を見せていたが、 その横で喚く兄を敢えて無視しているあたり、アルフォンスもさすがといえよう。 「ったく、この変態め!!」 「はっはっ、変態になるのは君の前だけだよ、エドワード。君になら私のすべてを見せても惜しくないね。だから君も――」 「断る!!」 「相変わらずつれない恋人――だが、照れているあたりがなんと・・・ぐはっ!!」 「さっさと行くぞ!」 大佐を貶しながらも手を離さないあたりはさすがエドワード君だわなとど、ホークアイ中尉が妙な納得をしていた。 もちろんそのホークアイ中尉に、大佐からの悲鳴とつっこみが入ったのはいうまでもなく、それを彼女が無視したのも言うまでもなかろう。 ようやく復活したらしい大佐は無駄にキラキラしていたが、最早突っ込む気になれなかったのか、エドワードはため息をついて無視している。 反対に手を握っているという事実は大佐にとって喜びを与えているらしくさっきからもじもじしていたが。 きしょっ!とアルフォンスやホークアイ中尉が引いたのはいうまでもないが、彼らは幸か不幸か別の席に座っていたので被害は免れた。 当のエドワードはというと、まだ窓を眺めたまま微動だにしなかったので、その表情からは何も読み取れない。 しかし、大佐にとっては、手を離さないでくれているという事実だけで十分だったのだろう、余計な口は何一つ開かず静かにコーヒーを飲んでいた。(やはりもじもじていたが。) 静かな時が流れる―そう思った瞬間、エドワードが立ち上がり、大佐がコーヒーカップを落してしまったのか盛大な音が響いた。 それに慌ててアルフォンスやホークアイ中尉も何事かと立ち上がったが、エドワードはその場をすぐに離れて行ってしまう。 追いかけようにも素早いエドワードについていけるはずもなく、 大佐に事情を聞くしかなかったホークアイ中尉とアルフォンスはすぐさま大佐の方を見やった。 だが、当の大佐は珍しく赤面して顔をにやつかせ、不気味な様子を見せていた。 それに少し引いたのか、サイレンサーを外そうとしていたホークアイ中尉が神妙そうに問うた。 「・・・っ・・・い、一体何故そのような表情をされるのですか?」 「い、いや、何・・す、すこし嬉しいことがあったのでな。」 「一体何なのですか?」 それがだなーよほど嬉しかったのだろう、 まるで生まれて初めての体験と言わんばかりにもじもじと話を焦らす大佐にさすがのアルフォンスも苛立ちを覚えたのだろう、 鎧姿が妙に勢いのある迫力を見せていた。 「あのだな、あれだよ、その・・・・」 「いい加減に文章で説明してくれませんか、ロイ・マスタング大佐?」 その間、約10分も経った頃だろうか、血まみれになった大佐だが、まだ不気味に笑っていた。 もちろん、その後もさらに約20分間という無駄に長い尋問にかける羽目になったのは言うまでも無い。 しかし、そこまでの手間をかけてようやく聞き出せた台詞はたった一文だけ。それにホークアイ中尉とアルフォンスががっくりと肩を落としたのはいうまでもない。 「――彼が私を大佐ではなく、ロイと呼んでくれたのはさっきが初めてでね、とても嬉しかったのだよ。」 ああ、あれこそまさに愛の歌のようではないか。 私のロイという名前でさえ彼の声にかかると歌のように聞こえるとは。という副音声と演技付きで語ってくれた大佐。 そんな彼に対して、―――空気を読めないのか、この間抜け大佐は!!! と、その場に盛大な沈黙と共に二人の収まらぬ怒りが大佐へ向かったのは言うまでも無い。 「な、何故、私が制裁を受けなきゃならんのだあああああ!!!そして愛しいエドワードはどこへ言ったんだ!!!」 その後、翌日帰る予定が有能な部下のお陰で日帰りとなり、 無理やり箱に包まれて列車に積まれた大佐が羊にまみれて涙を流していたのを車掌が見かけたとか見かけなかったとか。 |
うちの30万HIT記念に頂いた『love letter』の後日談頂いちゃいましたv
やっぱり恋人同志の二人を見るのは、幸せですv
素直じゃないエドだけど、やっぱりロイを愛しているのですね♪
エドに愛されてる・・・それだけで、その他の不幸を補ってあまりありますよ、大佐!(笑)
はづき様、本当にありがとうございました〜vvv