ある日の朝・・・・・兄は珍しく早起きだった。
「あれ、兄さん出掛けるの?」
「ああ・・・ちょっと司令部に行って来る」
夜は錬金術の研究などしている事が多いせいで、朝はなかなか起きられない兄が・・・
『早朝』と言っていい時間に自力で起きた上、もそもそと着替えを始めた。
「こんなに早く?ご飯も食べてないじゃない」
「飯なんか食えねーよ」
・・・ご飯も食べれないほど、重要な懸案での呼び出しなのだろうか?
更に質問しようと見つめた兄の横顔は・・・何故か、厳しい表情。
『な、なに?』
訳も分からぬまま、弟は呆然と兄を見つめる・・・
弟の視線を意にも返さず・・・いや、弟の視線に気づかぬほど、何事かに意識を集中し、考え込みながらベルトのバックルを留めていたエドだったが――――
突然、ふと思い出したように手を止めた。
「あ、忘れてた」
そう言ったかと思うと、おもむろに留めたばかりのバックルを外し始める。
ベルトを緩め、穿いたばかりのズボンをずり下ろし・・・・・ついでに、パンツもずり下ろし。
・・・そして、足元にあったトランクから何かを引っ張り出した。
エドの引っ張り出したもの。
―――――よくみれば、それは買ったばかりの真新しいパンツだった。
エドはそれを身につけると、何故か腰に手を当て――――気合のポーズ。
「よし!・・・・・・・決戦の時だ」
意を決したようなエドの顔に、アルフォンスは内心ショックを受けていた。
決戦!?
・・・・・ということは、あのパンツは―――
『勝負パンツ・・・・・・!?』
アルは『ガビーン』と、聞こえる筈の無い擬態音を聞きながら、兄をじっと見つめる。
だが、エドはやはりそんな弟の状態には気づかずに身支度を整えると・・・ドアに向った。
「んじゃ、いってくる」
エドはそう一言言い置くと、部屋を出ていった――――
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残されたアルは呆然とドアを見つめて立ち尽くしていた。
どのくらいそうしていただろうか?
アルは突如顔をあげたかと思うと、兄の後を追って走り出した。
『兄さん、僕は兄さんの決意を見届けるよ!!』
――――彼の顔には、兄と同じく『決意』が刻まれていた。