・ 決戦の時 ・ <2>

 



アルが司令部に着いた時、兄の姿は既に見えなかった。


『やっぱり執務室かな・・・』


そう考えながら執務室前で聞き耳をたててみるが、人の気配がしない。
誰かに聞いてみようか・・・そう思いながら踵を返すと、
向う側からハボック少尉とフュリー曹長が歩いてくるのが見えた。

「ハボック少尉、フュリー曹長!」
「ん・・・アル?お前も来てたのか」
「今来た所ですけど・・・兄さん知ってます?」
「エド?多分、今ブレダ達と一階の角の部屋に・・・」
「違いますよ。エド君は大佐と二人で別室です」
「大佐と二人で別室っ!?」
「アル?」

大げさに驚くアルに、他の二人は訝しげに首を傾げた。
だが、そんな外野の反応にはまったくお構いなしで、アルは真剣な顔で考え始める。
『やっぱり、そうだったんだ・・・』
先ほど聞いた情報に・・・アルは自分の想像が正しかったのだと、確信を深めて一人深く頷いた。
彼の想像。それは――――


『兄が大佐に愛の告白に行ったのではないか?』ということ。


兄が、やたらあの人につっかかっているなぁと気がついたのは、かなり前から。
だけど・・・つっかかって悪態をついた後、兄の様子がおかしいのに気がついたのはここ一年ほど。
散々生意気を言って、散々悪態をついて、まるで喧嘩のような態度で別れて。

―――でも、その後兄は必ず落ち込むのだ。

僕には何も言ってはくれないけれど。
大佐と別れた後、兄は必ず、しゅん・・・と、まるで捨てられた犬のように項垂れて、ため息をつく。
『いったい何なんだろう?』と、最初は不思議だったけど・・・ある日僕は気がついた。


兄は、あの人が好きなんだ・・・・・・と。


本当は悪態なんかつきたい訳じゃなくて・・・・・沢山話をして、笑いあいたいんだ。
もっと側にいて、一緒にいて、触れ合いたいんだ。
―――だけど、兄は素直じゃない。
素直じゃない上に、あの人が良くからかうから、ついつい反発して悪態をついてしまう。
結果、言い合いのようになり、売り言葉に買い言葉でさっさと部屋から出てしまう事に。
つまり・・・限られた『あの人との時間』を自ら縮めてしまうことになってしまって。
そして・・・・・・・・・兄は、後で凹むのだ。


気づいた時は言葉に出来ないほどの衝撃だったが。
――――――――――――――僕は順応力がかなりあるらしい。


兄が本気で好きだと言うのであれば、『応援してあげよう!!』と、僕は決意した。

決意したものの・・・。
僕に知られたと分かったら、只でさえ恋愛事に奥手な兄はパニックをおこしてしまいそうだ。 結構シャイでもあるので、恥ずかしがって告白どころではなくなり、あきらめてしまうかも?

そんな訳で、『あくまでもそ知らぬ振りでさりげなく』をモットーに、手を貸す事に。

東方に帰りたいと言い出せぬ兄に代わって、定期的に東方に行こうと進言し。
司令部を訪ねる際は、必ず茶菓子を持参してティータイムをセッティング。
大佐と会えたら、僕から積極的に話しかけ・・・兄が会話に加わり出したら、さりげなく身を引いて二人の時間を作ってあげる。

―――と、まぁこんな感じで。
・・・こっそり手を貸すのだから、できる事は限られているけれど。
それでも、こんな風に出来る限りの応援してきた。
それが・・・・



『それが、やっと実を結ぶんだねっ!』



決意を固めた兄は今、あの人に力の限り、思いの丈をぶつけているのに違いない。
あれ・・・?力の限りぶつけるって、なんか色気無いなぁ?
大佐のような人には、体育会系にぶつかるんじゃ無くて―――こう、はにかんだ感じで、瞳とか潤ませながらの方が効果的かも。
ああ!服もいつものままじゃないか・・・何か別の物着せれば良かったかな!?
・・・せめて、髪をおろさせればよかったかも!
いつもと違う髪形って、それだけでインパクトあるし・・・どきりとする可能性大。
弟の僕が言うのもなんだけど・・・ガサツに見える兄だが、髪をかきあげる仕草とか、物思いにふける横顔とか―――結構色気があると思う。
そうだよっ、折角勝負パンツ穿いたんだから、色気をフル活用しなきゃ駄目じゃない!
百戦錬磨のあの人を落とすんだから、なおさら!!
若い情熱だけじゃ心もとない――――――――。

「ああっ、いろいろと攻略法を伝授しとけば良かった〜〜〜〜〜〜〜!!」
「あ、アル??」
「攻略法って・・・何?」

側近二人は、ますます困惑顔でアルを見つめるが、やはり彼はお構いなし。
『ああっ、失敗したらどうしよう。ごめん、兄さん!僕が不甲斐ないばっかりに〜〜〜!!』
・・・などと取り乱している鎧を、どう扱って良いのやら。
困り果てて見つめていると、後から別の声が聞こえてきた。

「・・・・・お前達、そんな所で何をしているんだ?」
「あっ、大佐・・・・・」
「大佐っ!?」

アルも気がついて勢い込んで振り向く。



「あれ、アル?お前も来たのか?」



そこには、今まさに心配していた兄と大佐が並んで立っていた――――






あれ、終わらなかった・・・もう1話くらいかな;
当初、ここまで変な弟にするつもりはなかったんですが・・・・・・(苦笑)



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