拍手ログC『ムード満点?』


「寒くないかい?」


高台にある、見晴らしのいい場所。

眼下に広がる夜景は、まるで宝石箱のようにきらきらと輝いている。
偶然見つけたこの場所。
是非とも恋人に見せてやりたいと、渋る彼を無理やり引っ張ってきた。
今日は気温が低い為、ことさら夜景は冴え冴えと美しく煌き、幻想的だ。

だが、その分寒いのも確かで―――――

機械鎧をつけている恋人を案じて・・・・・
ロイは先ほどの言葉をかけながら黒のコートを開き、後から抱き込むようにして小さな体を包み込んだ。
すると、恋人は腕の中で僅かに身じろぎ――――――

「―――サムイ」
「ああ、やっぱり体が冷えてしまったん――――――」
「いや、アンタの科白と行動が」

一昔前の少女漫画みたいだぜ?
つーか、男相手にやるなよ、んなこと。

あまりのサムさに凍りつきそうだったと、此方を見もせず嫌そうに呟く恋人に、ロイは深いため息を吐いた。


「・・・・・鋼の、ムードをぶち壊すのはやめてくれないか?」


本当は、別にやましい気持ちではなく・・・純粋に彼の身を案じての行動だったのだが。
とは言え、少々ムードに酔っていたのも事実なので、台無しな科白に恨みがましい視線を向けた。
だが――――

『あれ?』

闇の中だから、視覚的には分らないが、
抱きしめている彼の体温が、上がった気がする――――


「アンタ、年寄りだから寒いんじゃねー?オレは若いから全然平気だぜ」


相変らずつれない上に、酷い暴言を吐いてはいるが――――何故か彼は前を向いたまま。
いつもなら此方を向いて、人の悪い笑みを浮かべて見せるくせに?
不思議に思いながらも、ふと思いついて・・・・・彼の頬に自分の頬をくっつけてみると。



ビックリするほど、熱い、頬。



「な、なんだよ!?別に寒くないつってんだろ!?・・・・・あんま、くっつくなよっ」


途端にあがるうろたえた声に、思わず笑った。

つまりは――――――どうやら、彼は照れているようで。
照れ隠しに、つれない暴言を吐いているのだろう。


付き合い始めて一年。
肌を合わせた事さえ何度もあるのに、いつまでたっても彼はどこか初々しい。
特に、こんな『恋人』だという事を、モロに意識させるシュチュエーションは苦手のようだ。

思わずもっと突付いて苛めたい気持ちがムクムクと湧いてくるが、
怒って帰られてしまっては、それこそ折角のムードが台無しだ。
『まだ二人でこの夜景を見ていたい―――――――』
ロイは、悪戯心を押し込めて、エドの体をぎゅっと抱きしめた。


「確かに君の体はすごく温かいな。私は『年寄り』だからね、寒くて仕方ないんだ。―――温めてくれ」


少々からかい口調になってしまったものの、特に悪戯はせず、ロイはただ柔らかく彼を包み込む。
エドは最初抜け出そうと身じろぎしたものの、ロイがそれ以上何もするつもりが無いと分ったようで、
程なく大人しくなった。

体に感じる彼の体温が心地よくて、夜景のことなど忘れてロイはうっとりと目を閉じかける。
その時、黙って抱かれたままのエドが、口を開いた。

「―――――――綺麗だな」
「うん?」
「夜景。リゼンブールの夜は真っ暗だった。その分星が綺麗で・・・夜はあれが一番の景色だと思ってたけど、
―――――――――これも、すごく綺麗だな」
「そう言ってもらえると、連れてきた甲斐があるね・・・・・・また来年も二人で来ようか?」
「――――――来れるかな?」
「もちろんだとも・・・・・・来年といわず、毎年来よう。ずっと、ね」
「ずっと?」
「そう、ずっと。」

やっとエドが後を振り返り。
ロイが微笑んでエドを見つめ。

そして、自然と顔が近づいて――――――


図らずしも、思い描いていたムード満点なシュチュエーションになれて・・・・・
ロイは恋人の甘い唇を堪能しながら、幸せを噛み締めたのだった。



特別な日。

煌く夜景、二人きり。
恋人の体温を感じながら――――――――――――まだ見ぬ未来の約束を。




クリスマス、甘甘小話。
でも、ハガレン世界って、ホントはクリスマス無いんですよね・・・・・・
・・・・・・と言うことは、捏造し放題!?(前向きに生きていきたいと思います・笑)
つーか、そもそも夜景なんてハガレンの時代背景にあわないとは思いますが、お気になさらず。(オイ)

ムードぶち壊しな(笑)おまけ付き→


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