「兄さん・・・・・・それ、どうしたの?」


両手いっぱいに何やら抱えてきた兄を、アルは不信げに見つめる。
だが、聞かれた方の兄は弟のそんな瞳の色には気づかずに、にっこりと満面笑みを浮かべた。

「アル!オレ、大佐の事を誤解してたかもしんない!!」
「は?」
「大佐があんなに良い人だなんて、知らなかった!」

ついさっきまで『スカした嫌なヤロー』とか『クソ大佐』等と称していたはずの男を
満面の笑みで褒めちぎり出した兄に、アルは不思議そうに首をかしげたのだった――――




拍手ログE 『ラブラブ伸長★大作戦』 ・・・1




エドのロイへの評価がなぜ180度変わったのか。
それは、一時間前に遡る―――――


「おう、クソ大佐!この前報告書出しに寄ったばっかりなのに、呼び戻すとはどういう了見だ!!」


エルリック兄弟がイーストシティから旅立ったのは、5日ほど前。
それなのに旅先で急に『至急戻れ』の命令を受けた。
目的地に着かぬ前にとんぼ返りさせられてたエドは、当然怒り心頭。
臨戦体制で執務室に乗り込んだのだが・・・・・・・
入室してみると、当の呼び出した大佐殿は、ニコニコと上機嫌に笑っていた。

「ああ、鋼の。よく来たね」
「よく来たね、じゃねー!!いったい何の用・・・・・」
「まぁまぁ、怒鳴ってばかりいないで、これを見てくれないか?」

ロイはそう言うと、デスクの下においてあった紙袋を取り出し、並べ始めた。
それに唖然として――――エドは怒りを納めて近づき、並べられた物を覗き込む。
そこにあったものは、何やらサプリメントらしき瓶と健康器具らしきものと、数冊の書籍。
困惑しながらも、書籍のタイトルに目を走らせるとそこには『らくらく伸長法』の文字。
それを読んだエドの顔色が、変わった。

「――――っ、大佐・・・これって!!」
「気がついたかね?そうこれは私が厳選に厳選を重ねて集めた、身長を伸ばすグッズだ!!」

その言葉に、雷に打たれたように硬直したエドは、
次に、わずかに震える手でその中の一冊を手に取った。


「これ・・・どうして?」


まるで宝物のように、胸に抱えるエド。
ロイはそんな彼を嬉しそうに見つめて、そして告白した。

「・・・・・・いつも私は君の身長のことをからかってばかりいただろう?」
「ああ」
「そのたび君を怒らせていた。つい先日だって、怒らせてそのまま別れてしまった」

あれから自分の中で少し思うところがあってね、少し反省したんだ。
ロイはそう言って、どこか照れくさそうに笑った。

「身長のことを気にしている君に、酷い事をしてしまったと思っているよ」
「大佐・・・・・」
「あの後、私なりに情報を集めて・・・とりあえず、期待できそうなものを何点か取り寄せてみたんだ」

この中で、どれか気に入ったものがあれば、受けとってくれないか?
そう言って見つめてくるロイに、エドは嬉しいながらも困惑の目を向けた。

「なんで・・・こんなにしてくれるんだ?」
「言っただろう?今までの謝罪と・・・・・・そして、少し君と分かり合いたくてね」
「分かり合う?」
「いつも怒らせてばかりいたが、君を嫌いなわけじゃない。むしろ好ましい人間だと思っている。
なのに、どんどん嫌われていくようで、寂しかったんだ」

ここら辺でお互いに分かり合って、良好な関係を築きたいと・・・・・そう思ってね。
そう言って自分を見つめるロイの顔は真剣で、真実を言っていると、そう思った。

「うん、まぁ・・・・・その。からかわれんのは腹立つけど、オレも別にアンタの事、嫌いじゃねーよ」
「ほんとかねっ!?」
「・・・・・うん///」
「嬉しいよ、鋼の!!」

立ち上って、デスクを回り込んで自分の前に立つロイを
今度はエドが照れくさそうに見つめて―――――
そして、二人は、がっちりと握手をした。

「これからも宜しく頼むよ」
「あ、うん///」
「そうだ!!グッズだけではなくてね。君の為に身長を伸ばすクスリの研究をしているのだが・・・」
「クスリの研究!?オレの為にそこまで――――」

感動の色を浮かべて見上げてくる金の瞳に、
ロイは優しく微笑んで見せる。


「ああ。これからは友人として、全面的に君の身長を伸ばすのに協力しようと思う」


これを見てくれ、これは軍が極秘に開発を進めた肉体に変化をもたらすクスリだ。
うまく行かずに途中でプロジェクトは中止になったのだが、それを秘密裏に手に入れた。
入手後、私が練成を試みて、身長にだけ作用するように変化させてみたのだが・・・・
どうにも伸び幅が安定しなくて、色々思考錯誤しているところだ。

そうつらつらといい連ね、研究データを示すロイ。
そんな彼の話をエドは身を乗り出して熱心に聞き入り、自分も意見を出す。
――――にわかに『エドの身長を伸ばしちゃおうプロジェクト』の会議場になった執務室では、
二人の白熱した討論がしばし続いたのだった。




おばかな展開で進みたいと思います(笑)


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