「兄さん、どこいっちゃったのかな・・・・・」
兄が伸長会議に出席している間、ブラックハヤテ号としばしラブラブタイムを満喫したアル。
しばらくして迎えに行ってみれば、執務室には兄どころか、部屋の主である大佐の姿も無かった。
仕方なく、兄を探しながら司令部内をさ迷い歩く。
うろうろと歩いていたら、人気の無い廊下に出てしまい戻ろうかと思ったのだが。
聞き覚えのある声が聞こえてきて、足を止めた。
拍手ログE 『ラブラブ伸長★大作戦』 ・・・3
「駄目だ・・・・・・」
落ち込んだような声が、ある一室の少し開いたドアから漏れてくる。
気配を消してそっと覗き込むと、やはり黒髪のあの人がいた。
何やら白衣を着て、試験管や薬品などを前に何かの研究をしているようだ。
『あれって、兄さんの身長を伸ばす薬の研究?・・・真面目にやってくれてたんだ』
正直、兄をからかって遊んでいるだけじゃないかと思っていたアル。
だが、その真剣な表情を見る限り、からかいの類ではないことが分かる。
邪心していた自分を反省しつつ、続けて観察してみると・・・彼がかなり落ち込んでいるのが分かった。
「もう少しなのに、なぜうまくいかない!」
イライラとしたような言葉が吐き出される。
思わず慰めに入室しようかと迷う、アル。
が、―――――次に聞こえた来た科白に、目が点になった。
「いや、私は諦めないぞ!!鋼の、待っていろ」
―――きっと君の身長を『私とキスしやすい高さ』まで伸ばして見せる!!
・・・・・・はい?
アルの心の中の突込みなど聞こえるはずも無いロイは、その後もぶつぶつと呟く。
「小さい鋼のはもちろんとても可愛いから、あのまんまでもかまわないのだが、
やはりあまり身長差があるとキスがしずらいからな。
中腰で長時間するのは少々キツイし、彼も首を痛めてしまうかもしれない。
いや、抱き上げてしたり、執務机に乗せてしたりもなかなかいいがv
だがしかし!―――――――なんといっても、愛の営みにも制限がついてしまうし。
ベットに横になってしまえば問題無いが、やはり私としてはいろんなバリエーションに挑戦したいからな。」
――――とどのつまりは。
日々、からかってエドの反応を楽しんでいたロイだったが、突如自分のエドへの劣情に気がついてしまったのだ。
だが、気がついたあたりにはエドの自分への評価は、今までのからかいの代償としてかなり低くなっていた。
悩んだロイは、まず友好関係を築こうと彼の喜ぶ身長関連のグッズを集め。
ついでに、ホントに伸ばしてやれば自分への評価はぐんと上がるに違いないと、薬の研究も始めた。
思惑通りエドは友好的になり、良く笑顔を見せてくれるようになった。
それが嬉しくて研究に没頭し始めたロイに、また新たなる目標が出来る。
『ただ伸ばして、私より高くなってしまっては困るし――――丁度良い高さで止まるような薬を作らなければ』
小さい彼は可愛いが、あの姿だと私が世間に『悪い大人』との悪印象をもたれやすい。
彼の可愛さを損なわず、かといって幼く見えすぎないサイズ・・・・・
ああ、どうせなら、キスしやすい高さがいいな〜〜〜〜〜〜〜〜vvv
おっと、その後成長して更に高くなっても困るし・・・薬で伸ばしたら、後は成長しないような配合をしないと。
・・・エドの背が大きくなってもならなくても、完全に『悪い大人』である。
まぁ、それは置いといて。そんなこんなで、彼は心血注いで研究し始めたのだった――――――
「鋼の!!君とのラブラブライフの為に、私はきっとやり遂げて見せるぞ!!」
『聞かなきゃよかった・・・・・』
アルは拳を握り締めて叫ぶロイを見つつ、げんなりとした表情で心の中でそう呟くと
どうやったのかは知らないが、忍者のように音をさせずにそこを離れていったのだった。
******
その後、側近達に兄は『先に宿に帰る』といって帰ったと聞き、慌てて宿に戻ったアル。
戻ってみると、兄は本をさかさまに読みながら、ボーっとしていた。
「兄さん、ただいま。・・・・・・・・どうしたの?」
「え?いや・・・・別に」
「別にって・・・・・あきらかに変なんだけど?」
そう聞いてみると、兄はしばしの間の後、ようやく口を開いた。
「―――――――――――あのな、オレ・・・・・大佐に交際申し込まれた」
「・・・・・・・」
―――すでに行動開始した後だったのか。
ため息をついた弟に気がつくことなく、エドはうろうろと視線をさ迷わせながら、話を続ける。
「オ、オレ達、男同士だし・・・年だってうんと離れてるし、上司と部下みたいな関係だし、ありえないと思うんだけど」
「・・・・・うん 」
「でも・・・・・・大佐、すごく良い人だし、一生懸命にオレの為に頑張ってくれてるし・・・・・」
いや、兄さんのためじゃなく、自分のためらしいよ?
アルは心の中で突っ込むが、
そんな声など聞こえるはずも無い兄は、もじもじと指で膝にのの字なんか書いたりして。
「優しいし、頑張ってる姿はちょっとカッコイイって言うか・・・
いや、カッコイイとこだけじゃなくて、落ち込んでヘタレる姿もなんか可愛いって言うか――――――」
―――駄目だ、すでに罠にはまってしまってる。
「それで・・・・・・へ、変かもしれないけど、オレ・・・大佐ならいいかなぁって」
予想どうりの答えに、こっちこそヘタレそうだ。
こっちの反応を窺うように、『アル、どう思う?』などと覗き込んでくる兄に
しばし考えこんだ弟は、盛大なため息をついたあと、兄に両肩にそっと手を置いた。
「兄さん。僕、基本的に人の恋愛に口出すのって嫌いなんだけど・・・・・一言だけ」
「・・・・・うん。」
「交際相手を決める時は、ちゃんと 心の目 で見てから決めた方がいいよ?」
「は?」
心の目?
弟の言葉の意味を測り兼ねて、ただただ首を傾げるエドであった。
―――――はたして、エドの『心の目』は開眼するのか否か?今はまだ、ようとしてしれない。