カカシはイルカの瞳を見つめながら一瞬耐えるような瞳をして。
そして、意を決したように、拘束されていない片手を彼の背中に回した。
「アナタには偽りたくないからです。そして、偽る必要もない」
「カカシ先生・・・・・」
「イルカ先生には、そのままの俺を知って欲しかった。だって、俺はアナタのことを・・・」
カカシの腕に力がこもるのを感じながら、イルカは嬉しそうに微笑んだ。
彼が全て言い終える前に、我慢できずに口を開く。
「嬉しい、です」
「イルカ・・・・・・」
見詰め合う二人。そして――――イルカは叫んだ。
「あなたが・・・・・・・・・俺のことを友人と思ってくれていたなんて!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
カカシの口から、どこか間抜けな呟きが漏れる。
だが、そんなカカシの心中を察することなく、イルカは照れくさそうに鼻の傷を掻いた。
「素顔を見せてくれたってことは、アスマさんや紅さんなどの昔馴染みのご友人と同じように親密な『友人』と思って頂いているって事ですよね?」
「・・・・・・」
「俺、ずうずうしいかもしれないですけど、あなたの友人になれたものだと思っていたんです。それがさっき紅さんの話を聞いて、それは俺の思いあがりであなたにとっては俺は友人でもなんでもなく、知り合い程度だったんだと思ったら、寂しくて・・・・・」
「・・・・・・あの・・・俺としては友人以上の関係に・・・・・・」
「ええっ!?アスマさん達よりもっと親しい友達になってくださるんですか!?」
舞いあがったイルカに、カカシの気持ちは届かない。
「さっきショックだった分、すごく嬉しいです!!」
感極まって、イルカはカカシにそのままぎゅっと抱きついた。
―――だって、本当に嬉しいのだ。
やっぱり、勘違いじゃなかった。
俺は――――――――――この人の近い場所にいられるんだ。
それがなんとも幸せで、イルカはまたカカシを見上げてへにゃりと顔を緩めた。
大喜びなイルカとは裏腹に、悲痛な表情で暗雲を背負っていたカカシだったが―――
イルカのその笑顔を見て・・・・・・・・困ったような、苦笑交じりの微笑を浮かべた。
「カカシ先生?」
「・・・・・仕方ないですね、今は・・・それで我慢します」
「え?」
「だって俺・・・・・・・・・・あなたのそんな所も好きだから」
カカシはそう言うと、ふわりと優しげな表情で笑った。
『うわ・・・・・っ』
イルカはその顔を見て、自分の鼓動が大きく跳ねあがるのを感じた。
狼狽しながら視線を逸らして・・・そして、自分が未だ彼の腕の中なのを思い出して、慌ててその腕から抜け出した。
「す、すみません!お、俺興奮してて・・・っ!つい・・・」
抱きついたままだった事をしどろもどろに謝ると、カカシはどこか名残惜しそうな表情をした後、「いいえ」と優しく微笑んだ。
その表情に見とれながら、思う。
『本当に、綺麗な人だなぁ・・・・・・』
男ってわかってるのに、ドキドキしてしまう。
こんな事思うなんて・・・・・・・・俺、変なのかな(汗)
いや、この人が男前過ぎるんだ!!
こんな顔間近で見せられたら男女関係なく、誰だってこうなるに違いない!
・・・・・ああ、だからいつも隠して、見せなきゃいけない時は幻術なんてつかってるんだ。
この微笑を見た人が、『特別と思ってくれてる』とか、勘違いしないように。
カカシが顔を隠している意味をあらためてわかったような気がして、イルカは心の中で自分を戒めた。
『お、俺も・・・気をつけなきゃな』
カカシ先生が折角俺を『友人』と思ってくれて、信用して素顔まで晒してくれたんだ。
その信頼を裏切るような勘違いは絶対しちゃいけないよな!
―――イルカは、そんな事を考えながら、跳ねる鼓動を無理やり押さえて言った。
「カカシ先生!あらためて・・・これからもよろしくお願いしますね!」
にっこりと笑いかけると、カカシは何故か鼻の辺りを押えた。
「カ、カカシ先生?」
「・・・・・すみません、ちょっと鼻血でそうになっちゃって・・・」
「ええっ、大丈夫ですか!?」
「はい、なんとか・・・・・」
『いつまで我慢がきくかな・・・・・。いや、我慢だけじゃなくてこれからは攻めていかないと!いい加減、理性がもたなーいよ』
――――そんなカカシの小さなボヤキを耳にして、再び首を傾げるイルカだった。
******
「アンタ情けないわよ!?お膳立てまでしてあげたってのに、お友達どまりなんて!馬鹿じゃないの!?」
「オマエのは、お膳立てしてくれたわけじゃないでしょ?面白がってただけじゃないの」
次の日、また廊下で言い合いをするカカシと紅の姿。
そんな二人を、近くでアスマが呆れた様に見ていた。
「とにかく、もう俺達の事はほっといてくれる?今、穏やか〜に『愛を育んでる』とこなんだからさ」
「穏やか〜に『友情を育んでる』の、間違いじゃないの?」
フンと鼻を鳴らす男に、フフンと見下す女・・・・・一発触発な雰囲気の中、それらを霧散させるような明るい声が二人の後ろから響いた。
「あれ、皆さんおそろいで・・・・・・お疲れ様です!」
声の主はイルカ。
いつもながらの受け付けスマイルで、ニコニコと笑っている。
途端、カカシは一足飛びに彼の側に飛んだ。
「イルカせんせもお疲れ様!」
「わっ、カカシ先生・・・な、何なさるんですか!?」
「友情を確認中でーす!」
ぎゅうっと、イルカを抱きしめて頬ずりをしながら、カカシはニコニコと笑う。
「だって、俺達昨日改めて友情を誓い合ったわけでしょ?つまり俺とアナタはマブダチって奴ですよね!?だったら、スキンシップしないと!」
「え、あ?は、はぁ・・・・・。でも、なんだか落ち着かないですね、コレ・・・・・」
イルカはドギマギとした感じで、歯切れの悪い返事をした後、思いついたように聞いた。
「友情ってことは・・・・・アスマ先生とかとも、してらっしゃるんですか?」
「ブッ・・・イルカ!気色悪い事言うな・・・んなわけ―――」
「そうなんです!俺は俺が認めた友達とは思いっきりスキンシップすることにしてるんです!アスマとは一日最低三回はします!だから、アスマ以上に親密な友人のアナタとは日に十回はしないと!!」
アスマの言葉を遮って鼻息荒く言うカカシに、イルカは面食らいながらも、頷いた。
「そ、そうなんですか。わかりました!俺、あなたの友達ですもんね!!」
「嬉しい、イルカせんせv」
ますますぎゅうぎゅうに抱きしめてくるカカシに、『うう、でもこれ・・・心臓に悪いなぁ』と思いつつ、イルカは健気に抱き返す。
そんな二人を見ていた紅とアスマは―――――
「・・・・・転んでもただでは起きないって訳ね?」
「いくか?」
「ええ、アホらしくなったから、いきましょ」
呆れたような顔で二人が去って、残されたイルカは心の中で呟いた。
『でもこれ、いつまでやってればいいのかなぁ・・・』
なんか、皆の視線を感じて恥ずかしいんだけど。
そう思いつつ、嬉しそうに擦り寄ってくるカカシの頭を撫でてやるイルカだった。
二人が『ただならぬ仲のオトモダチ』と里中で噂されるのは、この後すぐ。