昔、オヤジが生きていた頃―――オフクロとの馴れ初めを聞いた事があった。

その時、オヤジは馴れ初め話はしてくれなかったが・・・
真剣な顔で、たった一言、言ったっけ。


「イルカ、お前に人生の指針となる言葉を授けよう―――『酒は飲んでも、飲まれるな』だ。・・・忘れるな」


その時はまだ子供だったから、なんの事やらサッパリわからなかったが。
大人になった今、その言葉がやけに身にしみる――――――




・ 酔った上でのコトですし? ・ 
〜〜酒は飲んでも飲まれるな!・酔っぱらいイルカ物語 <1>〜〜




火影主催の『慰労会』という名の飲み会がある。

上忍中忍下忍(ただし成人した者だけ)が入り混じり、年に一度行われるこれは、一応『無礼講』。
だが、忍の世界は厳しい縦社会。
それは名目であって、本当に下位のものが上位の者に無礼を働いて良い訳がない。
しかも、懇意にしている人ならともかく、挨拶程度しかした事のない人なら、尚更だ。
そんな事は、重々わかっている。
いや、『わかっていた』のだが――――――。




「あり?も〜う、酒がないぞぉ!?もういっぱい〜〜〜!!」
「イルカ・・・・・お前、そろそろやめとけよ」
「だーいじょーぶ、だいじょ〜〜〜〜〜〜〜・・・ぅおぶっ・・・・」
「・・・全然大丈夫じゃねぇじゃねぇかよ。・・・ったく、お前酒癖わりぃなぁ」

『慰労会』当日――――
宴席も中盤にさしかかっていた。
この宴、無礼講との名目ではあるが、席はきっちり階級別に分けられている。
最初から上位下位が混ぜられると、下位の者が気おくれしてしまうからという配慮だ。

だが・・・・・中盤にもさしかかると、それもある程度乱れてくる。
階級は違っても戦場を共にし懇意になるもの達もいるので、そんな者達は下位の者が上位の者の席に酌をしに行き、そこで昔話に花を咲かせたりしていた。
とはいえ・・・・・・・下位の者があんまり悪目立ちするのは良くない。
酒の席、と寛容な人もいるが、やはりよく思わないものもいるからだ。
だから、入り混じり始めたとはいえ、下位の者はある程度節度を持って上位の者に接している。
中忍・・・特に上忍と普段付き合いが少ない内勤の者などは、挨拶まわりが済んだ後は仲間内で固まって、それなりに盛りあがりながら静かに飲むのが通例だった。


それなのに――――宴もまだ中盤に差し掛かったばかりにもかかわらず、イルカはもう既にでろんでろんに酔っぱらっていた。


あまり強くないくせに酒好きで、勧められると断れないもんだからピッチも早い。
結果―――イルカはすぐに酔っ払ってしまうことが多い。
普段真面目な分、酔っぱらったイルカのギャップはすごくて。
いつもの生真面目な彼とは思えないほど、酔っぱらって手の付けられなくなる。
それでも暴力などは振るわないし、陽気になるタイプの酔っ払いなので・・・仲間たちは呆れつつも、毎回怒る事無く相手をしてやっていた。
少々酒癖が悪いが、イルカが良い奴なのがわかっているから、仲間達はそんな彼にも寛容だった。
だが・・・いつもの仲間同士の飲み会ならそれでもいいが、この席では少しマズイ。



なんてったって、酔っぱらいはわがままで無遠慮で―――しかも、怖いもの知らずなものなのだ。



仲間の中忍達がハラハラし出した時。
座敷の後方のふすまが開き、のんびりとした声が宴の席に響いた。


「いや〜、すみません。ちょっと遅くなっちゃいました」


現れたのは、『写輪眼のカカシ』・・・里の誇る、木の葉トップレベルの上忍である。
―――三代目から直々、声がかかる。

「おぬしは相変わらずじゃの・・・酒がなくなってしまうぞ?さあ、席につけ」
「はい」

他国のビンゴブックにも名を連ねる彼の席は―――もちろん、上座に座る火影の席の近くだ。
三代目の言葉に返事を返し、ゆっくりとそちらに向って歩みを進めるカカシに、末席側の下忍達は羨望の眼差しを向けて、隣を通る時に上ずった声で挨拶をしている。

「うわ、写輪眼のカカシだぜ!?俺、本物初めて見た・・・」
「はたけ上忍、ナルトの上忍師で戻ってきたけど、ずっと里外の第一線にいたからな」
「やっぱ、カッコイイな!・・・なんつーか、オーラが違うよなぁ」

ひそひそと中忍達が噂していると、カカシの歩みが中忍席の辺りにさしかかってきた。
イルカの同僚達も居住いを正して、横を通るカカシに挨拶をする。

「はたけ上忍、お疲れ様です!」
「どーも」
「任務お疲れ様でした!」
「んー、アンタ達もお疲れさん〜」

口々に緊張した声で挨拶をしている中忍達の横で、もそりと動くものがあった。
中忍たちが視線を向けると―――。



「あっれ〜、カカシせんせぇ!いまきたんですか?おっそーいですよ〜〜〜〜〜」



ろれつの回らない声が聞こえたかと思うと、伸びた手がカカシのズボンを掴んだ。
カカシが歩みを止めて視線を向けると―――そこにいたのはイルカ。
目じりを紅く染めて、とろんとした瞳で見上げる彼を、カカシは驚いたような表情で見つめ返した。


「・・・・・イルカ先生?」
「そーですよぉ、俺はイルカでーっす!ねぇ、ここでいっしょにのみましょうよ〜〜〜〜〜」


きゃらきゃらと笑いながらカカシのズボンを引っ張るイルカに、
周りの中忍達の顔から血の気が一気に引いていった――――。






世間では、『イルカ先生は酒が強くて、宴会では介抱役』・・・が一般的な気がしますが。(違う??)
私もそう思いつつも、あえて逆を行く”酔っ払いイルカ”に挑戦してみたいと思います〜(笑)


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