「これから隊長の指示がある!」
その言葉に三人は姿勢を正し、目の前の天幕を見つめた。
天幕から、男がのっそりと出てくる。
長身を少々猫背気味に丸めて出てきた男は、皆の前に出ると、その背を伸ばしてぐるりと忍達を見まわした。
輝く銀髪、斜めに付けられた額あて・・・その下には『写輪眼』が隠されている。
写輪眼のカカシ。
里の誉れと言われるその男が、今回の作戦の隊長だった――――
アカデミー教師となる以前のイルカは、中忍として色々な任務についていた。
少ないながらも、Aランク任務をこなしたこともある。
しかし、念願のアカデミー教師となり、アカデミ―勤務となってからは任務に出る事は稀になった。
たまには里外任務も入る事は入るが・・・土日合わせのお使い程度のものばかりだった。
―――そんなイルカに、久々に長期と言える任務が入った。
期間は一ヶ月。アカデミーもしばらく休まねばならなくなった。
教師のイルカにまで戦地へ向かう任務が回ってきた理由は、大口の任務が複数入ってしまったからに他ならない。
どの依頼も木の葉の里にとって重要なものの為、断る訳には行かず・・・結果、アカデミー教師も何人か戦場に駆り出される事態になったのだ。
・・・・・その駆り出された中の一人に、イルカがいた。
『久々だからな・・・気ぃ、引き締めていかねぇと』
今まさに隊長からの作戦内容を聞きながら、イルカは背筋をピンと伸ばした。
『それにしても、写輪眼のカカシと一緒に戦場に立つ日が来ようとはなぁ・・・・・』
里の誉れと賞されるその男と同じ戦場に立つのを少し誇らしく思いながら、イルカは男の声に耳を傾けた。
少しのんびりしたような・・・言ってしまえば、間の抜けたような喋り方ではあるが。
彼の声は張り上げている訳でもないのに良く通り、耳ざわりがいい。
戦を前にして、いきり立つでもなく、怒鳴りつけて激を飛ばす訳でもなく・・・のんびりと喋るカカシ。
だが、そののんびりとした喋り方が、自分の緊張を徐々に解きほぐしてくれているのに気がついた。
穏やかな口調のその言葉が、一つ一つが胸に染み入るように入ってくる。
彼の指示通りやれば、必ず生きて帰ってこれるとさえ思えてくる。
『こういうの、カリスマっていうのかな・・・』
そんな事を考えた辺り、カカシの話が終わった。
「以上、各自指示通りに頼むね。作戦開始は明朝。それまで体を休めておいて」
「「「「「ハッ!」」」」」
皆の返事に小さく頷き、カカシは天幕へと戻っていく。
・・・・・だが。
「あ」
そこにいた皆がそれぞれの持ち場へ歩き出した時―――ハッとしたような声が聞こえた。
皆、揃って足を止めて振り返る。
イルカ達三人も振り返って、声を出した本人・カカシを見つめた。
―――副官に任命された上忍の男が、カカシに駆け寄り声をかける。
「隊長、何か?」
「どうしよう・・・・・・忘れた」
「忘れた?何か装備等に手違いがあったでしょうか?」
「あ、いや・・・作戦関係のものじゃなくて、私物で大事な物を忘れちゃって・・・困ったな」
困っているとも思えない相変わらずのんびりした声でそう言いながら、彼は僅かに眉を下げた―――