私物との答えに、副官・ウツギは戸惑ったように聞き返した。


「私物?それは、巻物か何か・・・?」
「うさちゃん」
「は?」
「俺のうさちゃん、忘れちゃった・・・アレ抱いてないと、よく眠れなくなるんだよね」
「・・・は?」

ウツギが呆けたような返事を返す後ろで、イルカもまた、呆気に取られた顔でカカシを見つめていた―――




・ うさちゃんと一緒♪ ・ <2>




うさちゃん・・・・・・?
直接言われたウツギ以外の者も、唖然としてその科白を心の中で反芻する。

うさちゃん
ウサチャン
・・・・・・・うさぎちゃん?

『うさぎって・・・アレだよな?耳の長いやつ・・・・・』

イルカはその名をもつ愛らしい動物を思い浮かべて首を傾げた。
写輪眼のカカシとうさぎ。・・・なんだか想像しがたい組み合わせだ。
使役している口寄せ動物なのだろうか?それともアレか?「うさぎ」とは仮の名で、本来のうさぎ形のものではなく、何か重要なものとか!?

『でも、眠れなくなるとか言ってたよな?抱くって言ってたし・・・ぬいぐるみか、抱き枕とか?・・・・・・あっ!』

もしや、部隊長クラスには許されていると聞く、慰安要員の事だろうか?
長期任務では、上位の者から下位の者へ慰安要請をすることを『合意の上』との前提で許されている。
普通は現地調達。部隊の中で気に入った者へ声をかける。
だが、上忍の中でも大部隊をまとめる者になると、そんなふうに現地調達しなくても、あらかじめ気に入りの者を連れていく事が出来ると聞いた。
その慰安要員の登録を忘れて、連れて来なかったと言う事だろうか?
そんな事を想像しながら隣の二人を見ると・・・奴らも同じ考えだったらしく、『うらやましいなぁ』みたいな、少々ひがみの入った顔で苦笑していた。

――――だが。

「あ、うさちゃんって・・・こんくらいのうさぎのぬいぐるみなんだけどね?小さい頃から愛用してんの。手触りがよくて、抱きごこちが良くて、癒されんのよ。アレないと、ちゃんと眠れないんだよねぇ」
「「「「「・・・・・・・」」」」」

・・・・・・マジに、うさぎのぬいぐるみだったのか。

写輪眼のカカシが肩を落としているのを見ながら、自分達の肩もガックリと落ちているのを感じる。
ここにいる者達皆が、多かれ少なかれ彼に憧れを抱いていたと思う。
その彼がうさぎのぬいぐるみを抱いて寝ているかと思うと、脱力せずにはいられない・・・。
カカシもその他の者も、意図は違うにしても、大きな溜息を揃ってついた。
―――最初に立ち直ったのは、上忍にしては真面目で常識があると中忍達からも信頼が厚い男・ウツギだった。

「今夜には間に合いませんが・・・里に式を飛ばして、誰かに届けさせましょうか?」

内心では呆れているだろうとは思うが、ウツギはそんなことをおくびにも出さず、そう言った。
どうやら一般常識で窘めるよりも、今は部隊長に気持ちよく仕事をこなしてもらう方が大事だと思ったようだ。
受付に入る事が多いアカデミー職員の三人は、同じような苦労を経験しているので、彼の気配りにホロリとしてしまう。
カカシもそんなウツギの態度に感謝しながらも、首を横に振った。

「ありがと・・・でもね、だめなのよ。うさちゃん、俺の家にいるんだけど・・・家には色々な物が置いてあるからね。危ない物とかもあるし・・・俺がいない時は結界張ってあるのよ。それが俺のチャクラでなければ解除できないようになってんの。強固なやつだから力技で破るのは無理だと思うし、俺自身が解くか、俺が死なない限りは解除できないのよ」
「そうですか・・・」

それは、どうにもならない。
カカシの影分身に行かせるという手もないことはないが、カカシの足でも一晩で行って来れる距離ではないし、明日からの作戦内容を思うと、チャクラを分散させて消費する事など出来ない。
ウツギも途方にくれた様に再度肩を落とし、辺りに沈黙が漂う。
―――だが、その沈黙を破る者がいた。

「はたけ上忍、それはお困りでしょうね。代わりにはならないでしょうが・・・今夜は私を抱いて寝るというのはいかが?」

カカシの前に進み出たのは、今回の部隊の中でも一番の綺麗どころと評判のくのいち・アオギリだった。

「え?でも・・・」
「ものは試しといいますわ・・・・・ね?」

カカシの前に妖艶な笑みを浮かべて、彼女は立った。





実は、息子愛用の兎のぬいぐるみを見て思いついた話だったりします(笑)


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