「あ・・・」
天幕に入ってきたその人物を見るなり、俺は間抜けな声を出してしまった。
そして、入ってきたその男もまた、唖然としてこちらを凝視している。
「「・・・・・」」
二の句が告げずに黙り込んでしまったが・・・彼もまた言葉を紡ぎ出せなかったようで、二人して押し黙る。
狭い天幕の中に、気まずい沈黙が落ちた――――
★カカ誕2009★ 『魅惑の黒髪』・・・1 
しばらくして―――
最初に口を開いたのは、彼の方だった。
「・・・その様子だと、相手が俺だとはご存じなかったようですね」
「ええ・・・」
カカシはクシャリと前髪をかき混ぜた。
全く聞いてない、彼が来るなんて。
こんな所に彼がいる自体、予想外な事だ。
―――だって、彼は・・・イルカ先生は、内勤を主にしている忍だ。こんな前線にいるだなんて、誰が予想できようか?
「アナタ・・・何故ここに?」
「・・・作戦終盤に、補充要員としてきました。ほら、数日前に怪我人がかなり出たでしょう?彼らの交代要員です。でも、着いてすぐ・・・たぶん、貴方の部隊の活躍のお陰でしょうが・・・戦が終結したので、大して仕事はしていないんですけどね」
少し落ち着きを取り戻したようなイルカが、肩を竦めるようにしてそう答えた。
「そうですか・・・」
確かに、少し前にかなり怪我人が出ていた。
その怪我人達の搬送や補充で、中忍が何人か投入されたと聞いていた。
聞いてはいたが、その中に彼がいるとは思わなかった。
「先程撤退命令が出ていた筈ですが・・・帰らなかったんですか?」
「部隊はほぼ引き上げを完了しましたが・・・一番最後に来た私の隊は残って、後始末してからの撤退ということで。その任についていたところです」
「・・・それは、すみません。仕事を中断させて・・・」
なんと言ったらいいか分からず、とりあえずそう言った。
この大部隊を率いていた部隊長に、戦いの痕跡を消すなどの後始末を任されたのだろう。
・・・そして、この天幕の撤去も依頼されていたのかもしれない。
「いえ、それは他の隊員がやっていますから。・・・それより、この天幕に呼んだのは確かにあなたなのでしょうか?」
「・・・・・」
「いえ、その・・・意外と言うか」
そこまで言って彼が言葉を濁す。
彼としては、俺がこんな依頼をするイメージが無かったので、真意を聞きたいのだろう。
でも、聞き辛い内容でもあるだろうから、言葉を濁したといったところか。
「・・・呼んだのは確かに俺です」
カカシは、観念したように、吐息混じりでそう答えた。
途端、イルカは小さく息を飲んで。
少しして、彼は少し表情を硬くして、言った。
「――――では、貴方が・・・伽を所望されているのですか?」
イルカの黒い瞳を見つめて、カカシは顔を歪めた。