『はぁ・・・ホント、ついてないねぇ』
カカシは、そう心の中で呟いて、溜息を吐いた。
今日も今日とて、カカシは任務に勤しんでいる。・・・本当は今日自分は休日だった筈なのに、だ。
休日だった筈の自分が何故こんな忍服を着て街道をあるいているかというと、護衛任務をねじ込まれたからに他ならない。
大して危険度の高い任務ではない。自分が駆り出されるほどの任務内容ではない。
・・・それなのに何故カカシがこの任についているかといえば、単に依頼人の見栄の為である。
『写輪眼のカカシ』を護衛につけているというのは、それだけの地位を持ち高名な忍を雇うほどの財力を持っているということで、依頼人の虚栄心をとても満足させる・・・らしい。
『アホくさ・・・』
特に命の危険もないのに、バカ高い金を払って見栄を張る。カカシには到底理解のできないことなのだが、これも任務。
楽勝任務で里が潤うと思えば、アホくさいと思いつつも我慢ができる・・・。
たとえ、それが中忍クラスで十分な任務だとしても、だ。
『そうでも思わないと、やってらんないよねぇ・・・』
そう心の中で呟きながら、溜息をついた―――
★カカ誕2011★ 『おめでとう』・・・1 
実は、今日はカカシの誕生日だ。
いい年をした大人だし、家族もいないし・・・里にいたとしても誕生パーティなどするわけでもないのだが、こんな日の任務がこれだと思うとちょっと黄昏てしまう。
これなら、ギリギリのやり取りをする高ランク任務の方が『自分をここまで育んでくれた里への恩返し』的な感じで、マシな気がする。
つい溜息を吐くと、聞こえたようで・・・後ろを歩いていた中忍が、歩みを速めて隣に並んだと思ったら、申し訳なさそうに眉を下げて言った。
「申し訳ありません、はたけ上忍。もう少しの辛抱ですから」
あと一時間も歩けば依頼人の屋敷に到着です。そうすればこの任務は終了ですから。
依頼人に聞こえぬよう小声で・・・こちらを気遣うようにそう言う彼もまた、今回の任務を割り振られた者。
今回の任務は、自分と彼。そして、下忍二人のフォーマンセルで当たっていた。
彼は、カカシにとってランクに合わない任務なのを重々承知のようで、申し訳なさそうにしている。
「別にアンタが謝ることじゃないでしょ?」
「はぁ・・・でも」
「どんな任務だって大事だよ。・・・オレは平気」
「そう言っていただけると助かります」
ホッとしたように胸を撫で下ろす中忍に、首を傾げる。
「何でそんなにホッとしたような顔するの?」
「・・・実は、この任務の受付を行ったのが私でして」
「受付?」
「普段は外回りの任務ではなくて、内勤を主にしているんです。受付にも週に何度か入っているのですが・・・はたけ上忍は多分ご存知ないでしょうね」
「ああ、そうなの・・・」
この人、内勤の忍だったのか。
受付にいるようだけれど、自分に割り振られる任務はほぼ100%受付を通さ無いものばかりなので、彼とも面識が無かった。
「・・・今回、ゴリ押しの依頼でしたから、何度も断ったのですが・・・それでも相手方は引いてくださらなくて。依頼はお受けしますから他の忍をとお願いしたんですが、埒があかなくて。そのうちコネを使ってねじ込まれて、最終的にあなたにご迷惑をかける事になってしまいました」
私が、もっと上手く立ち回れれば良かったんですが・・・申し訳ありません。
中忍―――うみのイルカはそう謝った。
「いいよ。仕方ないでしょ?」
「でも、今日・・・あなたは休日でしたし、その上お誕生日でしょう?」
なんか、どうにも申し訳なくて。
そう言いながら眉を下げる中忍を、ギョッとして見つめる。
「何で知ってるの!?」
驚いた声で聞くと、途端にイルカは『しまった』と言った顔をした。
「いや、あの・・・すみません。個人的なことを」
「別に機密でもなんでもないから、いいんだけど・・・なんで?」
「火影様がそうおっしゃってたので」
「三代目が?」
この依頼のことを相談にいったら、三代目火影が思い出したようにそう言っていたと、申し訳なさそうに言われた。
なるほど、そういうことか。
「・・・それで、それを思い出した三代目はなんだって?」
「その〜・・・『まぁ、しかたあるまい』・・・と」
「なにそれ。せめて『あとで祝いをやらねば』とか、言ってなかったの?」
「いえ、特に」
「冷たい・・・火影様って、そんな冷たい人だったの?」
わざと肩を落として悲しそうにそう言った・・・もちろん、冗談だ。
いつもの悪友なら、慰めるどころか鼻で笑われるところ。
よくて、『ならあたしがプレゼントあげるわよ〜』などといいながら、中身の入ってない酒瓶とか食べ終わった団子の串とかを置いていかれるのが関の山だ。
―――だが、この中忍の返事は、悪友達とは一味違った。
「そ、そんな!火影様はそんな冷たい方じゃありませんよ!?そんなに悲しまないでください・・・そうだ、それなら火影様の代わりに、俺があなたに何か贈ります!」
「は?」
「あ、でも俺、見ての通り中忍なんで高価なものは差し上げられないんですが・・・俺で出来る範囲で精一杯頑張ります!」
冗談を鵜呑みにして、真剣に申し出る彼に唖然とした。
幼い時から忍の中で育ち、当然周りは忍ばかり。階級の違いでそれぞれ態度は違うものの、皆一癖あるような者が普通であって・・・こんな真面目で真っ直ぐな瞳を向けられたのは久しぶりだと思った。
『なんか・・・忍らしくない人だーね』
もちろん彼も中忍にまでなっているのだから、真面目で真っ直ぐ・・・だけでは通らない任務もこなしてきているのだろうが。
それでも、やはりこの人の根っこは真面目で真っ直ぐなんだろうと思える瞳だった―――。
「そうだねぇ・・・」
さっきのは冗談だよと、そう言おうと思った。
けれど、なんとなく・・・こんな感じの人に祝ってもらうなんてこれから先もなさそうな気がして。
そう考えると『冗談だよ』と終わらせてしまうのがもったいないような気分になり・・・気がついたらこんな事を言っていた。
「じゃあ・・・『おめでとう』って言って?」
「え?」
「誕生日なんだから、お祝いの言葉が欲しい・・・だから、『おめでとう』って言って」
「・・・そんなんでいいんですか?」
「うん、いいよ。だって、子供の頃と違って、今じゃ『誕生日おめでとう』なんて言われることもあんまりなくなっちゃったし。たまに言われても、なんか思惑付きとか、祝いだと言いながら人の金で飲みまくる悪友とか、そんなのばっかりだし・・・だからさ、純粋に『おめでとう』っていってくれる人がいたら嬉しい」
プレゼントなんかいらないから・・・ただ『おめでとう』って言って、祝ってよ。
カカシはそう言って、イルカの顔を覗き込んだ。
「ダメ?」
「いえ!でも・・・俺みたいなもっさい中忍に言われて、嬉しいですか?」
「うん。アンタみたいな感じの癒し系の人に言われたら嬉しい」
「い、癒し系・・・ですか?」
イルカは戸惑ったような顔をしながらも、最後にはニコリと笑って言った。
「・・・はい、俺で良かったら」
「ふふっ、じゃあよろしく」
そうして二人でにっこりと笑い合って。
イルカは早速とばかりに、祝いの言葉を述べようとした。
「では、早速・・・はたけ上忍、誕生日おめで・・・・・・むぐっ!?」
だが、言い終える前にカカシの手の平で口を塞がれてしまう。
驚いてカカシをみると、悪戯っぽい笑みが返ってきた。
「こんなところでじゃ味気ないでしょ?」
もう少しで任務完了でしょ?里に帰ったら、どっかで一杯やらない?
―――そう誘いを掛けてみる。
任務中に酒盛りの計画など、怒られるかなぁ・・・などと思いながら誘ってみたのだが、真面目一辺倒かと思っていた彼は、思いがけずニッと悪戯小僧のような笑みを浮べた。
「いいっスね!あ、店はあんまり高級なとこじゃなくよろしくです」
「その辺は大丈夫。俺、いつも飲むの大衆居酒屋だもん。・・・『なごみ』とか、どう?」
「最高です。あそこの串焼き、絶品ですよね!」
あくまでも小声でこそこそとだが、今夜の宴会の打ち合わせをして、小さく笑う。
『じゃ、お祝いの言葉は、その時に―――』
そう約束の言葉を残し、イルカはカカシから離れ、元の位置に戻って歩き出す。
それを横目でチラリと見送ってから、カカシもまた前を向いて歩いていく。
キリリとした顔で前を見つめるカカシ。だが、マスクで隠れた口元は、緩んでいた。
『なんか、意外に楽しい誕生日になるかも・・・』
先ほどまでの憂鬱な気分は一転し、今夜の酒宴を思いニヤつくカカシだった―――