・ となりのはたけさん ・ 

――二月は甘いチョコレート――

 


「この時期って、チョコ買いにくいですよねぇ」

木の葉スーパーで―――特設のバレンタインチョコ売り場を遠巻きに眺めながら、イルカは隣にいるカカシにそう話しかけた。
隣人のカカシとスーパーでバッタリ会ったのは、つい五分ほど前。
ちょくちょく誘い合って一緒に食事する仲の二人は、折角会ったんだから今日も一緒に食べようかということになり、食材を選びながら並んで店内を歩いていた。

「ああ・・・バレンタインですか。イルカ先生、チョコ好きなんですか?」
「いや、特別チョコ好きって訳じゃないんですけどね・・・結構食べますよ?夜勤とか、突然の残業の時の非常食用によく買ってますし」
「そうなんですか。う〜ん・・・俺的には、イルカ先生はチョコより饅頭とか大福のイメージだったんですけど」
「・・・それは遠まきに『垢抜けない』とか、言ってます?」

剣呑な視線でチロリと睨む。

「違いまーすよ。素朴な温もりを感じるって意味です」
「その割には笑ってるじゃないですかー!」
「ハハ・・・機嫌直してくださいよ。お詫びに後輩からもらった土産の芋焼酎を今夜出しますから?」
「芋焼酎!・・・ゴホン。ま、いいでしょう。許してあげます」

酒に免じて許すことにすると、カカシは大げさにホッとして見せて・・・二人して、顔を見合わせて笑った。
ひとしきり笑ってから、イルカは気を取り直すように魚売り場を指差す。

「まぁ、今日はチョコより魚でも買って帰りましょ?何食いたいですか?」
「そうですねぇ、また鍋食べたいなぁ」
「鍋はこの間やったばかりじゃないですか?」
「んじゃ、今度は海鮮寄せ鍋じゃなくて、豚キムチ鍋とかはどうです?」
「豚キムチ!!いいですね、んじゃ肉売り場行きましょ!」

豚キムチはイルカも大好物だ。
うきうきとチョコ売り場を離れて、二人は肉売り場へと足を進めた―――。



******



スーパーの袋を提げて、二人並んでゆっくりと家路につく。
商店街の洋菓子屋の前に差し掛かったとき、カカシがイルカに尋ねた。

「バレンタインって、確か明日ですよね?もらう予定は?」
「まぁ、子供や同僚からは義理で少しくらいもらえるかもしれませんが・・・カカシさんじゃあるまいし、期待するだけ空しいですよ」

結果なんて、見るまでもなく分かってますから。
ガックリと肩を落として言うと、カカシがクスリと小さく笑う気配がした。
再び剣呑な表情で、彼に振り返る。

「また、笑いましたね・・・?」
「ご、ごめんなさい。・・・でも、バカにしたわけじゃありませんよ?イルカ先生が、なんだか可愛いから・・・」
「はぁ?俺みたいなムサイ男に使う単語じゃないですよ、それ」
「そうでもないですよ?アナタ、かなり可愛いです」
「・・・さすがカカシさん、常人と感性が違いますね」
「それ、変わり者って言ってます?」
「そんなこと・・・言ってますけど」

さっきの仕返しとばかりに、ニヤリと笑って見せる。
そんなイルカに、カカシは大きな溜息をついた。

「イルカ先生・・・少しは歯に衣着せましょうよ?」
「これが俺の生き様です」
「相変わらず男前ですねぇ・・・ところで、イルカ先生はもらうんだったらどんなのが欲しいですか?」
「そうですねぇ・・・普通のチョコも好きだけど、俺、やっぱりチョコケーキが好きなんですよねぇ。ほら、ああいうの・・・美味そうでしょう?」

イルカはそう言って洋菓子店のガラスに貼ってあるポスターのザッハトルテを指差した。

「本当だ、美味しそうですね」
「あ、でもあれは限定品みたいですね。明日発売で先着20名様ですって」
「へぇ、じゃあ並ばなきゃならないんですね?」
「いかにも本命仕様のあれは、とてももらえそうもありませんねぇ・・・」
「じゃ、自分で並びます?」
「冗談じゃありません。流石にバレンタイン当日に女の子に混じって並ぶ勇気はありませんよ!」

ある意味高ランク任務より難易度高いです。
そう言って肩を竦めて苦笑いをうかべると、『ちがいない』とカカシも笑った。

「それに、俺はチョコより饅頭と大福の似合う男ですからね?そこまでしてチョコケーキを手に入れようとは思いませんよ」
「・・・さっきの、意外に根に持ってたんですね?」
「・・・持ってませんよ」

つーんと、わざとそっぽを向いて見せると、カカシは機嫌を取るように顔を覗き込んでくる。

「機嫌直してくださーいよ。夕飯、刺身もつけますから?」
「そうやってすぐに食べ物で釣る!」
「食べないですか?」
「・・・いただきます」

またクスリと笑うカカシに、「仕方ないじゃないですか、腹減ってんですよ!」と返すと、彼は「俺もです。早く帰りましょ?」と言って、また笑った―――



******



そんなやり取りがあった次の日の―――バレンタインデー当日。
イルカは、自己予想に違わず、子供と同僚に義理チョコをもらっての帰宅となった。

「いいんだ・・・義理でももらえたし」

そう自分を慰めながら家の中に入ったイルカは、居間に入るやいなや、ぎょっとして目を見開いた。
ちゃぶ台の上に、リボンが掛かった赤い箱。
自分で置いた覚えはないので、誰かからの贈り物と思われるが・・・。

「家の中にって・・・・・・不法侵入?」

念願の本命チョコっぽい包みではあるが、不審なのも確かなので、おそるおそる箱に近づく。
一見、なんのトラップも術式もかかってなさそうだ・・・。
だが油断は出来ないと、緊張しながら箱をあけて―――イルカはしばし固まった後、プッと噴出した。

中に入っていたのは、昨日見たザッハトルテ。
そして、ケーキの上にはホワイトチョコペンでメッセージが書いてあった。


書いてあったのは―――案山子の絵とその横に『より、愛をこめて』


・・・多分自分でわざわざ書いたのだろう。
慣れないチョコペンに悪戦苦闘したようで、子供の落書きみたいな文字が笑える。

「あの人、もしや自分で並んだのか・・・?」

いや、女性の知り合いも多そうだし、誰かに頼んだのかもしれないけれど・・・。
でも、なんとなくあの人の事だから、女の子に奇異の目で見られながらもどこ吹く風でイチャパラ片手に並んだのではないかという気がした。
―――女の子の列に一人混じっているカカシの姿を思い浮かべて、イルカはくっくっと肩を震わせて笑う。

ひとしきり笑ってからふとテーブルを見ると、ケーキの他にもう一つ紙袋があるのに気がついた。
紙袋にマジックで『こちらもあげます。お好きな方を食べてくださいね』の文字。
不思議に思いながら袋を開けると、袋の中にはぎっちりと薄皮饅頭と豆大福が入っていた。
唖然として・・・しばらくして、今度は声を上げて笑った。

『本当にあの人、変わり者だ』

人を驚かせたいというだけで、こんなに饅頭買って。
あまつさえ、女の子に混じって限定チョコケーキを買ってきた(かも)なんて。
変わり者で、寂しがり屋で、悪戯好きで・・・。

でも、あの人といると―――なんだか、あったかい。

そう思いながら、イルカは微笑んだ。



******



お茶とコーヒーを入れて、チョコケーキと和菓子の両方を食べる。

「うまい・・・」

限定品というだけあって、ザッハトルテは濃厚で、すごく美味しかった。
そして、饅頭と大福も老舗のもので、流石の美味さ。
―――それぞれを堪能しながら、窓の外を見る。

『カカシさんは、確か今日の午後からしばらく任務だったよな・・・いつ帰ってくるだろ?』

返ってきたら、チョコと饅頭と大福のお礼を言わないと。
・・・そして、不法侵入についてもキッチリ注意しないとな!
―――そう思いつつ、クスクスと笑った。


「カカシさん、早く帰って来ないかなぁ・・・」


遠くの空の下を駆けているだろう彼の人を思いながら、そう呟くイルカだった―――




2月なら本当は恵方巻きの方を書きたかったんですが、時間がなくてスルーしてしまったので、バレンタイン話を書いてみました。
けど、やっぱり14日には間に合いませんでした・・・ダメダメです;;
私的には、イルカ先生はチョコレートより饅頭や大福とか、和菓子系が好きなイメージがあります(笑)


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