「お久しぶりです、土井先生」
爽やかに微笑む利吉に、半助も笑顔で返す。
「やあ利吉君。相変わらず忙しそうだね?さすが売れっ子忍者」
「私は基本的に頼まれた仕事は断りませんからね。小さい仕事が多いだけですよ」
「謙遜するなよ?ところで話は変わるけど・・・・・」
「なんですか?」
「君・・・・・今、好きな人いるのかな?」
突然切り出した半助を利吉はじっと見つめて―――しばしの間の後、口を開いた。
「・・・・・小松田君に、何か頼まれましたか?」
「!?いや・・・頼まれてはいないんだけど・・・・・君、気づいてたのか」
「ここを訪れる度にあれだけ熱い視線を向けられていればね・・・私でなくとも気がつきますよ」
「そうか・・・・・なら、手ぐらい振ってやればいいのに?」
「アイドル歌手じゃないんですから・・・」
勘弁してくださいと苦笑する利吉に、半助は可笑しそうに笑って見せた。
「はは・・・・ところで、どうするの?」
「なにがです?」
「なにがって・・・小松田君のことだよ」
「どうもしませんよ」
「・・・・・気づかない振りをしておくのかい?」
さらりと答える利吉に、半助は苦笑して見せる。
やはり、小松田君の言った通り無理なのだろうか・・・と、思いつつ再び問い掛けた。
「クールだねぇ。ああ言うタイプは嫌いかな?」
確かにあのドジさ加減と天然ぶりは困りものだけど・・・いいところもあるんだよ?
あれだけ失敗を繰り返していても、どこか憎めないと言うか・・・・・
―――そう秀作を弁護する半助に、利吉は笑って見せた。
「知ってますよ・・・・・でも、今の彼の私への気持ちは、忍たま達が私に向けるものと同じものです」
”恋”というよりは”憧れ”ですよ。
そう苦笑する利吉に、半助はなるほどと頭を掻いた。
「そうかもしれないね・・・・・・・・・ごめん、少しお節介だったね。小松田君がいじらしくて、つい・・・ね?」
「いえ、貴方のその面倒見の良さ、好きですよ。―――だから、私も貴方のことをつい兄のように感じてしまって、色々相談事も持ちこんでしまうんですから」
「はは、そう言ってもらえると気が楽になるね・・・そうだな、また今度酒でも飲みながら話をしよう?」
「はい、是非。では土井先生、私はこれで――――」
「ああもう行くのかい?本当に相変わらず忙しいね・・・だが、いくら若いからと言って頑張りすぎるなよ?たまにはゆっくり休みでも・・・・・」
そこまで言って半助は、はた、と気がついた。
そういえば――――?
「あれ?そういえば・・・・・このごろ君、やたら学園に顔を出していないかい?」
前は、本当に『たまに』顔を出す程度だったのだ。
それなのに、このごろ前にもまして忙しいのにも関わらず、マメに足を運んでいるような?
首を傾げる半助を眺めて――――利吉はにっこりと・・・だが、意味ありげに微笑んだ。
「あんまり間を開けすぎると、膨らみかけた気持ちがしぼんでしまうかもしれないでしょう?」
半助は一瞬呆けたような顔で、その言葉の意味を考えて。
そして、あっけに取られたように口を開けた。
「!!・・・・・まさか、君も彼を!?」
それなら、何故彼の気持ちに答えてやらないんだ?
そう疑問をぶつける半助に、利吉は肩をすくめた。
「言ったじゃないですか?・・・まだ『憧れ』なんですよ」
彼がもっと本気になってから・・・・・ね?―――その時は、手厚く迎え撃ちますよ。
科白とは裏腹に、あくまでも顔は爽やかに笑う利吉に、半助は頬を引きつらせた。
「君・・・・・・・・いつからそんな風にひねくれたんだい?」
昔はもっと素直だったのに?
そうため息をつく半助に、利吉はしれっと答える。
「”素直”なままじゃ、フリーの忍者は勤まりませんよ?」
―――では。
そう言い残して背を向け去っていく利吉に、半助は腕を組んで『むう』と唸り。
そして、小さくなっていく彼の背中に、もう一つ声をかけた。
「・・・・・そんなに余裕こいて、別の奴に持ってかれても知らないぞー!」
すっかり可愛げのなくなってしまった弟分に、嫌味半分からかい半分でそう叫ぶ。
だが、振向いた利吉は、相変わらず表面上だけ爽やかに笑って見せた。
「・・・そうならないよう見張っててください。頼りにしてますよ―――兄さん?」
利吉は手を上げて軽く振ると、今度こそ去っていった。
「・・・ったく、本当に忍者向きだよ、君は。使えるものはなんでも使う辺り特にね?」
半助は一つ大きくため息をつく。
だが・・・・・すぐに苦笑交じりだが微笑んで、歩き出す。
「ま、いいか。元々手を貸すつもりで口を出したんだしな?」
―――だが、あの様子じゃ・・・二人並んで歩くのを見るのは、そう遠くなさそうだ。
そう思いながら、倉庫ヘ向う半助だった―――――