「あ、利吉さんだ・・・」
秀作は遠くで子供達と話をしている青年を見つめた。
彼の名は山田利吉。
学園教師山田伝蔵の息子でフリーの忍者である。
『やっぱり、かっこいいなぁ』
一流の忍者として子供達にも憧れられている彼。
失敗するたび子供達に慰められている自分とは大違いだ。
私もあんな風になれたら――――
・・・秀作が心の中でそう呟きながらなおも利吉を見つめていると、不意に後から声を掛けられた。
「そんなに見つめると、利吉君に穴が開くよ?」
「!?」
秀作が驚きにビクリと飛びはね、後を振り向くと・・・そこには学園教師の土井半助が立っていた。
「ど、土井先生!?・・・いつからいらしたんですかっ」
「少し前からいたんだけどね?声もかけたんだが・・・君、全然気がつかないんだものな?」
苦笑しつつそう言う半助に、秀作は慌てて頭を下げた。
「す、すみませんっ・・・あの、何かご用でしたか?」
「倉庫のカギ、君持っていないかな?使いたいんだ」
「あっ、持ってます!カギ棚に戻す途中だったんです、すみませんっ」
慌てて取りだし、差し出して寄越したそれを受け取ってから・・・半助はじっと彼を見つめ。
そして唐突に、言った。
「・・・告白しないのかい?」
「え?」
「利吉君のこと、好きなんだろ?」
ポカンとしばし半助を見上げてから、『えええ〜〜〜〜っ!?』と秀作は大声をあげた。
そして、慌てて自分で自分の口を塞いで、視線を利吉がいた辺りに走らせると・・・
彼はすでに立ち去った後のようで、姿が見えなかった。
それにホッとしつつ・・・今度は急激に赤くなってきた頬を両手で押えながら、半助を恐る恐る見上げた。
「な・・・・・何で知ってるんですか?」
「まぁ・・・見てれば、だいたい?」
「そ・・・・・そうなんですか?」
誤魔化す術も知らないのであろう。
真っ赤になりながらも、素直に肯定する秀作に・・・微笑ましいなぁとクスリと笑う。
少し後押ししてやりたくなって、更に言葉を続けた。
「彼、今付き合ってる人いないみたいだけど?」
「えっ」
「私を兄貴のように思ってくれてるみたいでね、たまにそんな話もするんだよ」
そう笑う半助に、なるほどと納得してから・・・秀作は首を横に振って見せた。
「そうだったんですか・・・・・でも、告白なんてできませんよぉ・・・」
「どうして?」
「私じゃ釣り合いませんもん・・・断られて、もうまともに話もできなくなっちゃうの、目に見えてますから」
「そんなこと・・・・・」
半助が眉を寄せ、そう言った辺りに学園の鐘が一つ鳴った。
それを聞いて、秀作はハッと顔を上げ、慌て出す。
「あっ、吉野先生に呼ばれていたんだった!土井先生、すみませんっ!私、これでっ」
ぺこりと頭を下げて慌てて走っていく姿を見送る。
彼の姿が見えなくなってから、半助は呟いた。
「そんな事ないと思うんだけどなぁ・・・」
「なにがです?」
「―――いや、こっちの話だよ。・・・利吉君?」
そう言って半助は後を振向く。
そこにいたのは、今しがた話題にしていた人物――――利吉だった。