「何故だ・・・」
利吉は呆然と呟いた。
じっと己の手を見つめる。
その手は、それはそれは・・・・・・もみじのように、可愛い手だった。
・ その日、見上げた君 ・ ――1――
利吉はその日忍術学園へ向っていた。
理由はいつもと同じ、母からの愛のこもった届け物を父に届ける為。
この頃仕事漬けで・・・しばらく父の所に顔を出していなかったから、顔を出せば何か一言言われるだろう。
説教されるのがわかっていて訪問するのは気が重い。
その上、金属音のする荷物(多分、大量のカミソリ入り)までもが異様に重く、余計に気分が沈む。
―――そんなこんなで、利吉はとても滅入った気分で森の中を走っていた。
たぶん、それが悪かったのだ。
利吉は、いつもはありえないミスをした。
森の中の大木の下に大きな穴があって、利吉は大荷物を持ったまま、それを飛び越えた――――までは、良かったのだが。
思いのほか大きかった荷物が、木の枝に引っかかってしまったのだ。
穴の向うに片足を掛けた利吉だったが、引っかかった荷物に引っ張られて体が後に傾く。
それでも何とかバランスをとろうとしたのだが。
今度は荷物が枝から外れ、穴の中に荷物が落ちていき―――
そして、利吉は大きな荷物ごと、穴の中に落ちていった。
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「いてて・・・・・」
利吉は、程なく頭を擦りながら上体を起こした。
『しくじった』
上を見上げると、まあるく切り取られた青い空。・・・思いのほか、深かったようだ。
だが、忍である利吉には地上まで登るのもたいしたことではない。
カギ縄を使うまでもなく、脚力だけで何とかなりそうだ・・・・・・。
そう思いながら立ち上がり、試しに一度飛び上がってみて。
―――もう一度穴の中に着地した利吉は、首をかしげた。
何やら、体がおかしい。
跳躍力がいつもの半分もないし。
その他にも、何か体中に違和感を感じて・・・利吉は、己の体を見下ろした。
・・・そして、愕然とする。
手は、もみじのようで。
腕や足は細く華奢で・・・・。
「うそ、だろう・・・・・・?」
利吉の体は、小さく縮んでいた―――――