・ 花微笑 ・ ――1――

 



ここは、忍術学園学園長の庵。
学園長・大川平次渦正は、古い知人を迎え入れていた。


「して・・・お話とは何ですかな?貴殿がわざわざ出向かれるとは、何か大事が起こったのですか?」
「大川殿に少々頼みたいことがありましてな。顔見知りの私が来た方が話が早いかと思い、老体にむち打って来た次第なのじゃが・・・」

あみ茸城・家老、日下五郎平はそう言うと一呼吸空け『それに、城の中でも内々な話なのでの』と付け加えた。



日下とは、現役忍者の時からの知り合いである。
天才と名が上がる前から自分をひいきにしてくれ、色々と世話になったものだ。
しかし、自分が現役を退いてからは、会うこともなくなっていた。
それなのに、突然のこの来訪。
あみ茸が戦をするとの噂も聞かないし、何か面倒な事件でも起きたのか・・・
大川は訝しく思いつつ、話の先を促した。

「はて、頼みとはどのような・・・?」
「実は、人を一人捜して欲しいのだが」
「人捜し・・・とは。それならばわざわざ学園に頼まずとも、御家来に命じて捜させれば見つかりましょうに?」

そう問うと、日下は茶を一口すすり学園長を見据えた。

「捜し人は、忍なのじゃ」
「忍?」
「そうなのじゃ、実は・・・・・」

日下の語った事の詳細。それは―――
あみ茸の姫君がお忍びで出掛けたおり、供の者とはぐれ道に迷ってしまった上にやくざ者に絡まれてしまった。
捕まりそうになったその時、通りがかりの若者が姫を助け供の者と引き合わせてくれたという。

「その者が姫を助ける際手裏剣を使ったというので、忍とふんだのじゃが・・・。
忍とは元々素性は明かさぬもの、どう捜そうかと思案にくれたとき貴殿を思いだした次第なのじゃ。 ・・・その若者、捜してはくれまいか?」

なるほど 、それで忍術学園をおとずれたわけか・・・それにしても腑に落ちない。


「なぜ、その者を捜すのです?名を名乗らぬなら褒美目当てとも思えぬし、放っておかれてもよろしいでしょうに」


学園長の言葉に、日下は真っ白になった眉毛をひそめながら、少し小声で言った。

「実は、姫がその者に懸想しておられてな・・・」
「それは・・!」
「助けられた感謝の気持ちを取り違えられているだけとお諫め申し上げたのだが、全く聞いて下さらない。運命の人と、思いこんでしまわれたらしい」

そう言うと、日下は深い深い・・・ため息をひとつついた。
日下の気苦労を思い深く同情しながらも、それなら・・・と大川は進言する。

「そう言うことなら、なおさら会わせぬ方がよいのでは?」

姫君と忍では身分が違う。
その男が姫の事をどう思ったかは解らないが、忘れるまでそっとしておいたほうがお互いのためというものだ。

「そう、悠長なことも言っておれぬのだ」
「何故です?」
「・・・姫は恋煩いのため、寝込まれてなぁ・・・・・」
「なんと!」

寝込んでしまうとは、相当な惚れ込みようだ。
お姫様らしいと言えばそうかもしれないが、かなり思いこみが激しい性格かもしれない。

「その上、姫に縁談が持ち上がっておるのだ。良い話なのでなんとかまとめたいのだが、姫がこの調子ではな。相手方にこんな話が漏れでもしたら、断られるじゃろう・・・」

なんとかなるまいか?
そこまで言うと日下は頭を垂れ、さっきよりももっと深いため息をついた。
恩人の窮地に・・・大川は一度目を瞑り思案した後、彼を見つめ大きく頷いて見せた。



「話は分かりました。他ならぬあなたの頼み、ご協力致しましょう」






ひなみの初・忍玉小説です。

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