・ 花微笑 ・ ――2――

 



程なく呼ばれ参上した忍術学園教師、山田伝蔵・土井半助に、学園長は今までの経緯を説明した。


「わしでは現役忍者の顔はわからぬし、そなた達なら心当たりがあるかもしれぬと思い、呼んだのじゃ」
「なるほど。日下様、その若い忍者の特徴は?」

また、学園長は厄介ごとを持ち込んで・・・と、内心ため息をつきながら、伝蔵は日下に問いかけた。

「うむ、姫の話によると・・・ 年の頃は20前、18.9と言ったところか。細身で長身、涼やかな顔立ちの美青年らしい。武器を持っていた3人の男を、あっという間に倒したと言うから、 かなりの手練れだろう。鋭い目元が印象的だったと、姫は仰っていた。」

『細身で長身、年の頃が18.9の、目元が鋭い美青年?』
日下の話を聞いていた3人の頭に―――ある、同じ思いが浮かぶ。


・・・どこかで、見たことがあるような・・・?


「それから、檜皮色といおうか砺茶色と言おうか・・・・とにかく美しい茶の髪をしていたと」
「「「!」」」

続く日下の言葉に――――
学園長と半助は顔を見合わせ、伝蔵はこめかみのあたりを押さえた。



******



「その青年なら、心当たりがあります」
「本当か!?」


学園長の言葉に、日下は身を乗り出した。
学園長は頷き、ゆっくりと山田の方に視線を送る。

「こちらの山田先生に、利吉と言う名の一人息子がおりましてな。貴方の仰る青年に特徴がよく似ておりますのじゃ。・・・もちろん、忍者をしておって、優秀な男です」
「なんと!こちらのご子息とな?」

日下は驚きの表情で、自分の横に控える伝蔵を見た。

「しかし、困りましたな」

学園長は腕を組み、思案顔で伝蔵の方を見る。

「山田先生、利吉は今、どこにおるか解るか?」
「いえ、あやつはフリーの忍者。私にも詳しい行き先は言わんのです。 ・・・ただ、今度の仕事はそろそろ終わる頃だと思うのですが。 終わったら寄ると言っておりましたので、ここ数日のうちには会えるかと。
・・・・・・・・・・・・しかし、まだ利吉と決まったわけでは・・・」
「ともかく、利吉に聞いてみればはっきりするじゃろう」

渋い顔で答える伝蔵の言葉を遮って、学園長は言った。
その時――――障子の向こうに気配がし、少し間の抜けた声が聞こえてくる。

「あの〜、学園長先生。お茶のおかわりをお持ちいたしましたぁ」
「小松田君か?入りなさい」
「失礼しまーす」

事務員の小松田秀作は、部屋に入ると新しい茶を配る。
学園長はその入れたての熱い茶を一口すすると、独り言のようにつぶやいた。

「なるべく早く利吉が来てくれるといいのじゃが・・・」
「利吉さんなら、いらしてますよ」
「なに!?」

そこにいる全員に、一斉に振り向かれて、秀作はキョトンと、目を丸くした。

「小松田君、利吉君が学園にきてるのかい?!」
「はい、先ほどから山田先生をお待ちですよ」

半助の言葉に、秀作はこくんと頷く。
秀作を除いた全員が顔を見合わせ、そして学園長が皆に深く頷く。
そして。



「小松田君、早く利吉をここに連れてくるのじゃ〜!」



学園長の大声に驚いた秀作は、「はいっ」と返事をすると、あたふたと駆け出したのだった。






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