「それでですね、その時の乱太郎君達と言ったら・・・・・・利吉さん?」
伏せられた瞼を覗き込むように顔を近づけてみると、スース―と静かな寝息が聞こえる。
『寝ちゃったみたい・・・・・良かった』
心の中でそう呟きながら、額にかかった前髪をそっとよけてあげる。
いつも凛々しく隙の無い彼も、こうして眠っていると年相応に見えて、少し笑ってしまう。
『なんか不思議な感じがするなぁ・・・・・』
いつもは見上げている利吉の顔を、こんな風に見下ろしているなんて?
自分の膝の上にある利吉の顔を覗き込んで、秀作はクスリと小さく笑う。
しかも、あの利吉がこんなに無防備に体を預けて眠ってくれているのだ。
そう思うと、すごく嬉しい。
―――でも、同時にちょっと心臓に悪い。
だってこんな風に触れていると
瞳が伏せられた端整な顔をこんな近くで見つめていると
膝に感じる彼の体温を自覚してしまうと
――――心臓がドキドキと、いつもより早い鼓動になるのが分かるから――――
ああ、なんか顔まで熱くなってきた。
片手でパタパタと顔を扇ぎながら、チラリとまた利吉に目をやる。
利吉は幸せそうな顔で、気持ちよさげに眠っている。
今まで、特に自分の声が好きだとか・・・思ってたこともなかったけれど。
利吉に『好き』といってもらった途端、宝物みたいに思えてくるから不思議だ。
思わず父母への感謝の念まで沸いてくる、ゲンキンな自分に苦笑する。
自分の気持ちを伝える勇気は中々出ないけれど・・・
『声』だけだろうが、利吉が自分を好いてくれているのに―――たまらなく、幸せを感じてしまう。
『僕がこんな風に思っているなんて、想像もしないだろうなぁ・・・』
あなたは知らないでしょう?
あなたが僕に声を掛けてくれるたびに心臓が飛び跳ねて
あなたの行動一つ一つに、あらぬ期待をかけてしまうことを。
あなたがこのお願いを切り出したときに
『もしや、あなたも僕の事をアイシテル?』
そう頭を掠めた思いを、必死に否定して、いつも通りに笑ったことを。
さっきの他愛ない約束の時―――
あなたに触れられた頬に、痺れるような感覚がはしり
柔らかく微笑んだその顔に、思わず言葉を失ってしまったことを。
あなたは知らない―――――
でも・・・・・それでも、いいや。
こうして、あなたは僕の膝で眠ってくれる。
―――それだけで、僕の心は満たされる。
あなたは僕の声が『癒』だと言ったけれど
僕にとっても、あなたは『癒』
もちろん、ドキドキして癒しどころじゃない時もあるけど
こうして一緒にいると、幸せな気分でいっぱいになれるから。
声だけじゃなく、全部好き。
――――だから、『あなたの存在』が僕の『癒』――――