「じゃ、いってみっかな・・・・・・」

「兄さん・・・・・!!」
「そんな顔すんなって。大丈夫だよ?」
「だって・・・・こんな・・・・・・」
「錬金術師の基本は等価交換だ。男としても、約束を反故にするわけにいかねーよ」

あの男との、約束。
それを果たしに、これからセントラルに向かう・・・・・・
破って逃げる事も出来ないわけではないけれど、そんなのはオレじゃない。
それに、あの男はそれだけの事を、してくれたのだ・・・・・
借りを、返さないわけにはいかない。
だが、辛そうな、今にも泣き出しそうな弟の顔を見るのは、やはり辛い。
なるべく、なんてことないように、微笑んで見せた。

「オレが勝手にした約束だ。お前がそんな顔することないよ」
「だって、兄さんだけにそんな思いはさせられない・・・・・僕も!!」
「駄目だ!!」
「兄さん!!!」
「オレが何の為にこんな約束までしたと思ってるんだ?!無駄にさせるつもりか?」
「・・・・・・・っ」
「お前には、幸せになって欲しい。オレのためを思うなら・・・お願いだ」
「兄さん・・・・・・でも、でもやっぱり僕もセントラルに行くよ!」

これだけは譲らない!!
そんな必死なアルの態度に、エドはとうとう折れた。

「いいか、一緒に行くだけだぞ?お前までオレに付き合うとかは、絶対無しだ」
「・・・・・分かったよ、兄さん」

そして、兄弟2人はセントラルに向かって旅立っていった。



『約束』・・・・・・1



「あら、エドワード君久しぶりね」
「元気だった、ホークアイ・・・大尉?」
「ええ、元気よ。皆もね。・・・・・准将に御用かしら?」
「うん。・・・・・でも、皆にも話があるんだ」
「皆?」
「うん、東方時代からの皆にもさ、報告があるんだ」
「・・・・・エド君、その子は?」

エドワードの後ろには、エドよりは少し茶色がかった金髪金目の少年が控えめに立っている。

「それも、皆の前で話すよ・・・・・ここでは、ちょっと」

ここは、マスタング准将の側近の執務室だが、セントラルに来てからの部下も何人かいる。
リザは、何かを察したように息を詰めて、そして微笑んだ。

「分かったわ。准将の執務室で話しましょう」

リザはハボック・ブレダ・ファルマン・ヒュリーを呼ぶ。
そして、全員でロイの執務室に向かった。



******



「ん?皆どうした・・・・?・・・鋼の!」

部下達が揃って入室してきたのに、面食らったような顔をしたロイだったが、
その後に、よく見知った金髪を認めて、笑顔を見せた。

「半年ぶりか・・・・・?今回は長かったな、鋼の。・・・ところで、お前達はどうした?」
「エドワード君が、私達皆に話があるというので、連れてきました」
「話?・・・・・・!!」

ロイはハッとしたように、エドの右手と、エドの後にいる少年を見つめた。
立ち上がりエドの側に行くと、彼の右手を取る。
自分の前に立ち、手を握って目を細める男を、エドは見上げた。

「・・・久しぶりだな、准将」
「ああ。・・・・・おめでとうと、言っていいのかな?」
「・・・・・ああ」

突然呼ばれてきた男性側近4人組は、訝しそうに2人を見つめた。

「「「「おめでとう・・・・・?」」」」
首を傾げる4人を尻目に、ロイはエドの後の少年を見る。

「その姿で会うのは初めてだな、アルフォンス君?・・・おめでとう」
「・・・ありがとうございます、准将」

「アル?!」

ハボックが驚いたような声を上げ、他の者も目を丸くして、アルを見つめる。
一斉に注目され、アルは照れくさそうに顔を赤らめ、頭を掻いた。

「本当に、アルか・・・・?」

ブレダの問いかけに、アルはニッコリと笑いながら、頷いた。
そして、一斉に歓声が沸く。

「元に戻れたんだな〜!!」
「おめでとう、エド君、アル君!!」
「とうとう、やったんだな!」
「よかったな、エド、アル!!」

側近達が2人をもみくちゃにする中、リザも2人の前に立った。

「2人とも、本当におめでとう。よかったわね」
「ありがとう大尉」
「ありがとうございます!」

女性らしい柔らかな笑みで労ってくれるリザに、2人は胸を熱くした。
もちろん、未だもみくちゃにしてくれている、男達にも。
本当に、この人たちは自分達を心配してくれていたのだと、幸せな気分になる。

ひとしきり喜び合った後、みな2人を囲むようにソファーに腰を降ろした。
リザの入れてくれた紅茶を片手に、話に華を咲かす。

どうやって戻ったのか、いつ戻ったのかなどの質問攻めに、2人は始終笑顔で受け答えた。
そんな中、ロイは自分は質問することなく、ただ話を聞きながら、目を細めてエドを見つめていた。

「ところで、これから2人はどうするんだ?」

ハボックの問いに、アルが答える。

「とりあえずリゼンブールに帰って、バッちゃんやウィンリィに報告しようとは思ってます。
その後は・・・・・・・・・」

そこまで言って、口ごもる。
チラリとロイの顔を窺った後、沈み込むアルを、皆不思議そうに眺めた。
エドは、そんなアルを見てから、ぐっと唇を引き結んだ。
そして、向かいのソファーに座る男を見つめた。

「准将、ちょっと話があるんだけど。・・・わりぃ、皆。2人にしてくれるか?」
「エド?」

突然真剣な表情になった2人に、側近達は顔を曇らせる。
だが、腰をあげ・・・全員退室しようとドアに向かった。
兄に促され、側近達の後ろについて数歩歩いたアルだったが・・・・・
すぐに立ち止まり、拳を握りしめた。
そして、踵を返してロイの側に走り寄る。

「アルフォンス君?」

訝しげに見あげてくるロイに、アルは詰め寄った。

「准将!!兄さんとの約束、僕が代わりになる事は出来ませんか?!」
「!?」
「アル!!口を出すなって、言っただろ?!」
「だって、やっぱり僕だけが幸せになるなんて出来ないよ!!」

ずっと兄さんと一緒だったんだ、罪も苦労も、2人の責任なのに・・・
何故、兄さんだけが罰を受けなければならない?!
そんなことは耐えられない!
そう言うと、アルは涙を流した。

「お願いです、准将!!僕、練成陣無しの練成も出来るようになったし、格闘は兄さんより強い!
知識だって、ずっと兄さんと一緒に勉強してきたんだ、同じくらいあるはずでず!!
きっと、兄さんと同じくらい役にたってみせますから!!」

だから、僕が代わりに約束を果たします!!
お願いですから、兄さんを自由にしてあげて!!

悲痛なアルの叫びに、一同騒然となる。
ハボックも、咥えていたタバコをもみ消して、アルに問い掛けた

「な、なんのこといってるんだ?アル?約束って・・・・・?」
「・・・・・兄さんと准将が交わした約束です」
「アル!!やめろ!」

一年程前、ロイとエド、2人だけで交わされた約束。
アルでさえ、つい数日前に聞かされたばかりだったのだ。

「あのころ、ちょっと僕達行き詰まっていて・・・でも、兄さんが准将に相談してから、
准将はかなりの情報、しかも、希少な物を提供してくださるようになりました」

その時は、素直に「なんていい人なのだろう」と、感激したのに・・・

「その情報のお陰でこうして元に戻ることが出来たんですが・・・僕は、知らなかったんです。
それが約束の代価だなんて・・・・!」

もし、知っていたら、元に戻れなくても構わなかった!!
アルは、唇を噛んだ。

「どんな約束だったの・・・・・?」
「・・・・・・・・」

エドの顔を見つめて問うリザに、エドは視線を逸らせて答えなかった。
代わりに、またアルが答える。

「兄さんがした約束は―――
希少な情報をもらう代わりに・・・元の体を取り戻したら、残りの人生を准将に差し出す事です・・・」

シンと静まり返った、室内。
先に口火を切ったのは、リザだった―――

「准将、どういうことですか・・・・・?」


『約束・1』終わり・・・2に続く



とりあえず、シリアス風にはじまりましたが・・・多分シリアスではないです(笑)
いや、シリアスなのか??(どうやら、行き当たりばったりなようです・・・・・)
ロイがエドにした要求は・・・・・・?
待て、次回!!(笑)
皆の階級、一個づつ上げてみました。だって、ロイ専用の執務室がほしかったんだもん・・・



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