「どういうことですか?」
冷気を含んだような副官の声色に、ロイは少々怯んだようにたじろいだ。
周りを見回すと――――
アルフォンスは必死の形相で睨みつけているし、他の部下達も戸惑いながらも視線は冷たい。
そんな中、エドだけが困ったような顔で回りの様子を窺っている。
一通り皆の様子を確認して、ロイは深い深いため息を一つついた。
『約束』・・・・・・2
「質問に答える前に――――アルフォンスくん、君は大きな誤解をしているよ」
「誤解・・・・・・ですか?」
「君が誤解しているということは、当然、鋼のも誤解しているということなんだろうな・・・」
そう言うと、ロイは疲れたような顔で肩を落とす。
その落ち込んだような様子に、アルは怒気の滲んだ視線を和らげた。
「あの・・・・・・?」
「私が鋼のに言った事は、君が考えているような要求ではないよ」
いや、要求でもないし・・・・無論、命令でもない。
どちらかと言うと、懇願だった―――――。
ロイは、チラリとエドを窺いながら、そう言った。
エドは、目を見開いてロイを見つめるも、よく事情が飲み込めていないようだ。
「察するに―――目的を果たした後も、私が鋼のを『手駒』として手放したくないと思っている。
君は・・・・・・・・そう勘違いしているんだろう?
そのために様々な資料の与え、その等価交換として、彼を縛り付けるような約束をしたと?」
「ええ・・・・・まぁ、そうです」
「確かに、約束はしたよ・・・・・・彼が目的を果たした後の事を・・・・・・」
だが、それは彼を手駒などにするためではない。
むしろ、軍からは離れて欲しいと思っている・・・・・。
「・・・・・・・・じゃあさ、何であんなこと言ったんだよ・・・・・」
ずっと黙って聞いていたエドが、膝の上に置いた自分の手をぎゅっと握りしめた。
そして、ゆっくりとロイの顔を見つめる。
「鋼の・・・・・」
「オレ、ずっとそう思ってて・・・・・・凄く、覚悟してここにきたんだぜ?」
「・・・・・・ずっと、君の心の重荷になっていたんだな。すまない・・・・・・・。
だが、私の言った科白を良く思い出してくれないか?」
ロイの言葉に、言われた言葉を一つ一つ思い出してみるも、エドには良く分からなかった。
ピンと来ない様子の彼に、ロイはますます顔を曇らせる。
二人の間にしばしの沈黙。
それを破ったのは、焦れてきた部下だった。
新しいタバコを再び咥えなおしたハボックが、ロイに尋ねる。
「准将―――――俺達にも分かるように説明してもらえませんか?いったい、なんていったんスか?」
「・・・・・・・」
「准将?」
「・・・・・・・・こんな所で、言い直すとは思わなかったが・・・・・・・仕方ない」
不本意そうに顔を歪めたロイだったが、諦めたように一つ息を吐き。
そして・・・・・・・ちょっとバツが悪そうに、言った。
「私が言ったのは・・・・・・『目的を果たし終えたら、君の残りの人生を私にくれないか?』だ」
「「「「「「 えっ!? 」」」」」」
「・・・・やっぱ、間違ってねえじゃねえか!」
エドは聞いた科白に、自分の記憶違いでなかったことがわかり、憤慨したように頬を膨らませた。
「やっぱ、どう考えても・・・・代価にこき使うって意味しかにしか聞こえねぇよ!なぁ、皆?!」
勢いつけて他の面々に同意を求めたエドだったが、皆一様に複雑な顔をしている。
「いや・・・・・・というよりは・・・・・・なぁ?」
「ええ・・・・・王道って言えば、王道な科白ですね」
「というか、エド相手にそんな遠まわしな科白じゃ通じないのも仕方ないとおもわれますが?」
「そーだよな。准将らしくない失敗っすね?タラシの腕、落ちました?」
「お前達・・・・・・・・」
言いたい放題の部下達にロイは手袋を嵌めた手を振り上げる。
皆一気に後ずさったとき、ホッと息を吐いた音が聞こえた。
「なぁんだ・・・・・・そうだったんですか・・・・僕、てっきり」
「アル?」
「ああ、そうなんだ。・・・・・・誤解されているとは思わなかったよ」
苦笑しあうロイとアル。
他の面々も皆分かっているようだし・・・・・・・
ずっと黙っているリザも理解しているようで、先ほどの冷気を収めている。
当事者である自分だけがわからないのに、エドはイラついた声をあげた。
「なんだよ!!さっぱりわかんねーよ!!」
「・・・・・・・・・・・・プロポーズだったんだよ」
「・・・・・・・は?」
「だからっ!!君に結婚を申し込んだんだと言っている!!!」
しばしの沈黙の後、エドは皆が耳を塞ぐほどの絶叫を上げたのだった―――――
「え・・・・・・・・・・・ええええええっ!!!???」
『約束・2』終わり・・・3に続く
エドにはもっとストレートに申し込むべきです(笑)