*この小説は『アイドル!?』後の話になります。そちらの方を先にお読みになることをお薦めします。
ここは東方司令部の司令官執務室。
旅先で呼び出されて、とんぼ返りさせられ・・・・・・・・・・
イライラした気分で入室すると、エドの機嫌とは正反対のご機嫌な大佐殿が待っていた。
自ら茶を入れて勧めるばかりか、エドの好物を茶菓子に用意しているほどのサービスぶり。
だが、エドはニコニコと茶を勧める上司に、不機嫌さも隠さずぶっきらぼうに言った。
「んなことよりさ・・・呼び出した訳、聞かせろよ?」
ここを前回訪れたのは一週間ほど前。
その時に・・・・・・・・・まぁ、いろいろあって『大佐とオレが付き合っている』との噂が広がってしまった。
広がりに広がり、軍部全体に浸透したらしいその噂を払拭する為・・・・・
大佐と話し合った結果、オレは『しばらく東方司令部には近寄らない』事にした。
そしてその提案をしたのは、他でもないこの目の前の男の方からだったのだ。
それなのにたった一週間で呼び戻すとは、どういう了見か?
鬱陶しい噂から離れられたと思っていただけに、苛立ちが増す。
――――不機嫌もあらわに、エドはもう一度ロイを睨みつけた。
取り付く島もなさそうな態度に、ロイはやれやれといった感じで肩をすくめた。
そして、エドの向かいのソファーに腰を降ろすと、優雅に足を組んでから切りだした。
「じゃあ、早速だが本題に入ろうか?」
「おう」
「実は、私と結婚して欲しいのだが」
『理想の結婚』
その1 ”共犯者”・・・1
にっこりと微笑むロイに、エドは一瞬キョトンとしてから―――――破顔した。
「なーんだ、プロポーズかぁ!・・・面倒な任務を押し付けられるのかと思ってヒヤヒヤしたぜ?」
「ははは、いつも私が面倒な任務を押し付けてるような口ぶりだなぁ」
「実際そーじゃねえか?」
「酷いな。・・・・・・・・ところで、返事は?」
「いいぜ。オレ、告白するほど大佐の事アイシテルらしいし?」
「そう言えばそうだったね。―――嬉しいね、きっと幸せにするよ」
「これで噂を否定する手間が省けたなぁ?」
「ああ、全くだ」
見詰め合って、あははとひとしきり二人で笑いあってから・・・・・・・・・・・
エドはピタ、と笑いを収めて、またぶっきらぼうな表情に戻った。
「冗談はさておき・・・・・本当はなんなんだよ?」
「いや、冗談じゃないんだがね?」
「は?」
「だから・・・冗談ではなく、本気で君にプロポーズをしているのだが?」
なんでもないことのようにそう言うロイをエドはしばしぽかんと見つめてから、呟いた。
「・・・・・・・・・・・アンタも変態の仲間だったなんて、知らなかったぜ・・・・・・」
「失礼な。私はいたって健全!ちゃんと成熟した20代の女性の方が好きだよ」
「ならなんで・・・?噂が酷くて自棄になっちゃったとか?」
「別に自棄をおこしているわけではないが?」
「じゃあ?・・・・・・まさか、アンタ『君は特別だ』とか、気色の悪いこと言うつもりじゃあ・・・?」
青い顔をして恐る恐る見上げてくるエドに、ロイは憮然とした表情で冷ややかに言い放った。
「言うわけなかろう?」
別に君を愛している訳じゃない。
そうキッパリ言い放つロイに、微妙にむかつきつつもエドはホッと胸を撫で下ろした。
「じゃ、なんなわけ?」
「君と結婚しなければいけない理由が出来た」
「はぁ?理由って??」
「話せば長いんだが・・・・・」
「簡潔にしてくれ」
相変わらずな上司を上司とも思わぬ物言いに苦笑しながらも、ロイは説明しだした。
「まぁ、簡単に言うと・・・・・大総統の思し召し、だ」
「あ?」
「つまりだな、大総統が私に『そろそろ身を固めたらどうだ』とおっしゃるんだ」
「何で大総統がアンタの身持ちを心配すんだよ?」
「仲人・・・・・・・したいらしい」
「はぁ?」
「先日ご友人の娘の縁談をまとめたらしくてな。
自信をもたれたというか、なんというか・・・・・・・・・・・早い話が、味をしめたらしい」
「――――――――――傍迷惑なオッサンだな」
「全くだ」
ロイはエドの言葉に深いため息と共に同意する。
だが、エドはそれ以上同情するつもりはないらしく、どうでもいい風に投げやりに提案した。
「んでも、よかったんじゃねー?アンタももうすぐ三十路だろ?そろそろ家庭、持ってみれば?」
「私はまだ結婚などするつもりはない!」
「なんで?アンタの場合、相手が見つかんないなんてことねーだろ?」
「もちろんだ。その気になれば今すぐにでも20回は軽く結婚できるほど、当てはある」
「・・・・・ハボック少尉が聞いたら泣きそうなセリフだな。・・・じゃあ、いいじゃん?
オレにふざけたプロポーズなんてしてないで、さっさと何回でも結婚しろよ?」
「言ったろう?私は家庭など持つつもりはないんだよ!
・・・・・・・・それに、閣下は私に『紹介したい女性がいる』と仰るんだ」
しかも、それは大総統夫人の親戚筋の女性だという。
ロイの言葉に、エドはやっと合点が行ったと言った風な顔をした。
「・・・・・・・はーん、なるほどね」
もしかして、オレ・・・見合いぶち壊し要員?
エドはしれっとそう言って、肩をすくめた。
大総統からの縁談となれば、ロイの方から断るのは難しいだろう。
破談にしたいと思えば、向こう側から断ってもらうしかない。
が、幸か不幸か・・・・・・・ロイは、異常に女性受けがよい。
相手の女性の方の好みがどんなものか分からないが・・・・・・・・
地位や容姿など考え合わせると、認めるのはなんだか悔しいが・・・断られる可能性は低いのだろう。
となれば、こちらから嫌われるように何か画策しておいたほうが無難だ。
それで、オレに白羽の矢が立ったというわけか。
どんな女性でも、さすがに『同性の恋人』が乗り込んでくればドン引きすること間違いなし。
――つまりは、見合いの席に行って『オレのことは遊びだったのか!!』とかやって欲しいのだろう。
そう言ってみると、ロイは首を横に振った。
そうだと確信していたエドは、キョトンと目を見開いた。
「え?違うの??」
「話は最後まで聞きなさい・・・・・私は君に『結婚してほしい』と言っただろう?
まだ、この話には続きがあるんだよ」
ふう、と。
ロイは、女性なら一発で落ちてしまいそうな悩ましげなため息をひとつ付いてから、
続きを話しはじめた。
「何度も言うようだが、私は家庭を持つ気などない。
閣下から話があった時、これは返事を先延ばしにするとますます断れない状況になると思った。
だから、その場でキッパリと断ったのだよ・・・・・・・・お怒りは覚悟の上でね」
「へぇ、で・・・・・機嫌を損ねたのか?」
「いや、ご機嫌をそこねるようなことはなかったのだが――――その代わり、
『まだ結婚する意志が無い』と言った私の言葉を、大総統は違う意味で捉えられたらしい」
「違う意味?」
「つまり閣下は、私が拒否した理由を『私に心に決めた者が居る為だ』と、そう解釈されたんだ」
苦々しげに、ロイはその時の状況を話し始めた。
今回もお茶目な大総統に少しかき回してもらいます(笑)