大総統室の豪華なソファーに腰を下ろして、大総統の話を聞いていたロイは、
問い掛けられた言葉に、意を決したようにひとつ息を吸ってから答えた。
「申し訳有りませんが、私はまだ家庭をもつ気はないのです」
大総統直々の縁談。
野心があるものなら、相手がおかめだろうがひょっとこだろうが、喜んで受けそうな話だが、
元来『家庭』を持つつもりが無かったロイは、速攻で断った。
断った、が。
やはり大総統の機嫌はあまり損ねたくない。
その結果―――――
折角の大総統のお申し出をお断りするのは大変心苦しいのですが・・・とか、
私はもっと軍のために、粉骨砕身して働きたいと思っておりまして・・・とか。
――――なるべく大総統が気を悪くしないように、ロイはずらずらと言い訳を並べ立てた。
それを止めることもなく聞いていた大総統だったが。
「わかった」
「おわかりいただけたのですね!?」
「君には、心に決めた人がいるのだな!!」
合点がいったとばかりに、大総統は深く頷いたのだった。
『理想の結婚』
<その1 ”共犯者”>・・・2
『わかってない(涙)』
そう涙しながらも、ロイは更に言い募ろうとしたが――――大総統は言葉を続ける。
「そうかそうか。それならば断られるのも致し方ない」
本気でそう思っているのか?・・・・・・・・・・・・・・・はたまた、嫌味なのか。
”それならば”を強調しながら頷く大総統に、ロイは顔を引きつらせる。
食わせ者の大総統は、相変わらす飄々とした様子で更に続けた。
「で、相手は誰なのかな?私が知っている者かね?」
「いえ、本当に私には心に決めたものなどいるわけではなく・・・・・」
「もしや・・・・・言い辛い者なのか?――――まてよ」
大総統は自身の記憶を辿るように、目を細めて顎に手を当てた。
「そういえば・・・・・先日君の噂話を聞いたばかりだった。
―――――――君が、鋼の錬金術師と並々ならぬ間柄だ・・・・・・と。」
「!!」
その科白にロイはギョッとした。額に汗が浮かぶ――――
「君と鋼の錬金術師が恋仲だなどと、下らん噂だと思っていたが・・・・・なるほど、そうか」
「いえっ、閣下!!その噂は根も葉もない噂でして・・・・・っ」
「ああ、隠さずともよい。―――私自身はノーマルだが、理解はあるほうだと思うよ。
それに、力にもなってやれる。早速同性でも結婚できるように法改正をしよう。
彼は確かまだ15だったか・・・ふむ、ならば婚姻可能な年齢も下げねばなるまい」
勝手に決め付けて話を進めていく大総統に、ロイはさすがに焦る。
だが、否定しようとしても彼は聞く耳持たず・・・・・どんどん話が進んでいく。
「君に私の見つけた女性を勧められなかったのは残念だが、そういう事なら仕方ないだろう。
せめて、君たちの結婚式には、立会人をさせてはくれないか?」
「はぁ・・・ですが、大総統!!」
このまま流されてはマズイ。
ロイが必死に弁明しようした時、彼はにっこりと笑った。
「私が立会人となれば、祝いを用意してやらねばなるまいな」
「は・・・・・?祝い、ですか」
「何が良いか・・・・・・そうだな。
同性と結婚したとなれば、表向きは私が立ち会うと言うことで大丈夫だろうが、
何かと敵が多い君の事だ、裏では色々と叩かれる事だろう。
新婚当初からトラブル続きでは”花嫁”も気の毒だし―――――
よし、ここは私からの祝儀だ。君を昇進させてやろう!」
「はっ!?・・・・・・・・昇進はありがたいのですが、しかし――――」
”昇進”の二文字に少々ぐらつきながらも(笑)やはりロイは断ろうとした。
が、続いた大総統の言葉は――――
「君を目の敵にしているのはハクロ君辺りか?
彼は少将か・・・・・・・・・・・・・・・・・ふむ。じゃあ君も少将にしてやろう」
・・・・・・・・・・・・・・・少、将?
「ああ、心配しなくても、ちゃんと『君の能力』を考えた上での昇進だ。
君ならば、その地位に恥じない働きをみせてくれるだろう?マスタング大佐」
呆然と言葉を失うロイに、『私は、本気だよ?』とわざわざ付け加えて。
大総統は表向き好々爺のように、しかしロイからみれば悪魔の微笑で笑った。
「どうかね、マスタング君。私を君たちの結婚式に立ち合わせてくれるだろうか?」
交差する視線。
心の中では『そんな、無茶な!!』と叫びつつも、
ロイの頭脳は瞬時に、状況を把握。そして、計算する。
そして、僅かな”間”の後、立ち上がったロイの口から出た言葉、
それは――――
「お心使い感謝致します、大総統閣下!」
で、あった。
そしてロイは、いっそ清々しいほどの笑顔で、ピシッと敬礼して見せたのだった。
この展開にしたくて、『アイドル!?』を書いたのでした・・・
ホント、むちゃくちゃな!!とのお声が聞こえてきそうですが・・・・・;
ぜひとも、この話は『大らかな心』でお読みくださいませ。(平伏)