「と、いう訳で・・・鋼の、私と結婚してくれ?」


説明を終えて・・・・・・
にこやかに、そして優雅に片手を軽く差し出す男に、エドは俯いた。

「どうした、感動で声もでないのかい?俯いたりして・・・・・恥ずかしいのかな?」

無理からん事だ。なんたって・・・どんな理由であれ、『この私』のプロポーズを受けたのだからな。
どんな娘も令嬢も・・・ついでに『豆』も、嬉しさに言葉を失い、赤面するのは当然。
『私も罪な男だ』―――と沈痛な面持ちで首を振る男に、エドは俯いていた顔をグイッと上げた。


「んな訳、あるか〜〜〜〜〜〜〜〜!!しかもさり気に『豆』呼ばわりすんじゃね〜!!!」


怒号が響くのと鉄拳が空を切る音と共に振り下ろされるのとは、ほぼ同じくらいだった。



『理想の結婚』 <その1 ”共犯者”>・・・3



だが、怒号の次に聞こえたのは、悲鳴でも断末魔の叫びでもなく――――スカした声。

「君・・・その短気、もう少し何とかしたまえよ?」

クリティカルヒットをかます筈だった拳を受け止められ、ギリリとエドは歯噛みする。
一応、上官なので生身の左手で許してやろうなどと、仏心が頭を掠めたのが災いしたらしい。

「気をつけたまえよ?未来の夫の顔を陥没させてどうするつもりかね?」
「誰が、夫だ!!オレがそんな茶番に付き合うわきゃねーだろ!!」
「それは・・・・・・・・・・・・もしかして断られたのだろうか?」
「他にどういう意味があるってんだ!?」
「ふむ・・・・・今まで交際を申し込んで断られたことなどなかったのだが、結構傷つくものだなぁ?」

やっとハボックの気持ちがわかったよ。今度は奴をもう少し優しく慰めてやるとしよう―――
未だこちらの拳を握ったまま、片手を己の胸に当ててわざとらしく悲しんでみせるロイに、
再びエドの眉間に怒りマークが浮かぶ。

「そりゃ―、結構なこった!!」

受け止められた拳はそのままに、体を捻ってサイドからわき腹の辺りを狙って蹴りをお見舞いする。
が、ロイの胸に当てていた手が動き、それも受け止められてしまった。
エドの片手・片足を受け止めたまま、ロイは呟く。

「困ったなぁ・・・・・断られるのは予測範囲外だったんだが」
「どう考えても予測範囲内だろうが!!」
「さてどうしよう?・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな、こんなのはどうだろうか」

その科白とともにぐいっと足を高く掴み上げられて、エドはバランスを崩す。

「うわっ!?」

倒れこんだのは、先ほどまでエドが座っていたソファー。

足をぽいっと離して。
空いた手で、今度は右手を押えて。
蹴りがこないように、足を割って小さな体に体重を掛けて圧し掛かる。

「なっ!?」

押さえ込まれ、間近に迫った顔に、目を見開いてうろたえるエド。
そんな彼に、ロイはニタリと笑って見せた。

「既成事実を作って、強引に結婚に持ち込む――――とか?」
「な・・・・・・ば、ばかいってんじゃねぇ!!」

更に顔が近づいて、触れそうなほどエドの耳にロイの唇が近づく。

「馬鹿とは酷いな・・・・・・・・・・・・・・エドワード?」

『つっ!』
その、腰に響くような艶のある低音に、思わず身を震わせるエド。
それを目を細めて眺めてから、更にロイは囁いた。

「確かに、君は男の子だし・・・女性より効果は薄いかもしれないね?それに――――」



―――残念ながら、私は『そっちの気』がまったく無くってねぇ?――――



『へ?』

そのゾクリとするような声色を、目をぎゅっと瞑る事でやり過ごしたエドは、
言葉が終って少ししたってから、耳に吹き込まれた言葉の意味を考えた。

”その気”が無い・・・・・・ってことは。
恐る恐る目を開けてみると、目の前にはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべる男。
途端、カァッと顔中を赤くして、エドは暴れだした。


「こっの・・・・・・・・クソ大佐〜〜〜〜〜〜!!!」


からかわれたことに気づいて、怒りのままに手を振り解こうとするのだが・・・・・
如何せん体格差がありすぎて、抜け出すには至らない。
歯噛みするエドを尻目に、ロイは楽しそうに笑った。

「ははは、少しスリリングだっただろう?」
「ふざけんな!!」

ますます怒り狂うエドに意を返す事もなく、ロイはニコニコと話を続ける。

「そう怒らないでくれたまえよ?
君がちゃんと話を聞いてくれそうにもなかったから、ちょっとジョークで場を和ませただけだろう?」
「あんなので和むかっ!!さっさと、オレの上からどきやがれっ!!」
「退きたいのは山々なんだが、このまま退いたら確実に殴られそうな気がするんだが?」
「ったりめーだ!!」
「殴られるのはごめんだし、じゃあもう少しこのままで話をするとしよう」
「てめぇ・・・どこまで底意地悪いんだ!!」
「まぁまぁ、話ぐらいは最後まで聞いてくれ。この話、私だけでなく・・・・・
君にとってもメリットがあると考えたからこそ、こうして持ちかけてみたのだよ。つまり――――」
「ストップ!!」

散々暴れていたエドだったが、ピタ。と動きを止め、
ロイの言葉に静止を掛けて―――――――――――ため息を付いた。

『こっちだって”そっちの気”は、微塵もないけど・・・・・』
でも・・・・・・・この巷で有名な”エロい声”を間近で聞かされるのは、どうにも落ち着かない。
このまんま話を続けられんのは、さすがにごめんだ―――――
エドはしぶしぶながら譲歩することにして、提案した。

「・・・・・・・殴んねぇから、とりあえずのいてくれ」
「おや、珍しく聞き分けがいいね・・・・・・もしかして、感じた?」
「〜〜〜〜〜〜っ、アホかっ!!テメーの体重考えろ、重いんだよっ」

ギロリと睨んでくる琥珀を楽しそうに眺めてから、ロイはやっと拘束していた腕を放し、起き上がった。
解放されたエドも、心中で密かにホッと息を吐いて座りなおす。

―――そして、二人はソファーに二人で並ぶ形で座って、お互いに視線を向けた。


「とりあえず 『話だけ』 は聞いてやる」


聞かせろよ、そのメリットって奴をさ?

腕組みして睨みつけて来るエドに、ロイはクスリと小さく微笑んで。
そして、話の続きを切り出した―――――




この回、私の萌え的には必要だったのですが、
ストーリー的には、大して必要なかった気がします(笑)・・・・・・すみません、腐れてて。


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