「言っとくけど、オレもんのすごく忙しーから。とっととサクサク説明してくれ」


憮然とした様子でエドはむっつりと不機嫌さも露に、口を尖らせてそう言い放つ。
そんなエドにロイは大げさに肩を竦め、やれやれと言った態度で彼を見つめた。

「君の一生を決めるかもしれない大事な話だというのに、もう少し熱心に聞く気にならんものかねぇ?」
「―――”一応 ”話だけは聞いてやるが、早く聞き流してとっととここからおさらばしてぇんだよ」
「いつにもましてつれない言い方だね・・・・可愛いらしい容姿とちっとも合っていないよ?残念な事だ」
「だぁれが、口汚いチビスケだって!?」
「そんな事誰も言ってないじゃないか?やれやれ、せっかちな事だ。・・・では説明するとしようか」


君にとっての『メリット』をね?


楽しそうにクスリと笑って。
今にも噛み付きそうな勢いで睨みつけてくる蜂蜜色の瞳を面白そうに眺めてから、
ロイは、エドにとっての”メリット”を話し出した。



『理想の結婚』 <その1 ”共犯者”>・・・4




「まず第一に――――言うまでもなくわかるとは思うが、
私の階級があがるという事は、今まで以上にレベルの高い軍内部の情報が手に入るという事だ」

将軍職ともなれば、知りうる情報の量も質も違ってくる。
それを、君にも提供できる。


「しかも、私が少将になれば軍人の国家資格者の中で最も上の階級を持つ事になる」

統括しているのは大総統府だが、効率良く国家錬金術師を使うには専門的な知識が要る。
実際、いままでも・・・どの国家錬金術師をどう動かすかを決定していたのは、
軍人の国家資格者の中で一番階級が上だった准将でね。
先日彼が殉職したばかりだから、とりあえずその位置が宙に浮いているんだ。
私が少将になれば、その役が回ってくる可能性は十分にある。
そして、私がその役に着くことが出来れば―――君にとっても、都合がいい結果をもたらすだろう。


「そして将軍の『妻』としての地位」

いままでは君も年若いし、やっかみ半分の不快な言葉を寄越される場合もあったと思うが、
結婚すれば『将軍の妻』裏では変わらないだろうが、表向きは今までより静かになるだろう。
そして、この前までの君の悩み・・・・・群がるファンのストーカー攻撃も治まるだろう。
『将軍の妻』に表立ってアプローチできるような勇気があるものは、そうはいないだろうからね?


ロイはそう言って、ウインクして見せた。


そんなロイを、エドは未だむっつりとした表情のまま見つめていた。
無言のまま、今ロイが言った事を考える。



確かに、悪くない。



軍から出る情報は貴重なものだ。
よりレベルの高い情報が得られるというのは、何よりも嬉しい。
おまけに、コイツが国家錬金術師の頂点に立てば、
理不尽な仕事依頼は減る・・・・・・か、どうかよくわかんねぇけど、
(かえってコイツに都合よく使われたりするかもだし)
でも・・・・・・戦場に送られるリスクは、減るのかもしれない。
そして、嫌味なジジイや、鬱陶しい付きまとっていた変態達を一掃できる。

そう考えると、確かにオレにもメリットはあるようだ。
あるようだが、しかし・・・・・・・・・・


『コイツの伴侶・・・・・・』


ず〜んと、その事実が重く圧し掛かる。
好条件・・・特に、元に戻る為の情報は喉から手が出るほどほしい!!
が、例え『仮』だとしても・・・・・この男の伴侶。
しかも『妻』とはっきり言っているところをみると、どうやらオレが女役らしい。



『このオレが・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫁?』



うがぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!

突然雄たけびを上げながら頭を掻き毟るエドに、ロイは一瞬驚いたように目を見開いて。
だが、彼が何に葛藤しているかを察して、クスリと苦笑した。

―――――彼は、美しい容姿のせいで『アイドル』と男性兵士達に祭り上げられ、
まるで女性が受けるような扱いを奴らから受けてはいるが。
彼の『中身』は容姿と違って、かなり男らしい。
しかもまだ子供――――特に、恋愛関係はお子ちゃまレベルな彼なので、
自分の結婚に関する予定が狂うとか、女性にもてなくなるなどと心配しているのではなく、
単純に、自分が『本来なら女性の位置』に着くことに、抵抗があるのだろう。
かといって、私が妻の位置になるわけにも行かん。(というか、絶対御免だ!)


『ふむ・・・・・もう一押しか』


これは、できれば使いたくなかったんだがな・・・・・
小さくそう呟いてから。
一呼吸おいて、もうひとつのメリットを口にした。


「もうひとつ、君が私と結婚した方がいいと思われる事があってね」
「・・・・・・んだよ?」
「―――――――アルフォンスのことを不審に思っている者が軍にいる」
「!?・・・なんで!!」

その言葉で、俯いていたエドがバッとロイの方を振り向く。

「君、近頃誰かに弟の鎧の中が空なのを見られただろう?」
「っ・・・・・・・・・・・・・先月、西部で。車に轢かれそうになった子供をアルが助けたんだ。
子供は助かったけど、そのとき頭が取れて――――すぐに戻して、その場は離れたんだけど」
「その事故を見ていた者が軍に通報したらしい。普通なら『ふざけるな』と一蹴されるんだろうが、
―――生憎、それを聞いた西部の司令官が興味を持ってしまった」
「で・・・・?」
「彼は私に問い合わせてきたよ。
もちろん誤魔化してはおいたが、納得した訳ではないのがありありだった。
・・・・・何かの折に突付いてくる可能性は十分にある」

そう言うロイを、エドはじっと見つめた。

「――――そいつの階級は?」
「准将だ」
「・・・・・・オレがアンタと結婚すれば、アンタはそいつより階級が上になる―――ってことか」
「その通りだ」

ロイも真顔で頷いて、更に言葉を添える。

つまり―――私が少将になれば、アルフォンスは『少将の妻の弟』。そう簡単には手を出せなくなる。
しかも、私たちの結婚式には大総統が立会人として参列してくれる。
あの方にとっては単なる悪戯心であったとしても・・・・・周りはそうは思わない。
私たちのうしろには大総統がいる、と・・・そうこちらに都合の良い解釈をしてくれる筈だ。
そうなれば、ますます弟のことを追及するなど出来なくなるだろう。

「そうか・・・・・」
「念のために、私が手を回してそいつを追い落としてやってもいい。我々に近づけないようにね」

ロイはそう言って・・・・・・また、ニヤリと笑って見せた。

「――――君にもいろいろ考えるところがあるだろうから、少し時間をやろう。
大総統がお待ちなのでそう長い時間はやれないが、まぁ二・三日なら・・・・・」
「そんなにいらねーよ」

エドはロイの言葉を遮って、キッパリと言い放つ。



「オレ、アンタと結婚する」



決意をした瞳で見上げてくるエドを、ロイはじっと見つめる。

「・・・・・いいのかい?そんなに簡単に決めて」
「良いも悪いもあるか。秘密がバレる可能性を封じられるってんなら、迷う事なんかないだろう?
オレ、グジグジ悩むの嫌いだし」
「――――それでこそ、『鋼の』だ」

ロイはそう言ってフッと笑うと、手を差し出した。

「では、交渉成立ということで」
「待てよ」
「何だね?」
「確かにアンタと結婚するのはオレにも都合がいい。だから了承するのはかまわないが、
―――――ただし、一つだけ条件がある」

突然のエドの言葉に、ロイは怪訝な瞳を向ける。

「それは?」

そう問うと、彼は挑むようにじっとこちらを見つめ、そして口を開いた。



「結婚するなら―――――オレを『愛して』くれ」



しん、と。
エドの言葉の後、しばし執務室は静寂に包まれた。




男らしく即答!
・・・・・・でも、条件付のようです(笑)


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