「兄さん!大ニュースだよ!!!」
セントラルに滞在していたエルリック兄弟。
査定を終え、エドワードが宿で休んでいると、突然アルフォンスが駆け込んできた。
「どうした、アル?」
珍しく慌てたように、大声を出すアルフォンスにエドワードは首を傾げる。
穏やかで、弟ながら自分より落ち着いた性格のアルが、こんな風に騒ぐのはめずらしい。
ガシャと音を立てて、ベットに座るエドの前に、アルは立った。
「あのね、プライス卿のコレクションが閲覧できるチャンスが出来たんだ!!」
「え?あの、蔵書コレクションで有名な?!」
レックス・プライス。蔵書のコレクションで有名な貴族である。
膨大な量の蔵書を持ちながらも、個人所有なため、今まで閲覧するチャンスなどなかったのだ。
「何処で聞いてきたんだ?」
「大通りにあるブティックのお姉さんだよ。ほら、この前猫引き取ってもらったでしょう?」
前にここを訪れた時、例によってアルが猫を拾い、飼い主を探していた時に知り合ったのだ。
ブティックを経営する30代くらいの女性で、快く猫を引き取ってくれた。
アルは自分が査定に行っている間、その猫がどうしているか様子を見に行ってきたのだろう。
そこで、その女性に情報を聞いたらしい。
「なんかね、息子の誕生パーティみたいなの開くんだって」
パーティを開く時は、いつも招待客にのみ書庫も開放しているという。
「うわ、行きたいな。滅多にないチャンスだ!」
「でしょ?!」
卿は自らも錬金術師で、錬金術の本を沢山所有していると噂の人物なのだ。
「でもさ、どうやって潜り込むんだ?」
知り合いでもないのに、勝手にパーティになど入れないだろう。
「それがね・・・今回は招待客以外の人も入れるんだって!!」
「マジ?!」
「だけどさ・・・入れる人の条件があって・・・・」
「どんな条件だ?!」
「20台前半位までの、女性だけなんだって」
「・・・・・・それじゃあ無理じゃん」
事が事だけに、誰かに代わりに行ってもらうわけにも行かない。
どの本が重要か、どれが必要かなど、錬金術の知識がなければ見分けることなど出来ない。
その辺の女の子に頼んでどうにかなるものではないのだ。
「方法はないわけじゃないと思うんだ・・・・」
「?どうやって・・・・」
「思うんだけど・・・・・兄さんって、容姿的に結構可愛いよね?」
「だぁれが、豆粒ドチビ・・・・・・!!!って、え??」
ニッコリと笑いながら言うアルの台詞に、
いつも通り両手を振り上げ怒りのポーズを取ったエドだったが・・・・・・
はた、と途中で聞き返す。
今何て言った?
「いつもの格好でも、たまに女の子に間違えられるでしょ?」
「・・・・・・・」
「ドレスとか着れば、絶対バレないと思うんだ!」
「・・・アル、つまりお前はオレに・・・・・」
「女装しろって言ってのか!?」
青筋を浮かべて、怒鳴りながら立ち上がったエド。
でも、アルは怯むことなく答えた。
「うん!」
にこやかに即答されて、エドは脱力して床の上に手をつき、へたり込んだ。
「だって、兄さん!!こんなチャンス滅多にないよ?!」
以前、噂を聞いて屋敷を直接訪問したこともあるのだが、門前払いだったのだ。
忍び込むにしても、やたら警備の厳しい屋敷だし、
軍の上層部にコネもあると噂の人物なので、めったなことは出来ない。
そこに堂々と入れるチャンスなのだ、アルが色めきたつのも分かる。
・・・・わかるが、しかし。
簡単に 『うん』 とは言えない。
「ね、兄さんお願いだよ!そこに重要な文献があるかもしれないじゃないか!!」
「そりゃあ、そうだけど・・・・・」
頭では理解できるが、心情的に受け入れられない。
何しろ、小さい・女の子に見える・・・っていうのは、エドのコンプレックスでもあるのだ。
うんと言わない兄に、アルは諦めたようにため息をついた。
「そうだよね、兄さんにそんなことさせられないよね・・・」
「アル・・・・・」
「もしかして、そこに賢者の石への手がかりがあるとしても、嫌なものを無理にってのは良くないよね」
ズキン
アルの言葉が痛い。
何しろ、エドは弟にめっぽう弱い。
禁忌を犯して、彼の体をこんなにしてしまったという負い目もあるが、
それより何より、エドは弟思いの兄だった。
喧嘩もするけれど、根底にはたった一人の家族である、弟への愛情があってのことだ。
その弟からのたっての頼み・・・・・無下にはできない。
「ボクがやれればいいんだけど・・・この体じゃ無理だし」
寂しそうに呟く声を聞いた時には、もう白旗だ。
「わかったよ・・・・・オレがやるから」
「ほんと?!本当にいいの?」
弾んだ弟の声に、苦笑しながら頷く。
少々男としてのプライドが邪魔をするが・・・
元々、元の体に戻る為には、なんでもやる!!と誓ったのだ。
『女装ごときで、へこたれてる場合じゃないよな?!』
エドは、そう自分に言い聞かせた。
「ありがとう!兄さん大好き!」
アルはエドに抱きつくと、すぐに体を離し、その腕を引っ張った。
「じゃ、行こう!」
「行こうって・・・え、今日なのか?!」
「うん、今夜6時から!」
「6時って・・・後2時間しかないじゃないか?!服とかどうするんだ?!」
「大丈夫、その辺は話し付けて来たから。お屋敷までは、タクシー使えばそんなにかからないしね」
「話って・・・・誰に?!」
「とにかく時間無いから、着替えしながら詳しいことは話すよ!」
アルは、兄をひょいと抱え上げると、走り出した。
「ちょ、ちょっとまて〜〜〜!!!」
エドの叫びが、宿の廊下に響き渡った・・・
『シンデレラの夜・1』
性懲りもなく始めてしまいました・・・・連載(苦笑)
微妙にエドアル?!
いえ、うちのはただの兄弟愛です!!・・・たぶん(笑)